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武田薬品・長谷川閑史氏×リブセンス・村上太一氏 この国の成長戦略と企業経営

投稿日:2012/12/13更新日:2019/04/09

長谷川閑史氏スピーチ

・まず「成長は本当に必要なのか」、そして「成長のためには」、「日本のサバイバル戦略」という順でお話しする。(1:00)

・経済成長は本当に必要なのか——。日本の累積債務は正確なところは分からないがGDPの約2倍にあたる1000兆円、国民1人あたり850万円と推計される。これは(財政危機に陥った)ギリシャよりはるかに深刻な水準である。かたやGDPはこの20年で1.03倍しか成長しておらず、社会保障費は2.3倍に伸長している。しかも社会保障費は(世代間・世代内格差など本質的な問題に切り込まない限りは)、少子高齢化と共に増え続ける。
これを誰が負担するかというと、一つには社会保障と税の一体改革。つまり社会保障を一部カットし、消費税増税ということになるが、増税分をすべて社会保障に回すことを前提にしても税率17〜18%にせざるを得ない。30%という予測もある。それは非現実的であるし、税率を増やすということは成長しないパイの中でパイの切り口を変えるだけでサステイナブルではないと思われるので、私はある程度、経済成長をしていくべきという論者だ。(1:40)

・では、いかにしてこれに対処(=累積債務を返しながら、増加する社会保障をあがなう)すべきか。やらなければいけないのは、「経済成長」が1つ。それと、社会保障改革、予算編成システムの見直しなどによる「歳出削減」、消費税増税、基幹三税の見直しなどによる「歳入増」。以上3つをバランスよく行う必要がある。いずれが欠けても、問題の根があまりに深いので解決には至らない。
経済成長については、いずれの政権でも成長戦略を描くが、そこで目の覚めるようなものができるというのはもはや幻想である。むしろ描いた成長戦略を、いかに実行担保して、どうフォローアップするかのほうが問題だ。
また一方の、歳出削減・歳入増については、(米ハーバード大学の経済学者アルバート・アレシナ氏や英デーヴィッド・キャメロン首相の弁を引き)削減7・増3という比率での捻出としない限り、なかなか国民の納得は得られず、成功には導けないというのが、言われるところだ。(04:45)

・では日本は、歳出削減・歳入増をするにあたり、そうしたビッグピクチャーを描いているかというと、全く行っていない。相も変わらず、各省庁から出される予算の積み上げの結果でしかなく、経済人にとっても一般の国民にとっても大変に分かりづらく、求められる成長の目的自体、曖昧模糊としていってしまう。
自身の経験を踏まえても、国家的な課題を立法も含め解決しようとすると、各省庁にまたがるものが殆ど。本気でやる気が政府にあるなら、「省庁間の連携を強化して」という美辞麗句や「省庁設置規則法の制限が強すぎる」などの逃げを打ち続けず、重複する業務の予算と人員と権限を一括すべきというのが私の意見である。
また、もう一つの尺度は言われて久しい地域主権。税収は6割が中央、4割が地方、一方使うのは6割が地方、4割が中央。差分を地方交付税として分配しているが、この差分の使用について、やたらと厳しいことを言うわりには、結果をベンチマークする体制はなく、どちらも責任を持たない。長く言われていることであるが、地方交付税は基準を明確にしたうえで自治体に自由に地域振興に使わせ、うまくいったところには更にインセンティブを与え、いかなかったところには地域の選挙民が実行者の再選択を行う。そうしたメリハリを効かせることで、現状の無責任体制を是正してくべきだ。(08:50)

・経済成長のためには、中・長期の視点では「労働人口の増加」「投下資本の増加」「イノベーションを通じた生産性の向上」というファクターに対応しなければならない。労働人口は1993年〜94年に頭打ちとなっており、投下資本についても海外からの投資のGDP比は先進国内で最低水準。「日本は技術立国・人材立国であり、そこはイノベーションで生産性を上げれば対応できる」という言説もあるが、残念ながら統計などから見るにその力量は今や他先進国と変わらない。海外高度人材の受け入れや女性や高齢者の活用、少子化への対応といった投下労働力増加への策を打つとともに、投下資本の増加・・・これは国内外ともに必要だが、特に海外からの投資を増やすためには、規制改革を行い、市場を魅力的なものとし、ROIが周辺国よりもそん色がなく、また上げた収益に対する法人税も中国、韓国、シンガポールとの数十%ある格差を是正して競争力のあるものとしていかなければ決して、望むべくもない。
短・中期の視点では、幸いにして高い経済成長率を示している周辺国に対し、企業自らが進出していき、或いは官民で協力して彼らの成長、生活レベルの向上を促進し、結果としてもたらされた利益を持ちかえるということを、組織的・制度的にやっていかなければならないが、十分にできていない状況だ。また企業は円高に文句を言わず、これを好機と捉えればいい。リーマンショックや欧州危機の余波も相乗し、海外資産は相対的にディスカウントされており、買収するのにこれほど良いチャンスはない。(14:20)

