このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、重要パートを厳選して、抜粋掲載していく、ワンポイント学びコーナーです。
今回は、『グロービスMBAマネジメント・ブック』の「アカウンティング」章から「アカウンティングの役割」をピックアップしました。アカウンティングはビジネスの共通言語であり、「アカウンティングがわからない」というのは「経営がわからない」ということとほぼ同じです。逆に言えば、経営を正しく理解する上で、アカウンティングの知識は必要条件です。特に財務会計と管理会計は、ビジネスリーダーとしては必須の素養であり、その差異を正しく理解し、使いこなすことが求められます。
アカウンティングの目的
【POINT】
アカウンティングには、外部ステークホルダー向けの財務会計/税務会計と、内部向けの管理会計がある。財務会計の目的は財務に関して客観的で公正な情報を外部に開示することであり、税務会計の目的は法人税額を算出することだ。一方、管理会計は企業内部の経営管理手法として、経営者の意思決定や業績管理などに活用される。
◆財務会計
財務会計は、株式会社における所有と経営の分離の理念に基づき、企業が会計原則に従った財務諸表によって、外部ステークホルダーに対して客観的かつ公正な企業の姿を開示することを目的としている。財務諸表は、損益計算書(P/L:Profit&Loss Statement)、貸借対照表(B/S: Balance Sheet)、キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement)の3つを柱に構成されている。これらの詳細は<4>~<8>で説明する。
財務会計はさまざまな法律や規則(会社法・金融商品取引法・税法など)によって厳格に規定されている。株式会社の所有者は株主であり、経営者は株主より経営を委任されて、企業活動に責任を負っている。したがって、株主は自分の所有物である会社の経営状況を把握する権利を持つ。また、株式会社の発達に伴って形成された証券市場を通じて、投資家(株主)は株式を売買し。株式会社は資金調達を行っている。そこで企業は証券市場という枠組みの中で、投資家が適切な投資判断を下せるようにしなくてはならない。そのため、企業は会計原則と証券市場のルールに則して情報開示を行い、会社の状況を的確に伝える義務を負っている。
証券市場ビおける情報開示の透明度は、一般に日本よりもアメリカのほうが高いと言われる。米国会計基準は日本の会計基準よりもさまざまな点で情報開示に対して高い厳格性を課しているからだ。しかし、企業活動のグローバル化やステークホルダーの多国籍化に伴い、日本企業にもより厳格でより透明度の高い会計基準による情報開示が求められるようになった。そうした動きを反映し、日本でも会計基準の見直しが行われてきている。その例として、連結を主、単体を従とした開示制度や、連結キャッシュフロー計算書の義務化、税効果会計や退職給付会計などの導入が挙げられる。
◆税務会計
税務会計は法人税額を算出するときの基礎となるもので、企業が課税所得や法人税額を算出し、それを税務当局に申告・納税するときの報告制度である。財務会計の目的は企業の経営状態を開示することだが、税務会計の目的は主として法人税額を算出することだ。このように財務会計と税務会計とでは目的が違うため、収益や費用などを算出するときのルールも異なる。したがって、財務会計上の利益と税務会計上の課税対象所得は必ずしも一致しない。
財務会計の視点からの「支払うべき税金」と、税務会計の視点からの「税金」の差異を表す会計を税効果会計という。これについては、<10>で触れる。
◆管理会計
管理会計は、会計情報を用いた企業内部の経営管理手法である。管理会計の目的は、財務会計のように外部ステークホルダーへの公開ではなく、経営状況を内部的に把握することにある。具体的には、損益分岐点分析や標準原価の把握、差異分析などの手法がよく用いられる。
今日、経営における管理会計の戦略的意義は一段と増している。企業経営が複雑化・巨大化し、また企業間の競争が激化するにつれ、部門間の業績評価や新規分野への参入など、意思決定すべきことも複雑化している。経営者が自社の経営状況を把握したり、戦略を策定する際には、どの部門も納得するような合理的な計算を行うことが求められる。そこに管理会計の意義がある。
次回は、アカウンティングのパートから「マネジメント・コントロール」を紹介します。
(ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載しています)