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津田大介氏×本荘修二氏「ソーシャルメディアが変革する社会と個人のあり方」

投稿日:2011/12/01更新日:2019/04/09

昨2010年はソーシャルメディア元年だった

本荘修二氏(以下、敬称略):皆さま本日はよろしくお願い致します。まずはディスカッションを進める前にいくつか質問をさせてください。このなかでTwitterをやっている方はどれくらいいらっしゃいますか?(会場挙手)9割ぐらいですね。Facebookは?(会場挙手)mixiはいかがでしょう?(会場挙手)

津田大介氏(以下、敬称略):では、かつてmixiをやっていたけれども、現在はTwitterにという方は?(会場挙手)ああ、やはりそうですね。イベントで大学などに呼ばれると必ず同じことを聞くようにしているのですが、昨年と今年とでは面白いぐらい明確に傾向が変化しているんです。大学によって多少差はあるもの、昨年前期あたりは、mixiが9割、Twitterが5割、Facebook1割未満という感じですね。ところが今年は、mixiが7〜8割、Twitterが9割、Facebookが5割となっている。大学によってはFacebookが圧倒的で8割〜9割というところもあります。ずいぶん変わったなあと。

本荘:あすか会議でFacebookページをつくっていますよね。それがきっかけでFacebookをはじめようと思った方はどのぐらいいらっしゃるんでしょうか。逆に言うと、昨年以前からずっとFacebookを使っている人は?(会場挙手)なるほど、半分ぐらいですね。やはり今年はじめたという方が比較的、多いようです。

ではそろそろ本題に入りましょうか。本荘と申します。本荘事務所の本荘と言われても「なんのこっちゃ」という話だと思いますが(会場笑)、私自身は経営コンサルタントをやっています。あとは多摩大のMBAスクールで、アントレプレナーシップを教えています。本セッションのテーマであるソーシャルメディアに関係することと言えば、ダイヤモンド・オンラインというメディアで、なにか新しいネタ、たとえばソーシャルウェブについて書いてくださいということで、連載をやっていました。そこでちょうど1年ぐらい前でしょうか。津田さんにTwitter関係で取材をさせていただいた(http://diamond.jp/articles/-/7637)という訳です。ではそろそろ津田さんのプレゼンテーションに行きたいと思います。

津田:はい、では20〜30分ほど。まずはソーシャルメディアがどんなものかというお話と、私自身が今どんな風に使っているのかといったお話を中心にできればと思います。私はビジネス畑の人間ではないのですが、昔はIT系のライターとしてビジネス誌などでも結構書いたりしていました。ですからそういったところとも絡めつつ、最近のソーシャルメディアがどうなっているのかというお話をしたいなと。

まずはソーシャルメディアをとりまく現状を少し見てみましょう。今年4月のニールセンNetViewのPCインターネット視聴データです。それによると4月時点でmixiが1250万人、Twitterが1500万人、Facebookが700万人弱という状況です。

これだけ見るとmixiよりTwitterのほうがユーザー数は多いように思えますが、これはユーザー数のデータとしては正しくないんですね。実はmixiが圧倒的なんです。というのも現在のmixiユーザーはほとんどが、いわゆるガラケーを使っている携帯オンリーのユーザーなんですね。トラフィックで言うと7〜8割が携帯です。携帯でしか使っていないというユーザーが非常に多い。ですから現在は、PCユーザーだけであれば1250万人ですが、携帯ユーザーを入れると恐らく3000〜4000万人ぐらいがmixiのアカウントを持っている状況です。実際、今回の震災でも東北ではTwitterよりmixiのほうが利用率は高かった。「安否確認やガソリン等に関するの情報共有についてはmixiのほうが役に立っていた」というお話が、現地でヒアリングした限りでは多かったんです。

一方のTwitterですが、PC以外のクライアンやスマートフォンからのトラフィックが3割前後ということですから、合計すると2000万人ぐらいが使っているということになります。そしてFacebookは800万人ぐらいが使っているという状況です。こういったデータを見る限り、ソーシャルメディアのユーザー数は2〜3年前に比べて桁ひとつ分、伸びている状況にあると思います。

どのソーシャルメディアも震災を機にユーザー数を増やしており、3月に大変伸びています。ただ、4月になって前月比が少し落ちてきているんですね。ちょっと落ち着いてきたかなという状況です。Facebookにしても去年の秋ぐらいから伸びてきていますが、最近はその伸び率が少し緩やかになってきています。今後に向けてユーザー数が“跳ねる”かどうか、少し微妙になりつつあるのかなというのが現状です。

いずれにせよ、昨年はソーシャルメディアが本格的に普及した元年と言っていいかもしれませんし、そのことを象徴するような出来事もいくつかありました。去年がどんな年だったかというと、まあ、鳩山由紀夫さんにはじまった年だったなあと。鳩山さんが首相だったのはもう4年ぐらい前の話ではないかという感覚もしますが(会場笑)、実は1年ぐらい前までやっているんですよね。もうすっかり過去の人だなあと思いますが、去年2010年の1月1日、元日に彼がTwitterをはじめているんです。それが話題になってTwitterをはじめたという人もいました。一国の首相が一企業のコミュニケーションサービスを使ったという意味で非常に話題になったし、メディアでも取りあげられるきっかけになりました。そんな訳で2010年は鳩山さんにはじまった年だったと思います。

去年1月前後のTwitterユーザー数は300万人前後でしたが、それが年末頃には1200万人ぐらいにまで増えていました。桁をひとつ変えたという意味でも昨年はTwitterを象徴する年だったのかなという気がしています。鳩山さんがお辞めになったあと、ユーザー数は秋までにだいたい1000万を超えるか超えないかというあたりで少し踊り場のような状況にさしかかっていました。しかし年末にソーシャルメディアが色々な形で注目され、ユーザー数が再び押しあげられます。注目されるきっかけはなんだったのかというと、いわゆる流出事件ですね。尖閣沖で中国漁船と激突した海保のビデオがYouTubeに流出した件です。

あともうひとつ、流出ということではWikiLeaksが話題になりました。ネットにはWikiLeaksのような形でマスメディアなどが報じない情報が流れていると。それがソーシャルメディアによって既存メディアよりも早く拡散されていくという、そういう現象が起きた訳です。

これを日本のメディア史で捉えると、去年の11月7日がかなりの転換点だったなと私自身は考えています。11月7日にNHKの『クローズアップ現代』がWikiLeaksの特集を放送したんですね。番組ではジュリア・アサンジのインタビュー映像も放送されていました。それでWikiLeaksなんていうものがあるんだということを知ったその3時間後ぐらいに、尖閣のビデオがYouTubeに流れて大きな話題になった。

この日のことを私はかなり鮮明に覚えています。たまたま人と飲んでいて自宅に帰ったのが深夜の1時とか2時ぐらいでした。もう遅かったし、とりあえず風呂に入って寝ようと思い、風呂場にiPhoneを持ち込んでTwitterを見ていた。するとタイムラインがすごく騒がしい訳です。「こんな映像が載っている」、「なんだろう、本物か?」みたいな話になっていた。iPhoneはそこでYouTubeのリンクをクリックすればそのままフルスクリーンで動画を閲覧出来ます。ですから私もそこで、ほとんどHD画質の衝撃的な映像を見ることが出来ました。しかしテレビはどうだったか。結局、流出映像を放送したのは早くても朝の『めざましテレビ』ぐらいからですよね。ソーシャルメディアではそれ以前から話題になっていました。

つまり深夜2時ぐらいにその映像をiPhoneの画面で、しかもHD画質で、さらにテレビと違って“おいしい”場面を何度もシークしながら見直すことが出来ていた訳です。これはものすごい体験だなと。どうして自分はこれを全裸で見ているんだろうという話はさておきですね(会場笑)、そのときは本当に未来が来たなと感じました。テレビよりも先にスクープの映像をiPhoneで、しかもお風呂で観ることが出来てしまう。そんなところに未来が来たなと思ったし、情報の流れが本当に変わったな感じました。そんな風に既存メディアの役割というものも大幅に変わったのが昨年の出来事だったなのかなと思います。

ソーシャルメディアの特性を示す5つのキーワード

これは既存メディアが必要なくなったという話ではありません。ただ、とにかく情報の流れが変わりました。WikiLeaksの広がりも本当に大きな出来事で、これはもうメディアにおける911ではないかという意見もあります。本当にメディア環境が激変して、情報の流れ方が変わってきていると感じます。

昔はテレビにしても新聞にしても、あるいはウェブサイトにしても、基本的には送り手が情報を発信し、それを受け手が見るという構図でした。しかし今はソーシャルメディアの出現によって送り手側と受け手側の境目があいまいになってきているんですね。受け手側からの情報も送り手側に伝わってぐるぐる回っている状態です。これについては、立入勝義さんというソーシャルメディアに関する本を書いている人がうまいことを仰っています。「今までの既存メディアは投球練習みたいなものだ」と言うんですね。ピッチャーがひたすら同じ投球を続けて、受け手はそれをキャッチするだけ。「しかしソーシャルメディアはキャッチボールだよね」と立入さんは言うんです。「なるほどな」と思ったのですが、そんな風に情報の流れ方が変わってきているということが言えるのではないでしょうか。