・最後に「日本のサバイバル作戦」としてキーワードだけあげておく。技術立国、人材立国、教育制度の改革、ダイバーシティの推進、海外からのスキルや知識ある労働者の受け入れ、女性や高齢者労働力の活用。いずれも諸外国との比較において立ち遅れている。こうしたことを当然、一つひとつ片づけなければならない。続きは後段のセッションでお話ししていきたい。(17:10)

長谷川閑史氏×堀義人

堀:日本の再創造に向け、財界としてどう向き合っていくかについて、マクロ的な視点から伺っていきたい。政界再編を前に、これまで財界トップとして国家戦略会議などで政界と向き合われて感じてきた課題と、今回、再編を機会と受け止めた場合、何をしていきたいかを聞きたい。(18:00)

長谷川:本当の改革をしようと思えば、本質的・根源的なところにメスを入れなければいけない。先に申し上げたところの、省庁の縦割りの問題をどう打ち破るか、ということだ。
制度的には小泉政権の時に最も力を発揮した経済諮問会議のような枠組み。法律的に根拠のあるところを作り、強制力を担保したうえで改革をリードすることを試みたものだ。民主党政権においても国家戦略局というものを作ろうとしたが、これは実現せず、法的根拠のない国家戦略会議に留まった。そうした司令塔的なものが必要、というのは当然のことだ。
それと同時に本当の政治主導というのは、先述したように、首相権限で必要に応じて省庁の枠組みを自在に変え、人や金を集中投資できないといけない。周辺環境がドラスティックに変化する中で、「省庁設置法が・・・」などと細則に捉われる現況に甘んじていては追いつかない。ようは、立法府が法律を変えるのを、どこまで本気でやるかだ。中央と地方の関係においても同じで、人材と財源の権限を地方に渡すように法で決める、そういうことをしない限りは、箱モノを作り、そこに利権が絡み・・・という構造問題は解消できない。(21:00)
企業経営については、もはや「首を竦めて待っていれば晴れた日が来るとは思うな」。リスクを取る経営を今こそすべきだ。日本国内だけでやっていても、経済成長では置いていかれる。そういう中で世界の成長をキャッチアップしようとしたら、自分の製品を自分で売るべく出ていくか、自前でできないのであれば買収する。買収する力がないのであれば、クリティカルマスを作るために事業別の再編をする。一口に言えば、韓国にできたことがなぜ日本にできないのか、ということだ。韓国は通貨危機に見舞われた結果として、政府の後押しなどもありコンソリデーション(整理統合)が進んだ、という人もあるが、目に見える危機がなくても自ら変化を作りだせばいい。
その際、前提として大事なのは政治の安定だが、今の状態ではそれは望めない。社長でも1年で何ができるか・・・案を作ったら終わりだ。最低でも4〜5年、1人の首相が計画的に物事を進められる環境が必要だが、その望めない中にあって、企業家はとにかくできることをするほかない。(22:40)

堀:次に向け、これだけは変えたいということを、さらに強く言っていかれるのか。

長谷川:それはある。もともと国家戦略会議の場でも言ってはいるが、(1)再生のための組織は、権限に法的根拠があることが大切ということ。それから、(2)成長戦略と歳出削減・歳入増の優先順位とバランスをとる全体像・・・ビッグピクチャーの作成が必要で、それを前提に予算を作り、省庁に命令をし、という格好でやっていくこと。その2点がなければ従来と同じことになるので、ダメもとで幾度でも言っていく。

堀:(長谷川氏が代表幹事を務める)経済同友会の意義として、一企業では言いづらいことを、総意として言える点があると思う。例えばエネルギー問題や領土問題など、1社が発言すると不買運動の対象になることもある。(27:30)

長谷川:企業の経営者が個人として発言し、その内容をまとめ、提言しているのが経済同友会で、そこは他の経済団体と性質を異にする。政治献金もしていない。だから自由に発言できる一方で、カネが影響力を作るのも事実なので、実行力をどうするかが課題だ。「同友会は良い提言をするが、出しっぱなし」と言われることもある中で、自分が代表幹事に就任してからは「実行する同友会・行動する同友会にしたい」ということでやってきた。ここでは事例は割愛するが、各委員会の活動結果が徐々に花開きつつあるところだ。(28:00)

