これまで2回にわたり、「仮説とはそもそも何か」ということについて簡単な分類を交え、解説してきました。今回と次回は、これを推し進め、仮説を持つことの意義について考えていきます。
メリット1:検証マインドの向上と、それゆえに高まる説得力
仮説を持つことのメリットの一つは、意思決定の精度や他者に対する説得力が増すということです。これは、仮説を立てるということは、立てた仮説を検証する作業が必然的に伴われるためです(逆に言えば、検証を伴わない仮説は、単なる無責任な当て推量に過ぎません)。
例えば、「A事業に参入すれば儲かるはずだ」という仮説を立てたとしましょう。仮説検証というプロセスを意識せずに漫然とその事業に参入してしまっては、成功するも失敗するも神の思し召しということで、全くのギャンブルになってしまいます。仮に数回運良く成功したとしても、次に成功するかどうかは、またギャンブルです。これでは、科学的な企業経営において最も重要な、再現性が保証されないのです。
上記の例であれば、自分自身の納得度を高め、また他者に対する説明力を増すために、最低でも、市場性、競合の動き、自社の強みが活かせるか、といった点について情報を集めることになるでしょう。もし、市場性が十分で、競合も強いところがおらず、自社の技術が十分に活かせるとなれば、当初の仮説はかなり妥当性が高いといえるでしょう。
なお、この検証方法を見てお気づきのように、ビジネス推進仮説の検証では、科学的仮説とは異なる検証方法をとります。後者が、「この仮説が正しいならば、このような実験結果が得られるに違いない、あるいは、このようなサンプルを観察すれば、このような事実が観察されるはずだ」という形で仮説を検証するのに対し、ビジネス推進仮説では、実験やサンプルの観察という手法が絶対的に必要というわけではありません。
ビジネス推進仮説の検証は、上記に示したように、関連する状況証拠をよりたくさん集めるなかで、その妥当性を高めるというやり方をとります。その上で、実際に意思決定をし、ビジネスを走らせながら、同時に実験的な検証もするという方法をとることが多いのです。
なぜこの方法が有効なのかについては、別途ご説明したいと思いますが、皆さんも考えてみてください。
メリット2:関心、問題意識の向上
仮説は、急に降って湧いてくるものではありません。皆さんも、ある日いきなり関心のない分野について、「君はどういう仮説を持っているかね」と問われても困るでしょう。私の場合であれば、例えば「来年はどんなお笑い芸人がブレイクすると思う?仮説はあるかね」と聞かれても、全く関心がない分野なので答えようがありません。まあ、この例であれば、自分の仕事と関係があるわけでもないので、仮説がないことによるデメリットはありませんし、それによって非難されることもないでしょう。
ところが、これがもし「これから2、3年でどんなビジネス書がブレイクするか、仮説はあるか」と聞かれて答えられなかったとしたら、ビジネス書の作り手としては失格と言われても仕方ありません。先に示したさまざまな「状況証拠」は、仮説があるからこそ、漏れなく体系的に集めようとするのです。もし仮説がなければ、証拠は証拠足りえず、単なる事象が散らかっているに過ぎません。そして仮説を生み出すのは、常日頃の関心、問題意識なのです。関心や問題意識がないところに仮説は生まれません。
逆に言えば、常日頃、自分のビジネスに関連して仮説を持つように心がけようとすると、必然的に、さまざまなことに対する問題意識を高めなくてはならないのです。先のビジネス書の例で言えば、これからの社会や企業のあり方、人々の関心、人々の能力、経済状況、ネットと活字のバランスなど、さまざまなものに思いを馳せる必要が出てきます。
このようにさまざまな事柄に関心、問題意識を持つことは、自分のビジネスに対するより深い洞察につながります。また、より高い視点、広い視野から自分自身を見直すことにもつながりますし、さらに、新しい事業機会をいち早く発見することにもつながります。そして、これらは、ジェネラルマネジャーに必須の要件そのものでもあるのです。
皆さんも、ぜひ常日頃、さまざまな事柄に対して関心、問題意識を持ち、自分なりの仮説を持ってください。さしあたっては、思考実験として、以下のお題に対して皆さんなりの仮説を立ててみてください。
「あなたの会社・部門で、いまから5年後の稼ぎ頭商品トップ3はなんですか?」
さて、皆さんはご自身なりの仮説がすぐに立てられたでしょうか?
今回は、仮説を持つことの効果について、2点ご紹介しました。これだけでもその重要性がお分かりいただけたかもしれませんが、まだこれだけではありません。次回に、これ以外の効果についてもご説明しましょう。
写真:素材集EyesPic
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