そんなソーシャルメディアですが、私としてはその特性を5つぐらいのキーワードで示せるのではないかと考えています。

1つ目のキーワードは「リアルタイム(速報性・伝播力)」です。すべてのソーシャルメディアがリアルタイム性を持っていなくても良いのですが、現在の狭義におけるソーシャルメディアはこのリアルタイム性がなくてはならないものになっています。

FacebookにしてもTwitterにしても、皆、自分の考えや感じていることややっていることをどんどん細切れに報告していきますよね。ニュースが流れてくればそのニュースについて感じたことなどを書いていきます。今起きていることをトリガーにして書いていくので速報性が非常に高まっていく訳です。ニュースを人に伝えるという意味での速報性も高いし、自分に起きたことを伝えるという意味での速報性も高い。

ではどうしてリアルタイム性が高くなったのかというと、情報のコピーがこれまでになく簡単になったということがあります。Twitterであればリツイートが2クリックで行えるし、Facebookにしても2クリックぐらいで簡単にシェアできますよね。そうなると皆が貴重な情報や拡散したいという情報を簡単にコピーをするので、それが速報という形で何百万人にも広がっていく。実際、フォロワーが100万人を超える孫正義(ソフトバンク代表取締役社長)さんが誰かに返事をしたり「このニュースは問題だ」と言ってリツイートすれば、それはもう瞬時に100万人へ届きます。本当に瞬時ですよね。そうなると1分以内にひとつの情報が数百万人に広がっていく訳です。これまでテレビやラジオのように電波を使わなければ出来なかったことが、インターネットでもそれほど短い時間で行えるようになった。これは情報の流れを相当変えたと思います。

2つ目のキーワードは「共感・協調」。皆さんが思ったことをリアルタイムに書くことにより、ある意味で、かなりアナログなメディアになっている。まるでテレパシーのように感情や思考を皆が共有している。震災時もそうでした。東日本の人々が皆不安になっていると、不安な感じというものがどんどん伝染していく。逆に日常が比較的残っていた西日本では、今まで通り普段の生活がTwitterを通じて共有されていきました。ソーシャルメディアはそんな風にして気持ちというものを伝えるメディアにもなっているということだと考えています。

ソーシャルメディアが面白いのは、そういった気持がどんどん連動していく特徴があるということです。つながって、リンクしていく。「リンク(具体的行動の促進)」が3つ目のキーワードです。リンクするとどうなるかというと、具体的な行動が促進されます。たとえば政府への不満があったとしますよね。「この政府をなんとかしなきゃいけない」と思い、「それならデモに行こう」と言えばそれがリンクしていき、実際の行動に結実することもあります。それが最大限に増幅された結果、中東などで起きている革命にもなったのだと思います。もちろんそれほど大きな動きではなく、もっと小さい動きでも同じようなケースは生まれます。共感や協調が最初のトリガーになって、人々の思いがつながっていき、それが具体的な行動に結実する。そんな側面がソーシャルメディアの特徴でもあると私は思っています。

ではどうしてそれほど具体的行動につながりやすいのか。これはソーシャルメディアの環境要因として、非常に「オープン(参加や離脱が容易)」であるためで、これが4つ目のキーワードです。参加も離脱も容易なんです。Twitterであれば何か面白いことがあればハッシュタグを付けることで簡単に参加出来ますし、Facebookであればファンページなどから「いいね!」ボタンですぐに参加出来る。

たとえばNPOのような組織、コミュニティは維持運営そのものがかなり大変というケースがありますよね。足を運んで参加したりするのが面倒だったりすることがありますから。それをソーシャルメディアではリアルタイムで、盛りあがったその場でちらっと参加出来る。“盛りあがりベース”のコミュニティがリアルタイムで形成されていく訳です。そして盛りあがりがなくなってきたらすぐに離脱していくといったように、テンポラリーなコミュニティになっている。そんな参加も離脱も容易という風通しの良さが、これまた具体的な行動を促進する要因にもなっているのではないでしょうか。

そして5つ目のキーワードとして個人的に面白いと思っているのが「プロセス(透明性・興味喚起)」なんです。Twitterは140字しか書けないメディアですよね。あまり知られていませんがFacebookもいわゆる近況ボックスには420字しか書けません。いずれにせよ複雑なものをたくさん、たとえばブログのように複雑な論考を記述していくようなことが出来ません。細切れに何度も繰り返し書く構造になります。

こうなるとプロセスが明らかになるんです。「何々をやりたい」、「ではこういうことをしましょう」、「でもそれにはこんな問題点もある」、「それならばこんな風に解決すればいいじゃないか」と。で、そこでたとえば「私も参加します」となる。すべてオープンな状態で議論のプロセスが公開されている。プロジェクト自体に透明性が生まれているということです。しかも「面白そうなことが進行しているな」という興味が喚起されたら参加する人も増えてきます。そういった特徴が、恐らく現在のソーシャルメディア現象を読み解くキーワードになるのではないかと思っています。

ソーシャルメディアは納豆に近い

私は先ほど情報の流れが変わったと言いましたが、ブログ時代のインターネットはいわゆるデータ置き場だったと思っているんですね。インターネットというのは、要するに便利な情報を置いておけば時間に関係なく検索して見つけことが出来る。それが1日後でも3日後でも、1年後でも10年後でもいいから、よってたかって皆で知識をネットに置いておきましょうという形でした。ある種ストック型の巨大なデータベースをつくろうという壮大な社会実験だったと思います。時間というものに縛られていませんでしたから。

そんななかでTwitterとFacebookが圧倒的に新しい流れを生み出てきたと。今はリアルタイムで流れてくる速報や、それによって発生するムーブメントに関心が生まれていて、ある意味でフロー型の情報流通が出来ているのではないでしょうか。

実際、ソーシャルメディアにおける情報のトラッキングデータなどを見てみるとそれがよく分かります。たとえばツイートには色々なニュースのリンクを貼ることが出来ますよね。リンクを貼ってURLと一緒に投稿する人が多い。では、そのクリック率を調べてみるとどうでしょう。クリック率が本当に高いのは投稿されてからだいたい20分のあいだであるそうです。そのあとクリック率は一気に下がっていって、4時間も経過するとクリックはゼロに近くなります。つまり、ソーシャルメディアにおける情報の賞味期限は4時間ぐらいではないかと言われているほど情報との接点が一期一会のものになっているんですね。

今までインターネットの基本であったストック型の知の共有がなくなった訳ではありません。ただ、インターネットという枠組みのなかでもうひとつ、非常に速い情報フローというものが生まれてきている。それはソーシャルメディアで起きているのではないかなと思う訳です。モルドバ、イラン、中国、タイ、チュニジア、エジプト、リビアといった海外では実際にそれが起きていますよね。今年に入ってからはチュニジアでFacebookを中心としたジャスミン革命が起き、それがエジプトやリビアに飛び火した。シリアやバーレーンにまで同様の動きは広がっています。それでソーシャルメディアが社会を変えるほどの力を持つようになっているのではないかということです。

そういった一連の動きを見て、ソーシャルメディアによって社会変革が起きるのではないかという人は増えてきました。「これは革命だ」と、大げさなことを言う人はいます。私自身もどちらかといえばそういうことを言っている人間だと思われがちなのですが、この点については少し冷や水を浴びせたいなと思っています。少し言い過ぎではないかと。なぜなら中東などで起きた革命はソーシャルメディア自体の政治的圧力から生まれたものではない。政治は皆がパソコンのある部屋を出て、携帯電話を持って外でデモをしたからこそ変わった訳です。誰かがTwitterやFacebookで「菅政権がひどい」と書いて、それをパソコンで見た人が「いいね!」、「いいね!」とクリックしても政治は変わりません(会場笑)。東京に行かないと変わらないし、デモで変わるにしたってリアルな動きでなければ変わらない。現実に圧力を与えるのは人々の力であり、動きであり、その意思です。パソコンを前にソーシャルメディアでクリックしているだけでは社会は変わらない、その大原則は押さえておかなければいけないと思います。

ただし、ではソーシャルメディアには意味がないのかというと、そんなことはありません。「動きをつくろう」とか「デモに行こう」といったきっかけはたしかにつくっていますから。結局、ソーシャルメディアにどんな意味があるかというと、人が行動する際に背中を押してくれるという意味がある。そういう力がソーシャルメディアにはあるのではないかと私は思っています。それが先ほど申し上げた、共感やリンクといったものの特徴にもなるのですが。