堀:各委員会の委員長が若返った印象がある。私自身もベンチャーに関する委員会がないことに問題意識を持ち起案したところ、ベンチャー創造プロジェクトチームの組成を認めていただいた。一つ一つのことが動き始めている印象があるし、本日ここにいらした方々も、自身の企業を強くすると同時に、そうした協働にも加わっていただければと思う。(30:00)

長谷川:そこに関連して率直な感想を言うと、経済、産業構造の改革をしなければいけないということで経産省の会議などにも呼ばれるが、参集した顔触れを見ると大企業の方ばかり。落ち着いて考えればすぐに分かるおかしな話で、自分がやったことのないことについて語れるわけがない。本気で新産業を創成する知恵が欲しいなら、起業をし、失敗もし、さらに立ち上げ何か為した人を読んで、何が自分たちを駆り立て、何がプラスに働き、マイナスであったかを実体験から学ばなければいけない。そこを、大企業のトップを呼んで、恐らくは部下がそれらしき資料を作る。官僚がやりたいことをするための“アリバイ作り”と思われても仕方がないところがある。
そこから言えるのは、何を求めるかという目的をはっきりとさせ、それを実行するためにはどういう体制がいいかということを真剣に考えれば、おのずと違う形になってくるということ。すべての面で、そういう意識でやらなければ国民からは本気でやっていると思ってもらえないだろうし、同友会としても反面教師にしたいと考えている。(31:20)

長谷川閑史氏×村上太一氏×堀義人

堀:先ほど日本のサバイバル戦略ということで、「技術」「新規起業」「人材立国」「海外(グローバルな発想)」「女性・高齢者労働力」などのキーワードを挙げておられた。そこから感じるのは、ダイバーシティを重視しながら、世界からの技術や人材が流れ込むダイナミズムを作りだすことが構想にあるのではないか、ということ。そうした点も踏まえ、ここから先は若手も迎えてセッションを進めたい。売上20億、利益10億強の会社を作り、新入社員3年目という年齢・史上最年少で一部上場を果たしたリブセンスの村上太一さん。「最近の若者は頼りない」などという論調もあるが、どう思うか?(32:50)

村上:自分は30歳代、40歳代の方と触れあう機会が多いが、よく言われるのは「戦うことをやめた世代」ということ。確かにその側面はある。米国で就職企業人気ランキングの1位がNPO法人ということにも象徴されるように、明らかに価値観の変容は起きてきている。お金、経済的豊かさを比重に置いていたところから、個々が新たな軸を持ちはじめた。例えば、社会のため、とか、無理して生きない、とかいうこと。一方では長谷川さんのお話にもあったように経済成長はしていかなければいけないと私は強く思っており、価値観の変容した世代にありながら起業し、これまでやってきている。(34:20)

堀:リブセンスはどういう会社?(35:45)

村上:19才、大学1年のときに立ち上げた会社で、インターネット上で成功報酬型のアルバイト求人広告を事業としている。ユーザー側にもインセンティブを持たせるため、成約時には「お祝い金」としてユーザーにも一部、還元する。自分自身は幼い頃から社長になりたいという思いを持ち、高校のころから社長になる準備をしていた。ビジネスの基本は不便を解決することと認識しており、自分自身が高校時代、アルバイト探しのときに感じた不便さを解消しようという思いでやっている。(36:00)

堀:朝のセッションで、奇しくも(経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOの)冨山(和彦)さんが変化を生み出す条件として「(倒産などの)危機意識」「非主流・辺境」「若さの活用」という3点を挙げられた。長谷川さんより何かご質問や、この点、ご意見あれば。(37:15)

