『グロービスMBAクリティカル・シンキング』の4章から「好循環と悪循環」を紹介します。
好循環と悪循環は、問題解決に大きな力を発揮する「システム思考」の中でも、最もシンプルでありながら、応用範囲の広い考え方です。うまくいっている企業や商品は、何かしらの好循環構造に入っていますし、逆の場合は悪循環構造に入っているものです。こうした構造はいったん加速がつくとなかなか止めることができません。ポイントは、好循環にせよ悪循環にせよ、最初はちょっとした循環だったものが、気がつくと大きなうねりとなって加速度が増していくことです。最初は微差だったものが、気がつくと大きな差になるとも言えます。特に大きくなった悪循環は制御が難しく、それを止めるのは大変ですから、初期の小さな兆候を見逃さず、傷が浅いうちに適切な手を打っておくことが大切なのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
好循環と悪循環
多くのビジネスにおける事象は、複数の要因が絡み合って起きるケースがほとんどであるが、中でもこうした構造的な因果関係が、好循環に作用する場合、もしくは悪循環となる場合がある。ある原因が先にあって、そこから結果が生まれるといった単純な因果関係、たとえば、
●賞味期限の切れた牛乳を飲んで、腹痛を起こした
●喫煙の習慣は、肺がんを誘発する
といった、1つの原因が結果を生む場合があるが、ビジネスにおいては、「にわとり―たまご」のように原因が結果を生み、その結果がまた原因になる因果関係が非常によく観察される。たとえば、以下の関係がそれである。
●売上高と広告支出
●新製品の発売数と新製品のヒット数
●営業売上と営業部門の活気
「売上高が増えると広告支出が増える」のか、それとも「広告支出が増えると売上高が増える」のか。「売上高が増えると、広告に充てられる予算が増えるから広告支出が増える」とも言えるし、「広告支出が増えると、その効果が表れて売上高が増える」とも言える。同様に、多くの新製品を投入すればその中でヒット製品が生まれ、ヒット製品が生まれると業績が上がり多くの新製品を生み出す投資ができる。このように、柤互に原因と結果になっているような関係が、「にわとり―たまご」の因果関係だ。
通常、企業経営上望ましい「にわとり―たまご」の因果関係を「好循環」(グッドサイクル、拡大サイクル)と呼び、企業経営上避けたい「にわとり―たまご」の因果関係を「悪循環」(バッドサイクル、縮小均衡サイクル)と呼ぶ。なおこの場合、「にわとり―たまご」の因果関係を構成する要素は2つとは限らない。
図は、ある商品のブランドカ構築を取り巻く好循環と悪循環を簡略化して示したものだ。まず、好循環のほうを見てみよう。宣伝などのマーケティングと高品質の製品づくりを進めた結果、顧客の間で評価が高まり、ブランドカが形成され、売上げが伸び、そこから生まれた利益をマーケティングと品質の維持に投資する、という因果関係ができている。
好循環と悪循環
一方で、これらの要素の1つでも逆の方向に行くと状況はいっきに悪化し、悪循環に向かう。たとえば、何らかの理由で顧客の評判が悪くなれば、ブランドカは落ち、その結果として売上げが落ち、マーケティングへの投資を減らさざるをえなくなる。それはさらなるブランドカの低下につながっていく。
一般に、よい業績を残している会社には、「よい業績」を軸に、複数のグッドサイクルが回っている場合が多い。たとえば、上記の、
よい業績→マーケティング投資→顧客の評判の向上→ブランドカの向上→よい業績
というサイクルと同時に
よい業績→高い給料/活気のある職場→従業員のモチベーション向上→よいサービス→顧客満足の向上→よい業績
というサイクルも回っていることが多い。
読者の皆さんも一度、自社において回っているグッドサイクルとバッドサイクルを分析してみると、自社の強みや、クリアすべき課題が明らかになるだろう。なお、注意すべきは、好循環にせよ悪循環にせよ、いったん回り始めたサイクルは加速しやすく止めることは難しいという点だ。どこか一点で歯止めをかけようとしても難しく、サイクルの2カ所、3カ所に同時に働きかけなくてはならないことが多い。図のブランドのバッドサイクルで言えば、これを止めるには、マーケティングや品質への投資を増やすだけでは不十分で、投資の源泉を確保するために、別の部分でのコスト削減などにも取り組まなくてはならないかもしれない。この事実は、サイクルが回り始める初期の段階(慣性力が弱い段階)にアクションを取ることの重要さを示している。
次回は、『グロービスMBAクリティカル・シンキング改定3版』から「第3因子の見落とし」を紹介します。