私自身、ソーシャルメディアの話をここ2〜3年ほどしていて、ソーシャルメディアが持つ人の背中を押す力はやはり革命的ではあるなと思っていました。そしてそれがどういった革命なのかということもずっと考えていて、ここ半年ぐらいはこういう話をしています。それは「動員の革命」という捉え方。とにかく人集めです。集めて、行動させる。それが最大限発揮されたのは中東などですが、それほどの規模でなくとも動員の革命と言える動きは起きています。

たとえば私はあちこちで色々と講演会もしていますが、足を運んでくださる方の半分ぐらいは「Twitterでたまたま知った」という方々なんですね。そのほかにも、たとえばミュージシャンがファンとコミュニケーションをしていくなかでライブに来てくれるお客さんが増えるとか、とにかく人を行動させる力がある。

たとえばTwitterイベント告知をしようと思ったら、どのタイミングで告知するのが最も効果的だと思いますか? 実は一週間前や二週間前に告知をしてもまったく意味がないんです。先ほどお話ししたように情報は4時間で消えてしまいますからまったく意味がない。本当に良いのは前日と当日の3〜4時間ほど前。当日に書けばたまたまタイムラインに流れてきた情報を見て、「あ、今日は時間があるな。行ってみよう」と思う人がいるんですね。それが背中を押してくれるということです。

よく「恋愛には3つの“ing”が大切だ」とか言われますよね。フィーリング、タイミング、そしてハプニング。その3要素が合うと恋に落ちるとか、恋愛がうまくいくなんて言われていますが、ソーシャルメディアにも同じことが言えると思います。タイムラインにたまたま流れてきたとき、興味があってフィーリングの合う情報がハプニング的に流れてくる。それがタイミング良くハプニングで流れてくると、「それならこのイベントに行ってみようか」となる訳です。少し大げさですが、タイムラインの情報をたまたま見かけて「あ、行こうかな」なんて思うと、やはり少し運命的なものを感じるじゃないですか。そう感じると人が動き、それがイベントとなり、そこからまたつながっていきます。そういった魅力については、ソーシャルメディアをたくさん使っている人は恐らく感じているのではないかと私は思っています。

こういった動員の革命について、なぜそれほどたくさんの人が集まるのかを別の側面から見てみると、本来なら絶対につながらなかった人たちがいますよね。これまでの一般的なコミュニティは、ローカルなものであったり、興味ベースであったり、会社であったり…、色々なセグメントで分けられていました。ですから絶対に出会わなかった人たちがいた。ところがそういった人々がソーシャルメディア上では自然に、またはハプニング的につながっていきます。そしてつながった人々がムーブメントを起こしていくんですね。それが動員の革命になっているのではないかと思っています。

これも最近よく言っていることですが、私としてはソーシャルメディアで変わったなあと思う側面があります。“出る杭”という言葉がありますよね。何か飛び出したい人や何かやりたい人というのはたしかにいましたが、今までは皆がばらばらに飛び出していたと思うんです。そこでばらばらに飛び出した結果、少々出過ぎてしまった杭もあればそこで打たれしまう杭もありました。私はその流れがソーシャルメディアで大きく変わったと思っています。誰かが飛び出したとき、色々な人が納豆みたいに“ねばーっ”と付いていくようになったのではないかと。アーキテクチャ上は簡単です。リツイートは簡単だし、コメントも簡単ですから。誰かがやっている面白いことを140字内で真似するのは簡単ですよね。だから「俺もやろう」と。「こんなに面白いことやっている人なら支援しよう」とか、「それならリツイートで支援しよう」とするのが非常に簡単なんです。それで飛び出す人間を追いかける人間が出て、結果として大きなムーブメントに成長していく訳です。

納豆ってぐるぐるとかき回せばかき回すほど粘りやアミラーゼが出て美味しくなるって言いますよね。ソーシャルメディアも一緒だと思うんですよ。色々な人に「こんなことやるからお願いします」とか「一緒にやろうよ」と声を掛けてから実際に動くと、やはり付いてきてくれる人も多くなって大きなムーブメントになる。だからソーシャルメディアは納豆に近いんじゃないかと思っています。「ソーシャルメディア納豆論」と私は言っているのですが(会場笑)。

マイクロペイメントとの組み合わせで社会運動が効率化される

その延長線上として、私がソーシャルメディアに対してすごく期待していることがあります。ビジネスにも少しつながる話ですが、ソーシャルメディアがプラットフォームとしてもっと成長するためにはマイクロペイメントが広がって欲しいと思っているんですね。少額決済を組み合わせることの出来るマイクロペイメントによって、ソーシャルメディア上から簡単にリアルな送金が行えるようになる。こうなるともう世の中が変わるだろうと思います。たとえば誰かが復興活動をやっていて、それが有効な活動と思えばそこに対する具体的な支援もたやすくなるし、色々な社会運動自体も効率化されていくと思うのです。

たとえば現在のNPOは組織そのものの運営が不可欠ですよね。でもそのときマイクロペイメントが活用出来れば、活動のさまざまな機能を個別にモジュール化して支援出来るようになるのではないかとか。先ほどソーシャルメディアは共感や協調のメディアではないかといったお話をしましたが、なにかこう…、善意で動いているんですよね。ですから善意をマイクロペイメントで金銭化することで社会が動くようになるのではないかと考えています。ソーシャルメディアがある意味で社会を動かすためのエンジンだとしたら、エンジンをフル回転させるためのガソリンが金銭ではないかなと、そんな風に私は考えています。ソーシャルメディアの動員力に金銭を掛け算することでなにか物事が実現する速度も加速するのではないかと、最近は考えるようになってきました。

たとえばですね、私自身はここ3カ月ほど東北で取材を続けていますが、被災地の皆さんが実際に求めているのは「多様な情報」、「雇用と産業」、「必要に迫られたときモノを購入出来る財力」の三つです。これは当然の話ですが、ではそれを実際に提供していくためにソーシャルメディアで何が出来るのかと言えば、結局はお金です。善意という名の資金投入を民間できちんと継続させるしかないのかなと思っています。

しかし現在、既存のマスメディアは震災報道に飽きていますよね。テレビはバラエティ番組ばかりだし、NHKですら震災報道から離れてきている。恐らく半年後や1年後、テレビや新聞は復興があまり進んでいないにも関わらずどんどん報道していかなくなっていきますよね。実際のところ、東北地方が震災前、GDPに占めていた割合は4.5%です。そこでさらに湾岸地域があれほどの被害を受けてしまった訳ですから、もうGDP比率としては0.0数%になってしまう。「そこに何百兆円もかけるの?」という議論すら出てくる始末です。たしかに経済合理性だけに従うならば東北は見捨てるという考え方だってあります。実際、限界集落などは見捨てるという選択肢しか残らなくなってきてしまうのではないかという状況で、そうは言っても現地の人は当然ながらそこに住みたいしそこで復興したい。しかしその点で国策にすべてを期待しても恐らくは限界があります。それならば何か別の手段で感情に訴えかけていくしかないかなと思っているんです。

ですから当事者がソーシャルメディアなどを通じて現地の情報をありのまま、当事者の言葉で発信していくべきではないかなと思っています。それによって、たとえば「あ、ここはこんな現実があるんだ。それなら100円送ろう」となる。単純に赤十字募金とするのではなく、具体的に自分が共感した地区に送ることが出来る。そんな回路をつくることが出来たら、復興の速度もまた一段とあがるのではないかと考えているんです。義援金や支援金も今はごっそり集まっていますが、その興味や関心の水準を10年間持続させることこそ、復興速度をあげていくことにもつながるのではないかと風に私は感じています。

で、先ほどリアルタイムや共感といったキーワードについてお話ししましたが、ではどうやって情報を発信していけば良いのかというのが次のポイントです。私としては、何かその特性を考えてやれば良いのではないかなと思います。具体的にはリアルタイムで行うこと。タイムリーに人々の共感を巻き起こすような形で、かつ参加可能な形で具体的行動を促し、誰もが参加出来るようオープンに物事をつくっていく。そのプロセスも公開していくんです。よくTwitterマーケティングとかソーシャルメディアマーケティングと言われるもので成功している事例では、多かれ少なかれそういった原則がとられています。

私自身、取材スタイルがかなり変わってきました。たとえば東北を取材をするときは、もう細かい取材場所等はあまり決めないで行くんです。で、「ここだったらどこを見ればいい?」とTwitterで聞いてみる。「いわきだったらどこを取材すれば良い?」とツイートすると、「ここに行ってください」とか「ちょっと話をしませんか?」という情報が来るんですね。そんな風に変わってきました。

とにかくマスメディアが伝えない細かい情報が東北にはたくさんありますから、それをリアルタイムで伝えていきたい。現地へ行くと皆さんは…、これは決してネガティブな意味ではないのですが、とにかく話したいという状態ですから話が長くなります。本当に話したいことがたくさんある訳ですから、それを伝えることは大変な意味がある。また、そういった要求に応えて多くの人に分かりやすく翻訳しながら伝えていくことで、情報やニーズといった色々ものの血流が良くなっていくのではないかと私は思っています。

