このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、重要パートを厳選して、抜粋掲載していく、ワンポイント学びコーナーです。
今回は、『グロービスMBAマネジメント・ブック』より「マーケティング」の章から「顧客維持型マーケティング」をピックアップしました。顧客のLTV(Life Time Value)を上げることの重要性はさまざまなところで語られていますが、どのような背景からそうした考え方が生まれてきたのか、あるいは、特にどのような場面や商材でそれがより効果的となるのか、しっかり理解しておく必要があります。
顧客維持型マーケティング
【POINT】
マーケティングの目的は顧客創造重視から顧客維持重視へと徐々にウエートを移し始めている。新規顧客を開拓するよりも、既存顧客の離脱を最小限に抑え、既存顧客からの生涯売上げを最大化するほうが効率的で、高収益につながるからである。
◆顧客維持型マーケティングとその背景
これまでのマーケティングは基本的に新規顧客を獲得すること、つまり顧客創造に重点が置かれてきた。しかし、それだけでは現在の厳しい競争環境を生き抜くことができなくなってきている。もちろん、新規にビジネスを始めるときにはすべての顧客が新規顧客であり、その意味では、新規顧客の獲得を目的とするマーケティングは今後も必要だ。しかし、ライフスタイルの多様化や顧客ニーズの変化の加速化により、不確実性の高い見込み顧客に対して多大なマーケティング資源を投じる、従来型のターゲット・マーケティングは通用しにくくなっている。そのため、一度引きつけた顧客との良好な関係を維持することで、1人の人間から最大限の収益を得る顧客維持型のマーケティングにも力を入れる必要がある。
企業にとって、顧客維持の意義は2つある。1つは、広告などを大量に打って新規顧客を獲得するよりも、少ないマーケティング・コストで収益を上げられることだ。ロイヤルティの高い顧客には、購買量の増加、営業費用の削減、クテコミによる紹介などの効果が期待できる。もう1つは、顧客からのフィードバックを製品開発などのマーケティング戦略に利用できることだ。
最近はITの進化により、顧客一人ひとりに対する情報管理やコミュニケーションを行うコストが劇的に低下し、顧客維持のための新たなマーケティングの可能性が広がっている。企業は、データベースを有効に活用するなどして、1人の顧客と生涯にわたって良好な関係を築くよう努力しなくてはならない。
ただし、顧客維持型マーケティングがどのような製品においても有効なわけではない。安価で対象顧客が多く、仲介業者を通すような最寄品は、メーカーの立場からの顧客維持型マーケティングにはあまりなじまない。一方、製品に占めるサービス部分が大きくなるほど、顧客との接点が増えるため、企業は顧客との関係維持により注力する必要がある。
◆顧客維持型マーケティングの類型
顧客維持型のマーケティング手法としては、「ワン・トウ・ワン・マーケティング」「データベース・マーケティング」などがある。
■ワン・トウ・ワン・マーケティング(リレーションシップ・マーケティング)
これは「顧客一人ひとり」を把握することを前提に展開されるマーケティングで、市場シェアを高めることではなく、「顧客内シェア」を高めることに焦点が置かれる。つまり、市場内の何人の顧客に買ってもらうかよりも、1人の顧客に何回買ってもらうかを重視するのである。
顧客を企業にとっての「パートナー」と考え、彼らとの間に好ましい関係や歴史を構築しながら、生涯にわたって彼らのニーズを満たす製品を提供し続け、最大限の利益をその顧客から得ることがポイントとなる。
■データベース・マーケティング
IT、特にデータ処理技術の進展とともに発展してきたマーケティング手法だ。この手法の特徴は、データベース化した顧客情報を加工して何らかの有効な仮説を引き出し、それをもとに新しいマーケティング刺激を創造し、顧客にフィードバックしていく点にある。そして究極的には、良質な顧客の囲い込みおよび拡大を目指す。ただし、データベースは情報の洗い替えや適切な分析加工が難しく、使いこなすためには高いスキルが必要である。
顧客維持型マーケティングと顧客創造型マーケティングの比較
次回は、アカウンティングのパートから「アカウンティングの目的」を紹介します。
(ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載しています)