長谷川:「20代は戦うことをやめた世代と言われる」というお話のあったことが気になった。そうしたもの言いをする人たちは「自分たちは戦った」と言いたいのかもしれないが、私は別に団塊の世代が戦ったとは思っていない。単に戦後、高度成長の道があり、それに、日本人が最も得意とする、より良いものを均質な労働力でもってより安く提供するやり方でうまく乗っただけのことだ。とりたてて意識してきたわけでなく、クレジットを得るわけでもなく、ましてやその後、滅茶苦茶にしてきたのも我々世代であって、今はその結果責任を負っているだけのことと捉えている。だからあまり、そうしたもの言いを気にしないほうがいい。
もう1つ、重要なキーワードとして「インセンティブ」というものがあった。先にキャメロン首相の例を引いたが、興味深い方法として彼らは奨学金制度の再設計の際、これを得て卒業した人から収入に応じて返金させるやり方を取った。高額な収入を得た者からは、より高く返金させる格好だ。つまり、ものは工夫のしようということ。日本はとかく、私の考えでは“悪しき民主主義”が蔓延っていて、受益者の立場が幾ら異なっても平等に渡しさえすれば文句は言われないというスタンスを取りがちだが、それをやっている限りは切磋琢磨も創造性も期待できない。
加えて「ダイバーシティ」についても言及しておきたい。これは(ジョン・)ルース駐日米国大使がよく言われることだが、(米カリフォルニア州シリコンバレー北端の)パロアルトには常時85カ国以上の人が出入りし、様々な言語が喋られている。そこで様々な考えがぶつかり、融合し、或いは反発しあい、そこに支える政府の制度やベンチャーファンドがあって、新しいものが生まれている、と。似た状況で今、注目されているのがイスラエルだ。『START-UP NATION』を読まれた方も多いと思うが、同国は米国外では世界第1位のナスダック上場数を誇る。これを促進しているのが建国50年を経てイスラエルに還流しているユダヤ人たち。彼らは1000年、2000年前に地球上に散り散りになった移民であり、言語も仕事も全く違うことをしてきたものがユダヤをルーツにするというだけで帰ってきている。そこに(パロアルトと同じような)ダイバーシティが生まれているのだ。同様のことをシンガポールなどは国策でやっている。多分、日本もそういうことをやらないと変化の起爆剤にはならない。日本人だけで考えても停滞感は崩せないのではないかと思う。(38:00)

堀:逆に村上さんから長谷川さんにご質問、反応などあれば。(42:20)
村上:若手起業家に求められる姿勢、資質など伺えれば。(42:30)

長谷川:そんな質問をされては思わず笑ってしまう。こちらが教えてほしい。私など起業したことも何もないというのに。ただ思うのは、いきなりシンガポールやイスラエルのような環境を日本で作るのは難しいだろうから、せめて特区を作って、政府のファンドやリスクマネーを置き、ベンチャーキャピタルの運営経験者なども待たせておき、税金を下げ、教育や医療など生活環境も整え、世界中、或いは国内大企業などから起業したい人を呼べばいい。村上さんのように高校時代から起業を考えていたような人は別として、アイデアをみつけたときに、それを簡単に実行できる、或いは実行プランに落とすことをサポートしてもらえる環境を整備することが重要だと思う。企業にリスクをとれと言うなら政府もリスクをとったらどうか、ということだ。
もう1点、これは危機意識でもあるが日本からの海外留学が2万人を切ったという点にも触れておきたい。韓国などと比べると圧倒的に少ない。海外の、特にアメリカのトップスクールで学んだ同期が自国で起業していることに刺激される側面など考えると、外に出る人を意識的に増やしていくことも重要だろう。
「若い人に元気がない」と多くの人が言うが、先にも述べたように高度成長期はその勢いの中で“わっしょい、わっしょい”とすることが何かに挑戦しているように見えただけで、何かを打破したり創造性を発揮しているとは皆、思っていなかったと思う。今、7〜8割の若者は確かに「このままでいい」と思っているかもしれないが、2〜3割の若者は何かやろうとしている。何とかして現状を変えようとしている。そう考えると当時よりはるかに頑張っていると思う。だから私は日本の将来については全く悲観していない。せめて彼らが出やすい環境を整えることが団塊の世代である自分らの最後のご奉公だと思っている。(42:40)

村上:たとえばテレビで“カリスマ美容師”が取り上げられると美容師になりたい子らが増える。子どもの頃の価値観などというのは、そのくらい簡単に変わるものだと思う。自分自身も様々なサービスの立ち上げストーリーなどを読んで刺激を受けてきた。「カッコイイ」という像が必要と思うし、自分自身、ロールモデルとなれるよう、しっかりやっていきたい。(46:10)

質疑応答

・なぜ成長が必要か、ということを説明しなければいけない状況をどうしたら終えることができるか?(47:50)
・成長戦略において、消費者と企業で持っているお金をうまく回すことについてどう思うか?(49:00)
・20代にとってグローバル化は自然なものではないのか。20代にとってのグローバル化とは?(49:10)
・経営トップの多様性へのコミットメントについて伺いたい。女性や外国人、若者など活用しろということは言われるが近親憎悪に阻まれることが多いと思うが?(59:55)
・今の若者に欠けている勇猛心を持って欲しいが、どう思うか?(1:05:47)

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