実は先日、福島であるイベントをやってきたんです。6月11日でちょうど3カ月目でしたが、場所はいわきの豊間ですね。豊間では集落のおよそ8割が津波で全半壊してしまった地域ですが、豊間のセブンイレブンで営業を再開している店舗があったんです。現在は移動販売車で毎日営業しています。私は当初、この店舗について知らなかったのですが、たまたまいわきを取材中に、Twitterで「いわきにいるなら豊間のセブンイレブンは絶対に見たほうがいい」という情報を貰いました。「店長が面白い人だから見てください」と。ですから「分かりました」ということで足を運んでみたら店長が本当に面白い方でした。飛び込み取材の許可をいただこうとご挨拶してみると、「ああ、いいよいいよ。あとでゴジラも来るからそれも見ていってよ」と仰るんです。…なんだろうと。“ゴジラが来る”という意味がはじめはまったく分からなかった。

そうしたら本当にゴジラ(の大きなフィギュア)がトラックに乗ってやってきた(会場笑)。これが本当に重くて、もう何十キロもあったと思います。大の大人が6人ぐらいかかって、私も手伝いつつやっと移動させて設置出来たという(笑)。で、どうしてこんなものを置いたのかというと「ここを復興の拠点にしたい」と店長が仰るんですね。セブンイレブンがまたオープンして、「じゃあまた買い物出来るね」ということで、他の地域に避難していた方々も2割ぐらい戻ってきたりしていたんです。それで「とにかく子供を戻したい」と。ここを子供たちが遊べるような場所に出来ればということで、何か楽しいものを置きたいと仰るんです。このゴジラが楽しいかどうかは微妙なんですが(会場笑)。

ここではほかにも、いわきの海から流れ着いてきたブイを箱崎りえさんという方がアート作品にして置いたりしていました。そんなことをしつつ「ここで地元の人を巻き込んで何か面白いことをやりたいんだよね」と仰っていた。で、たまたま私は東京の友人で七尾旅人と渋谷慶一郎というミュージシャンがいたのですが、彼らも被災地でライブをやりたいと言っていました。ただ、必然性がないライブはやりたくないとも言っていたんですね。現地の方にも望まれる形できちんと純粋に音楽を突き詰められるような、そんなことがやりたいと。「だから具体的に復興へつながるようなことやりたいのでその必然性をつくって欲しい」と、無茶な宿題を貰っていまして(笑)。でも現地で話を聞いているうち、「ああ、ここでライブをやっちゃえばいいじゃないか」と閃きました。で、先日こちらでライブをやってきました。東京からはバスツアーで100人ぐらい連れて行きました。

それまで、とにかく福島でライブをやりたいというアーティストはいてもなかなかやり方が分からない状態でした。「現地の人に望まれないのに行ってもまずいのでは?」と考えるアーティストだっていましたし、なかなか二の足を踏んでしまっていたんですね。アーティストとしては単なるお涙頂戴的なイベントや自己満足ではない形で、かつ被災地で見た思いのようなものをきちんと音楽に変換したいという気持ちがあった。

ボランティアにしても同様です。やりたいけれどやり方が分からない。被災地を自分の目で見たくても、押し掛けて現地の迷惑になったり物見遊山みたいに思われたくないという人が東京ではすごく多いんですね。ですからそういった人たちの思いを満たすことをやろうということでバスツアーを企画しました。東京から100人、貸切バスを2台チャーターして、ひとり1万円いただいています。100人ですから計100万円、ライブのときに支援金として同地区に寄付し、ライブ前には区長さんに被災地を案内していただき写真などもしっかり撮りました。被災地の様子を目に焼き付けて貰いたかったので。で、そのあとは2時間ぐらいボランティア活動ということで、ごみひろいや瓦礫撤去のお手伝いをしました。そしてそのあとにライブをやって東京に帰るというスケジュールです。

それともうひとつ、現地にお金を落としたいということでセブンイレブンそのものの売上にも貢献しようということになりました。ですから「ランチはセブンイレブンで買ってくださいね」と言ったら、100人がそこでランチを買うことになったんです。すると…、この店舗はオープン6年ぐらいだったのですが、過去最高の売上を記録したらしくて(会場笑)。それで最高の売上になるなんて、やはり地方のコンビニはすごく売上が低いんだなと。ただ、いずれにせよやりたかったことは一応すべてうまく出来ました。

とにかく大変でした。企画からライブまで実質2週間前後しかないし、人手も足りないし、地元の理解を得る必要もありますし。アーティストの渋谷君は「俺、グランドピアノがなかったら弾かないからから」みたいなことを言い出すし(会場笑)。アーティストはわがままですから(笑)。まあ、でもそこはきちんと実現しないといけませんよね。でもグランドピアノが手配出来ない。で、Twitterで「誰か貸してくれる方はいませんか?」と投げてみたんです。「こういうイベントをやりたいんです」と。

そうしたら共感してくれた方がご自身で探してくれたんですよ。それでライブの3日前ですね、「もう本当にやばい」というとき、それまで知らなかったその方からダイレクトメッセージが来て「仙台でヤマハの人が安く貸してくださるそうです」ということで整えてくれました。それで借りることが出来た。そんな風にソーシャルメディアで色々な人を巻き込み手伝ってくれる人を探すことで、なんとかうまくいったというイベントでした。

そろそろ時間もないのでまとめに入りますが、そんな風にとにかく新しいコミュニティがソーシャルメディアによって生まれていると思っています。私はよくTwitterのオフ会に行くのですが、Twitterのオフ会は少し変わっているんですよ。たとえばmixiのオフ会であれば属性が近い人々の集まりということが多い。コミュニティ機能で興味や関心の近い人が集まるといったオフが多いのですが、Twitterのオフ会は場所単位で切り分けられていることが多いんですね。行ってみると本当にばらばらなんですよ。年齢も職業もさまざまな人が集まっている。でも、その割に話はかなり盛りあがります。

そこで何の話をしているんだろうと思うと、皆、Twitterの話をしているんですね(会場笑)。これはどういうことかというと、パーソナリティについて話しているということです。結局、人間性でつながって日常の話をしている。なにかこう、ソーシャルメディアを通じてその人の色々な面を知ることが出来るんです。ですから人間性を知ることが人と人とをつなぐ架け橋になっているなと私は感じています。

Twitterなどのソーシャルメディアについて、「あんなものくだらないよ」という人も最近は多いですよね。私自身、Twitter代表と思われているふしがあるので、色々な機会を通じてTwitterの悪口がだいたい私のところに飛んできます(会場笑)。それで「もう忙しいからTwitterなんてやる暇はないんだよね」みたいなことをすごくよく言われるのですが…、「そう言っている皆さんよりも恐らく茂木健一郎さんのほうが10倍は忙しそうですが、茂木さんはTwitterやっているけどなあ」なんて思う訳です(会場笑)。

もちろん色々な捉え方はありますよね。Twitterはたしかに社会を変えるかもしれませんが、悪いところだってたくさんあるとは思いますよ。ただ、Twitterについて「社会を良くしたんですか? 悪くしたんですか?」という基準で考え議論してもあまり意味がないと思います。携帯電話が世の中を変えたのかと言われたら、それは変えましたよ。そのなかには世の中を悪くした部分もあるでしょう。ファクスが世界を変えたところもあれば変えてないところもあるでしょう。それと同じなんですね。良い悪いではなくコミュニケーションにおけるひとつの形として、情報の流れに関する革命が起きている。そんなことを認識したうえで恐れずにやっていくのが良いのではないかと私は考えています。

ポイントはソーシャルメディアにも向き不向きがあるというところですね。私であれば当初はmixiが楽しかったのですが、途中から合わなくなってやらなくなってしまいました。で、TwitterとFacebookならTwitterのほうが楽しいからTwitterをやっているという状況です。そこでFacebookのほうが向いているという人は当然います。やはりmixiがいいなという人もいるでしょう。ですから恐らくこれには向き不向きがあるので、肌感覚で自分の使いたいものを使うというアプローチが良いのではないかと思いますね。

あと、先ほどお話しした福島のイベントではないですが、ソーシャルメディアはとにかく人を動員出来る点が優れています。こんなことをしたいというアイディアを即座に実現出来るのがソーシャルメディア。ですから私個人としては、なにかこう、言ってみれば盛りあがるライブハウスのように捉えています。Twitterは特にそう。単なる情報の受発信というより、客席とステージが行き来自在のライブハウスといったところです。ステージにお客さんが突然上がってミュージシャンと踊ったり、ボーカルが客席にダイブしてお客さんともみくちゃになりながら歌うような、そんな感じがあると思っています。

Twitter批判にしてもFacebook批判にしても、ソーシャルメディア批判の紋切り型というのは、ソーシャルメディアを単体で捉えるアプローチです。ソーシャルメディア単体でしたら大したことは出来ませんよ。そうではなくてソーシャルメディアをきっかけにリアルと結びついたときに何が起きるかが重要なんです。ネットのコミュニケーションだけで現実が変わる訳ではありません。そんな原理原則を忘れず、リアルとの相乗効果を大きくするという方向でいればソーシャルメディアを十分に活かしていけるのではないかという風に思っております。ということで、少々時間がオーバーしてしまいましたが、ここで一旦お話を締めたいと思います。ありがとうございます(会場拍手)。

共感が動員のフックとなる

本荘:ありがとうございました。さすがにロックな津田さんというか、ライブハウスというメタファーがありましたが、私も昔インディーズバンドのマネージャーをやっていたので同じような印象を持っています。ライブという感じで考えると、本当にCDを聴いているのとまったく違いますよね。

津田:ですね。私も一応物書きではありますが、ミュージシャンがすごくうらやましいと思っていたんですよね。彼らはCDという作品づくりに加えて、作品をつくったあとにライブという形でファンと音楽を共有して盛りあがる体験を持ちますよね。もちろん著者というのもこういった講演はありますが、それにしたって講演会で「うおーっ」と盛りあがることはないじゃないですか(会場笑)。ライブとは少し違う。でもTwitterで本を出したときにたくさんリプライが来て一緒に盛りあがる体験がありまして。ですからソーシャルメディアというかTwitterというのは著者にとってのライブなのかなと思います。

本荘:それと納豆というキーワードがすごく印象的でした。

津田:納豆論はかなり好評なんです(笑)。

本荘:納豆論というのを伺って、『社会運動はどうやって起こすか』というアメリカの有名な映像を思い出しました。

津田:デレク・シヴァーズのですね。

本荘:そうそう。ひとりの向こう見ずな人間が裸踊りをはじめて、そのうちフォロワーが生まれてくるというストーリーなんですが。要するにフォロワーがすべてを決めるという話ですね。

津田:その話は皆さんご存知ですか? ある場所で誰かが裸踊りをはじめるのですが、2人目が踊りはじめたら3人目4人目が次々に踊り出すという話です。結局、最初に飛び出すのはある種クレイジーな人で、それはどんな社会にもいます。ただ、大事なのはそれに続いて行動する2人目だという話です。その2人目を生み出しやすいのがソーシャルメディアということなんです。

本荘:そんな気がします。ただ、特に本セッションには大企業の方も結構いらっしゃると思うのですが、企業がソーシャルメディアと付き合うときには「何か怖いぞ」とか「引いてしまう」といった気持ちも出てくるような気がします。あるいは「コントロールしたい」とか。ところが津田さんが仰るようにソーシャルメディアというのは、ある種、人間臭いメディアですよね。そうなるとたとえば東急ハンズとかファミリーマートの従業員さんや店員さんが現場で話す言葉はよいのですが、企業マーケッターや広報担当から発信される情報などはきれいで無難な言葉にまとまりがちですよね。ですから大企業のカルチャーとはかなり相容れないところがあったりする。皆さんのなかで個人でなく会社でTwitterをはじめとしたソーシャルメディアに取り組んでいる方はいらっしゃいますか? (会場挙手)おお、一応いるんですね。なにかお悩みの点というのはありますか?

津田:企業向けにソーシャルメディアなんかの講演やセミナーをやると、FAQで必ず出てくるのが「フォロワーが増えないのですがどうしましょう」という話で(会場笑)。

本荘:単純につまらないからじゃないですか?(会場笑)。

津田:実際そうなんですが、そう言っちゃうと身も蓋もないので(笑)、よくアカウントを見せて貰うんです。そうすると、確かにフォロワーが少なく、動きがない。これは、だいたいにおいて、自社情報しか載せていないからなんです。それでは増えないのは当たり前ですよ。その会社にもともと興味がある人はフォローするでしょうけど、そうでなければフォローするインセンティブや理由もないですから。

ですから私がお勧めしているのは、たとえばアウトドア用品のメーカーならもう自社製品をPRせず、アウトドアに関連する情報やコミュニケーションをとにかく色々発信していく。自社が関連するジャンルについてウェブマガジンのような意識で話題のネタふりや情報提供をしていくんです。そうすると同じジャンルに興味のある人がフォローしてくれるようになりますから、フォロワーは広がりやすいですよね。そんな情報提供が5割ぐらい、あとはユーザーサポートのようなコミュニケーションが3割ぐらい。で、自社製品などの情報は2〜3割ぐらいに収めておくのがいいんです。それぐらいのバランスでやれば恐らくはフォロワーも増えていくと思います。

これは去年のことですが、「うまいなあ」と思ってすごく印象に残った話がありました。アイスクリームのハーゲンダッツもTwitterアカウントを持っているんですよ。彼らのアイスは割と高級なブランドイメージがありますよね。ただ、Twitterの使い方がすごくうまかった。たしか宣伝部の部長さんかどなたかがTwitterをやっていらっしゃるんです。で、去年の夏、38℃ぐらいの猛暑日になったある日、彼らは「いやー、今日は本当に暑いですね。こんな暑い日は『ガリガリ君』に限りますよね」ってツイートしたんです(会場笑)。これはかなり笑える話ですが、実はソーシャルメディアの本質を突いていると思いました。ライバル企業のアイス、しかも高級アイスではなく安くてジャンクなアイスなのに、暑い日はそれを食べるのがいいなんてなんだか洒落も効いていますよね。「それならちょっとフォローしようか」とも思いますよ。ライバルに塩を送っているような部分もありますが、あれはあれですごく象徴的だし、うまい使い方だと思いました。

本荘:そこは先ほど仰っていた動員という考え方もすごく重要になると思いました。単に人を集めようというのではなくて、皆が共有出来るテーマがあったときに人が集まるということですよね。アイスであれば「暑いときに皆でハッピーになろう」なんていうテーマだったからこそ動員力が一気に上がったという。

津田:そうですね。先ほど本荘さんが仰っていたみたいに人間性が溢れ出しているような情報は人を集めていきます。それで一番成功している企業アカウントは、これはもう間違いなくNHKのPRだと思います。ここはすごいですよね。コミュニケーション能力の高さと話題のネタふり能力がとにかくすごい。NHKというブランドだけではなくて、やはり使い方が本当に巧いと思います。

本荘:Twitterにおけるひとつのお手本ですよね。どんな風にツイートをすれば良いのかという点で参考になります。

津田:リアルタイムでやっているし、洒落も効いているし、コミュニケーションの回路も閉じない。しかもきちんと必要な情報も真面目に発信しているという。

本荘:ときどき個人ネタもちらっと書いたりするんですよね。実は阪神淡路大震災を経験していたなんていうことが分かったりして。

津田:実際にツイートしている人の素性は微妙に明らかにされていないというのがまた巧いんですよ。ミステリアスで(会場笑)。NHK内の個人なのですが性別も明らかにしていない。ところが少しずつ人間性や情報が小出しで出てくるんですよね。ただし全貌は分からないままと。NHKはPRだけではなく科学文化部など色々なアカウントを新しくTwitterでオープンさせていますよね。で、どのアカウントも使い方がすごく巧い。最近は巧すぎて少し鼻につくぐらいの感じになってきましたけれども(会場笑)。

本荘:そうですよね。そういえば皆さんもご存知かもしれませんが、震災直後にNHKのプログラムがUstream放送されてしまっていたという出来事がありましたよね。

津田:たしか中学生が最初にやったんですよね。勝手にはじめてしまって、「これは著作権違反ではないんですか?」なんていう文句も来ていたようですが、そんなクレームが増える前にNHKのPRのほうから「ここで見れます」とUstreamの(勝手にアップロードされた映像の)URLを紹介してしまった。かえって周りが「大丈夫なんですか?」と言うのに対して、「私が責任をとります。これを今必要としている人たちがいるんです」と。その毅然とした姿勢もあって、すごく話題になった。たしか震災発生から1時間か2時間ぐらいですよ。で、そのあとの6時か7時ぐらいにはNHKが公式にUstreamでサイマル放送をはじめていました。

本荘:それを民放が後追いしましたよね。局によって対応が違っていて興味深いと思いましたが。

津田:サイマルをやったのはTBSとフジとNHKでしたかね。実は当初、あのサイマルについては「意味があるのかな?」と、私は思っていたんです。便利ではあるけど、ほとんど東京の人間が見ているだけじゃないのかと感じたので。でも実際はそんなことありませんでした。後日、被災地で取材してみると、テレビは見られなかったけれどもネットは通じていたという地域が結構あったんですね。たとえば気仙沼は本当にひどい被害で、ケーブルテレビの局社がまるごと流されてしまっていた。地方で電波が届かない地域は総務省の方針でケーブルテレビがすべて代用していたりするから、それでテレビが見られなくなってしまっていたんです。だからネットが先に復旧した気仙沼市役所などは、ネットでNHKを見てその情報を市民に伝えるということをやっていました。多様な情報を多様な手段で流すというのはすごく意味があるんだなと思いました。

本荘:気仙沼の市役所なんてすぐにTwitterアカウントをつくりましたよね。たしか震災発生数日後に総務省が各自治体でTwitterアカウントをつくるように言っていました。これはかなりエポックメイキングだったと思いますが。

津田:動きが早かったですよね。防災担当の方にそういったネットリテラシーがあるところは早かった。ただ、これはやはり担当者個別のリテラシーによるところが大きい。本当なら統一していきたいですよね。たとえば安否情報は[#anpi]というタグをつくるとか、とにかく書式を統一しておく。そうすると今度はマッシュアップが色々と出来るじゃないですか。データを取得して見やすく整理するといったことも出来るようになります。そこを揃えていくような方針が今後は出来ればいいなと思います。

書くかどうか迷ったら、とにかく書く

本荘:そうですね。データのマッシュアップというと、そういえばソーシャルメディアとは若干違いますが、『sinsai.info』、『助けあいジャパン』、あるいは『Google Person Finder』だとか、もう震災発生当日にウェブを立ちあげていたところがかなりありましたよね。あちこちでコラボレートしていました。『sinsai.info』も色々なボランティアが一気にネット上で集まってマッシュアップしていった。なんというか、動員というものとはまたニュアンスが違うかもしれませんが「一緒に何かやろうぜ」という声に対するリアルタイムのレスポンスがすごかったと思います。

津田:そうですね。これは私自身もそうでしたが、皆、阪神淡路や中越のときは東京にいたので何も出来なかったという気持ちがあったんだと思います。なにかこう、自分が出来ることはコンビニでおつりを義援金にするぐらいしかないのかなと思っていた。ところが今回に関しては情報網やソーシャルメディアが発達して、全国の人が「お金以外のことで何か出来ることがあるんじゃないか」と思えた。実際、その道筋も示されましたよね。それで皆が出来ることをやっていったというのは本当に大きいと思います。

それこそ『Google Person Finder』なんて避難所の掲示板にあった写真をPicasaで共有して、そこに上がってきたものをどんどん入力していくというアナデジ変換みたいなことを人力でやっていました。たしか5000人ぐらいの有志がボランティアでがんがん入力していったんですよね。ああいう動きが出てきたのはすごかったなと思います。

本荘:あれは、(グーグルOBの)高広(伯彦)さんが「手書きのものをデジタルにすればいいじゃないか」とツイートしたら、それをグーグルの方が「アイディアいただき」ということで正式にローンチさせたみたいですね。

津田:そんな風にソーシャルメディアで物事が決まるスピードを私自身もひしひしと感じたことがあります。実は去年4月から早稲田の大学院のジャーナリズムコースでTwitterのジャーナリズムを教えているんですね。で、これが決まったきっかけもTwitterでした。

2009年の秋にシカゴのデポール大学で世界初のTwitterジャーナリズムという授業が開講したんですが、私自身は2007年からTwitterをジャーナリズムに使えないかとずっと考えていたので「先を越された」と思ってすごく悔しい思いをしていました。ですから去年の1月頃に「大学でTwitterのジャーナリズムを教えたいなあ」なんてツイートをしたんです。つぶやきというか、もうぼやきですね。そうしたらそのツイートを見ていた早稲田J-Schoolの田中先生という方が「あ、津田さん、やりたいなら私の授業のコマを半分あげるからやってください」と言ってくださった。それで「分かりました」ということで5分で決まり、もう4月から授業がはじまったんです。「そんな簡単に非常勤が決まっていいのか? 早稲田も緩いなあ」とそのときは思いましたが(会場笑)。

本荘:ソーシャルウェブ関連のちょっとしたきっかけで人生が変わった、という話は私もよく聞きます。

津田:そうなんですよね。その仕事にしても、思っているだけでツイートしなかったら決まっていなかった。ですからソーシャルメディアをやっていて気がついたことがあるんです。これもよく言われるTwitterの紋切り型批判ですが、「他人のカレーライスを見て何が楽しいんだよ」なんていう指摘があるじゃないですか。「別にお前が渋谷にいようと知ったことじゃないんだよ」みたいな。たしかにソーシャルメディアで発信される情報の9割から9割5分は他愛のないものなんです。ですから「他愛のない情報だから書いても仕方がない」なんて本人も思いがちになります。

でも、実は自分が書いた情報というのが他人にとってはものすごく価値を持っていたりするんですよ。自分にとっては意味のない情報が他人にとってすごく意味があることはあります。好きな人だったり、興味がある人の情報なら、「あ、カレーライス食べるんだ」となる(会場笑)。自分にとって重要な人の情報であればなんでも欲しいんですよね。そういう部分に気がついたのは発見だったと思います。情報はそれを書いた人のパーソナリティと結びつくことですごく貴重になっていくという意味では、何がどういうきっかけになるか本当に分かりません。それならばなんでも良いから書いておいて、とにかく色々な人とつながるきっかけを増やそうという考え方がすごく重要になると思います。

本荘:そう考えると、それまでつながっていた人と改めてつながり直すということもありそうですよね。ある人とは今までも一応つながっていたけれど、実際にはその一面性しか見ていなかったという人は多いじゃないですか。そこで新しい夜の顔を見るとか(笑)。

津田:(笑)

本荘:とにかく多面的に見ることが出来るようになる。

津田:そうですね。単純な話、大学教授が24時間真面目に研究のことだけ考えている訳ではないですから。プロレス好きでプロレスのことをツイートする大学教授だっています。逆に普段はおちゃらけたことしか言わない人間について「あ、あいつは政治についてずいぶんしっかりした考え方を持っているんだなあ」なんて分かったりすることもある。そこでまた人に興味が湧いてくるというのがソーシャルメディアの魅力だと思います。

本荘:私も学校で教えてはいますが、Twitterでたまたま年上の女性に「しゅーちゃん」と呼ばれたら、教えていた生徒に「ほ、本荘先生が“しゅーちゃん”ですか」なんて言われて。「そりゃ母親は俺のことをしゅーちゃんと呼んでるしね」なんて言って(会場笑)。自分がどんな風に見られているかというのも分かって面白いです。

津田:思っていても書かないと分からないから書く。これ、すごくいいことだと思います。Twitterでよくありがちなのが、知らない人を含めて「フォロワーが100人ぐらいになってから思うようにものが書けなくなった」というケース。Twitterはパーソナルなものですがメディアではあります。だから最初は知り合いとしかやっていなかったのに上司にフォローされたとか、そういうリアルな人間関係(会場笑)も絡んできて書けたいことが書けなくなるということは往々にしてあります。こういったものが実は一番越えなければいけない壁だと私は思っていますが。

そこでフォロワーの目を気にしだすと、もう何も書けなくなります。ポリティカル・コレクトネスな発言しか出来なくなってツイートがつまらなくなってしまう。そうなるとフォロワーも増えないし、実はソーシャルメディアの可能性を殺してしまっていると思います。

私もフォロワーが1万人を超えるか越えないかぐらいのときに少し悩んだ時期がありました。140字で文脈も分断されるから荒れやすいですし。でもそのときに方針を決めたんですね。思っても書かなければ仕方がないからとにかく書こうと。「これを書いたら荒れるかな、どうしようかな」と悩んでいるときはもう100%書くようにしました。悩んでいるという時点で「これはきっと書きたいことなんだ」と思って書くようにしたら、それからずいぶんラクになりました。ソーシャルメディアを使うときは必ずそうすべきという話ではないし、悩んだら100%書かないという選択肢でも良いとは思います。ただし自分なりのルールを決めて、そのルールに従ってやるのが恐らくは重要だと思うんですね。

ソーシャルメディアはリアルの密度を濃厚にする

本荘:ちなみに会場のなかでリードオンリーの方はどれぐらいいらっしゃいますか? たとえばTwitterなどでも読むだけという方。(会場挙手)少数ですね。まあ、グロービスさんですからね。「志を持て、情報発信だ」となりますから(会場笑)。

津田:あと、私としてはTwitterとFacebookの使い分けが気になるところです。

本荘:アメリカの友人ですと友達関係はFacebookにまとめてビジネス関係はLinkedInにまとめるなんていう人もいますね。

津田:それはあるかもしれないですね。私もFacebookはそこまできちんと出来ていないのですが、Facebookはものすごい勢いでプライバシーが漏れていくじゃないですか。ですからきっと本当に顔が見えて一緒に飲んだりするような、仲のいい友達と機密を共有することによってより親密になるツールのような気がしています。知らない人とFacebookでたくさんつながってもあまり面白くないというか。

本荘:たしかに。

津田:Twitterは異業種交流というかオープンでフラットですよね。いわゆる承認がいらないから、ある意味、参加も離脱も自由な立食パーティーとか異業種交流といったイメージがあります。で、そうではない親密な濃いやりとりをするのがFacebookといったように、使い分けをしたほうが恐らくは良いのかなと思います。

本荘:個人として使うにはFacebookも良いのですが、企業が使うとなるとアップデートの頻度も高過ぎる気がします。機能的にもビジネスルールも。ですからなかなかハンドルしづらいですよね。ある巨大企業ですら、いきなり2回もページを利用停止にされたほどですから。

津田:最近は「FacebookやTwitterでどうマーケティングすればいいんですか?」というお話を結構聞きます。最近はお金をかけている広告代理店も皆苦労しているんですね。そこまでクライアントが望む効果が出ないと。実際のところ、マス広告に比べたら効果ははるかに低いのですがクライアント企業のほうはやりたがるということで代理店はすごく苦労している。一般的な広告であれば一度制作して出してしまえば終わりです。手離れも良いのですが、ソーシャルメディアはそこから継続的にコミュニケーションを行う必要があるし、メンテしなければいけないという面倒がある。ある意味ですごく代理店泣かせになっているなと感じます。

ですから私としては少し考え方が変わってきました。ソーシャルメディアというのはむしろCSRのツールとしてブランディングに使えば良いと最近は思っているんです。特にリーマンショック以降、CSRやかつて企業メセナと言われていたような活動のブームはかなり下火になっているように思います。でもそこで「震災に対してこういった活動をしています」という情報を企業がソーシャルメディアで発信すればすごく広がりやすくなると思うんですよね。普通にCSRの部署でCSRをやろうとするとすごくお金がかかるじゃないですか。ですからそれをソーシャルメディアに移してしまう。それだけでコストも恐らくは10分の1、場合によっては100分の1にも出来る可能性があると思います。それで企業のブランディングをしたほうが実は効果的ではないかなという考え方に最近はなっています。

本荘:そのCSRをもう少し広げて考えてみると、スポーツやアイスクリームといったテーマで情報を広げていけばファン層が積み重なっていくという先ほどのアプローチにもつながりますよね。直接的な売上に結びつかなくても。もちろんその点について社長に「そこの部分のROIはどうなんだ」と言われると「分かりません」としか言いようがないのかもしれませんが、着実にファンは積みあがっていく。少なくともそんな構図はあると思います。

一方、企業ではなく個人はどうですかね。先ほど津田さんからTwitterで「教えたい」と言ったらすぐに決まったというお話がありましたよね。実際のところ、(このセッションの間ずっと)Twitterで募っていたご質問やご意見のなかに「Twitter結婚した人もいますよ」という書き込みがありました。ソーシャルメディアで人生が変わることはあるんだなと思います。

津田:私の友達でもTwitterをきっかけにして転職を決めた人はたくさんいますよ。これは音楽業界に勤めている友人の話ですが、そこ子はもともと第一希望とは異なる勤め先で働いていたんですね。ただ、その子はTwitterで音楽業界のとある社長さんと知り合いになっていたそうです。で、その子がたまたま博多へ旅行に行ったとき、その社長さんも本当にたまたまなのですが博多にいたというハプニングがあった。ですからTwitter経由で「あ、博多にいるんだ。それならめしでも食おうか」と、会って色々と話をしてみたそうです。そうしたら「君は面白いね」ということになって、もうその3カ月後には「ウチにくる?」とヘッドハンティングされて転職した。そんなハプニングもソーシャルメディアでは起きやすい。すごく面白いですよね。

本荘:面白いですね。グループの動員というだけでなくて1対1のつながりというのもあるんですね。人間くさいメディアですから。

津田:よく「Twitterをやっている暇があったらリアルを大事にしろ」なんていう(会場笑)、これまた紋切り型の批判がありますよね。これに対しても私は真っ向から反対しています。ソーシャルメディアはリアルを…、たとえば人と会うときの密度を濃くしてくれると思っているんですよ。たとえば1年ぶりに誰かと会って「ちょっと飲もうか」と飲みはじめますよね。で、乾杯と言ってビールを口にする。するとそこからどうなるかというと、だいたい最初の1時間は互いの近況報告なんですよ。最近は何をやっていたのかなんていう話ばかり。ところがソーシャルメディアで互いをフォローしている状態であれば久しぶりに会う人とでもいきなり本題に入ることが出来ます。「この前のあれはどうだったの?」と、近況報告を省きつつ生活や仕事に関して次々と会話のキャッチボールを成立させることが出来ます。ですからリアルを大切にしたい人ほどソーシャルメディアをやったほうが良いと私は思っているんですよね。

本荘:それは企業でも役に立ちそうですよね。同じ会社の人でもよく知らない人はいるじゃないですか。でもNTTデータのように社内SNSをやっている企業であれば「あ、この人はこういう人なんだ」とすぐに分かる。そうするとたとえば違う部門の人間に何か仕事を頼むとき、ものすごくラクになるような気がします。

津田:「あ、あの人フジロックに行くんだ。それなら誘ってみようか」とかね。

本荘:そうそう。そういうチームが生まれやすくなるのは面白いですよ。

津田:本来ならつながらなかった人がつながるという、その力ですよね。

本荘:そう。それが仕事上プラスになることもあれば、人生をハッピーにすることだってある気がします。いきなり話が変わるようですが、たとえば数年前に「世界の幸福度調査」というものが話題にありましたよね。たしかイギリスのレスター大学が世界178カ国で幸福度調査というものを実施した。そこで日本は何位だったと思いますか? 世界178カ国中で。…と、こんな質問を振っても当たらないですよね(笑)。日本は90位だったんです。そのすぐあとに続く順位3桁の国々というのは、これはもう食べることが出来ないとか内紛がすごいとか、そんな国ばかりでした。

津田:たしか北欧の順位がすごく高いんですよね。

本荘:そうなんです。そういう視点で考えても日本人はこれからソーシャルウェブを活用して、もう少しハッピーに出来るんじゃないかなという気がしています。

津田:そう思います。ただ、恐らくそのためにはソーシャルメディア時代にあったコミュニケーション能力のようなものがより一層求められていくのだと思います。

本荘:そうですね。なにかこう、終盤あたりでグロービスにフィットするような感じにまとまってきました(会場笑)。「コミュニケーション能力だ」と(笑)。

津田:(笑)でも本当にそう思います。ただ、私自身も引っ込みじあんなほうだったので、コミュニケーションが苦手な人からすると「結局はコミュニケーション能力か」と、少し落ち込んでしまうオチなのかもと思うのですが、私としてはひとつだけ希望を見出しているところがあるんですね。実際、現実社会でコミュニケーション能力がある人は、やはりソーシャルメディアでも多くのソーシャル・キャピタルを手に入れていることが出来ます。ただしそんな能力がそれほど高くなくても、たとえば自分の個人情報をひたすら“さらす”ことで人気者になれるなんて道もあるんですよ(会場笑)。「なぜこんな失敗談をさらすの?」なんていうぐらい、もう“ひとりトゥルーマン・ショー”状態なことをやっていると、それはそれで何か新しい環境を生み出していけることもありますから。

本荘:くだらないことを1回やったとして、それが面白くなくても100回積み重なると面白くなってくるなんていうことはよくありますからね。

津田::そうそう。続ける力というか(笑)。

本荘:誰でもトライを続けていればなんとかなるということですね…、といったところでそろそろQ&Aに移ってみたいと思いますが、皆さまいかがでしょうか。Twitterで募っているご質問でも結構ですが。

津田:タイムラインに「これは」というのがあればそれも見てみましょう。こういうときに会場で挙手を募っても「しーん」となってしまうことは多いのですが、Twitterにはすごく集まるんですよね(会場笑)。皆さんどれだけシャイなんですかと(笑)。

本荘:(笑)もちろん会場でも結構です。あ、ご質問があるようです。

会場:ソーシャルメディアと教育という視点で質問をさせてください。大学をはじめとした教育機関だけでなく、親の教育を含めて今後の世代がソーシャルメディアを正しく活かしていくためにどういった教育が必要になるのか。津田さんのご意見をお聞かせいただきたいと思いました。

リテラシー教育は重要

津田:ストレートな回答になっているかどうか分からないのですが、ソーシャルメディアを使うために必要となるリテラシー教育が特に重要だと感じています。これについては私自身もかなり悩んでいまして、実際、難しい問題ですよね。ソーシャルメディアの発達に伴って生まれてきた問題のひとつに、パブリックとプライベートの領域が曖昧になってきたという点がある。

以前、都内のあるホテルでアルバイトをしていた子が著名人の宿泊をツイートしてしまったという出来事がありましたよね。当然それは職務規程違反で、結果としてツイートした子はネット上で叩かれまくるという、いわゆる炎上事件になりました。恐らくその子は友人に話している感覚しかなかったのだと思います。もしその話を4人ぐらいしかお客さんがいない飲み屋で話していただけなら、もちろん倫理的には問題ですが、少なくとも大事件にはならなかった。ほぼプライベートな空間であれば私もOKだったと思います。問題はそれと同じような感覚を持ったままパブリックな空間で情報を発信してしまったことですよね。ですから、ソーシャルメディアに何かを書くことはパブリックな行為だという意識をどのように教えていくかが鍵になると私は考えています。

ソーシャルメディアで何かを書くということは、マイクを通して話すようなことだと思っているんですね。マイクを通して話すと自分の声もスピーカーから客観的に聞こえますから、そんな状況であれば伝える内容も多少は形式ばるというか、注意するようになる筈です。我々はそういったリテラシーをこれから教えていかなければいけない。ソーシャルメディアはパブリックであって、パブリックにものを書くとどんな影響があり得るのか。そういうことを教えていくのは特に重要だと思っています。

本荘:付け加えると、「そもそも人とつながるって何だ?」ということを、それこそ小学生のころから情操教育として伝えていくのも重要かなと感じます。ばらばらになってしまっている日本人の心がそもそも問題の前提として存在していると思うので。とにかく社会全体がばらばらになってしまっている。そこで「人と人ってどんな風につながるのか」とか、その辺を初歩から教育していくのが良いのかなと思いました。

似て非なる例ですが、あるレストランに有名人の○○さんが来たとき、そこで働いていた従業員が「○○が来たぜ。大嫌いだ」とツイートしちゃったなんていう出来事もありましたよね。それはもう根本的あるいは基礎的な情操教育が出来ていないからだと思うんですよ。ですからコミュケーション教育として段階を経ながらリテラシーを培っていくような形にするべきなのかなと、私は思っています。

会場:教育に関連した質問の延長かもしれませんが、TwitterやFacebookはどちらかと言えば社会人向けのプラットフォームのように感じます。これを特に10代、あるいは中高生ぐらいの世代が活用するとなると、どういったアプローチをとっていけば良いと思われますか? もしくは新たなプラットフォームが必要になるものなのか否かという点について、ご意見があればお聞かせください。

津田:それについては、実はNHKで7月16日に放送予定の『課外授業 ようこそ先輩』という番組に出演していて、そこでかなりお話ししているんですね。私自身の母校を訪れて中学生にTwitterを教えています。相当工夫してやったつもりなので、恐らくそれを見ていただけると良いかなと(会場笑)。

会場:ずばり、3年後のソーシャルメディアはどうなっていると思いますか?

津田:はい。たとえばTwitterに関してお答えしていくと、特に日本ではどこかで限界が来ると思っていました。ユーザー数で言えば2000万〜3000万人で頭打ちになるだろうと思っていたんです。というのも、日本にはオープンに何かを決めていく楽しさがないというか、基本的には根回し社会だと感じていたからなんですね。恐らくすべての人がソーシャルメディアのような空間でオープンに物事を決めていくような文化は根付かないだろうと。それがユーザー数の限界にも表れると私自身は考えていました。

ところが震災でそれが少し変わったというか、風穴が開いたように今は感じています。それまで根回しで進めてきた結果が今の混乱であったり、原発事故だったり、ガバナンスがまったく効いていない保安院だったりしている訳ですから。ですからそれをオープンな場で新たに民間で進めていこうという空気も、少しずつではありますが生まれてきているような気がしています。そういった殻をもし破ることが出来れば、たとえばTwitterのユーザー数であれば5000万〜6000万人とか、そんな結果にもつながるというその可能性が見えてきたように思えます。

本荘:ほぼ同感ですね。浸透度はあがると思います。ただしその具体的プラットフォームが相変わらずTwitterやFacebook、あるいはmixiのままかという問いであれば、それはクエスチョンマークですね。むしろ個人的にはさらにベターなものが出て欲しいと願っていますので。ですから皆さん起業してください(会場笑)。

津田:先ほどお話ししたマイクロペイメントがそこに組み込まれていくと、またもうひとつ大きな社会の礎というか、インフラになっていくのかなと感じます。まあ、恐らく3年後であればTwitterもFacebookも続いているとは思いますが。TwitterはTwitterで狙っているし、FacebookもFacebookポイントをどんどん拡張していますから。

会場:今日はソーシャルメディアによって社会と個人のあり方が変わるというお話がありました。これは、今までのように巨大なメディアが一方的に情報発信をするという構図から、今後は個人個人が発信していく時代になるということでもありますよね? そういう時代になりますと、津田さんのように個人として広く情報を発信出来る方が出てくる一方で、…たとえば私はそうなのですが、フォロワーも少なく何かツイートしてもメディアとして力を発揮出来ない個人も数多く出てくるような構図になると思っています。そうなると、ソーシャルメディアが非常に大きな役割を占める社会において個人はどのように情報を発信していけば良いものなのでしょうか。少し抽象的な質問になりますが、ご意見をおお伺いしたいと思いました。

津田:よく「ソーシャルメディアはエンゲージメントだ」と言われていますが、とにもかくにもまず情報を発信することだと思います。自分のフォロワーが何を求めているか、ある程度リサーチというか考えたうえで必要な情報を投げていく。そうすればいずれフォロワーは増えていくのではないでしょうか。

あとは自分自身がフォローを増やすことですね。Twitterなら2000人まではフォローできますから。フォローすればそのうち7割前後はフォローを返してくれます(会場笑)。まずはそれでいいのではないでしょうか。そのなかに余計な人たちがいるのなら後からフィルタリングしていけば良いのであって、まずはフォローの数を増やしていくこと。そこでつながった色々な人たちとコミュニケーションしていく。そんな感じで勝手に突っ込んだり絡んだりしていけば、ある程度までフォロワーを増やすことは出来ると思います。

本荘:あと、Twitterユーザーには単なる暇つぶしでやっているという人も多いと思うので、ご自身も一面ではそのような感覚を持たれたほうが良いのかなと思います。割とロジカルに捉えていらっしゃいるようですが、実はユーザーの大半がそうではなかったりするので(笑)。硬軟合わせて活用していくのが良いかと思います。

会場:今日のお話にあったようなハーゲンダッツのように、なんらかのネタを提供することでユーザー支持を得られるというのはたしかにその通りだと思います。ただ、そのなかにハーゲンダッツのターゲットになるユーザーがどれほどいるかということが企業としては気になるところなのかなと感じました。ユーザーの支持を得ることとターゲットの含有率を保っていくことの両面を考えたとき、マーケッターとしてはどのようにソーシャルメディアを活用していけば良いのでしょうか。

津田:そこは、いわゆる囲い込みのブランディングをしたい場合とそうでないケースで変わってくると思います。ハーゲンダッツのように高級ブランドとはいってもコンシューマ

ブランドであれば、今までつながらなかった人たちとつながるということで意義はあると思うんですね。それによっていつもはガリガリ君しか買わないターゲットが「たまにはハーゲンダッツもいいか」と思うきっかけになると思いますから。本来はターゲット層にならなかった人々すら引き込むような力を、恐らくソーシャルメディアは与えてくれるのではないかと思っていますので。

本荘:そこは既存のマーケティングにおけるターゲット概念を一度忘れ、新しい体系を組むというのもひとつのアプローチかと思いますね。

津田:そこが本来のターゲットであってもなくても2万や3万、あるいは10万とフォロワーが増えていけば、そこで何か新しいことにトライ出来る可能性もありますよね。新しく市場をつくっていけるということでもあると思いますから。

会場(続き):ただ、ターゲット外であるユーザーとのコミュニケーションということであれば、Twitterはそれほどでもありませんが、特にFacebookはかなりのコストが発生してしまうように思えます。ですからシンプルな設計でスタートしても継続的にコストが発生してしまう場合はどうすれば良いかと思ってしまうのですが。

津田:それは担当者次第だと思います。要するに担当者のコミュニケーション能力。これは本荘さんとの誌面対談でもお話ししたことですが、とにかく宴会部長みたいな人間を担当にすれば良いと私は思っています。調整力があり、かつ突発的なトラブルにも対応出来る人を採用するということですね。あと、皆さまの周りにも24時間飽きずにツイート出来てしまうような人ってたまにいますよね。“コミュニケーショ廃人”のような(会場笑)。そういう人は特に向いていると思いますから、もうその人にぜんぶ押し付てしまう(笑)。いずれにせよ、そんな風に担当者次第で費用も十分回収出来るというか、ROIを押しあげることは可能ではないかと思っています。

本荘:逆に言えばお金だけでは解決しないという考え方も出来ますよね。さて、いずれにせよ時間も迫って参りましたので、今回はこの辺で締めさせていただきたいと思っています。皆さま、今日は本当にありがとうございました(会場拍手)。

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