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それで比較していいの? -単位の落とし穴

投稿日:2010/10/20更新日:2019/08/15

問題です

以下の考え方の問題点は何か。

「ダルビッシュ投手の獲得に、あるメジャーの球団は65億円を用意しているという。数年前の松坂の時は確か60億円だった。若干、ダルビッシュの方が高いものの、やはり2人は同じ位に評価されているのかな」

(注:その後の情報によれば、ダルビッシュ投手の来シーズンからのメジャー移籍の話はなくなったようです)

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解答です

今回の落とし穴は、「単位の落とし穴」です。これは、何かを測定する際に、不適切な単位を採用したために、適切な比較ができなくなるというものです。第18回で説明した「AppletoOrange(リンク:第18回目)」の失敗例の1つと言えるでしょう。

今回のケースでは、ダルビッシュ投手に用意された額は、確かに日本円にすると65億円となりますが、ドル換算ではおよそ8000万ドルになります。一方、松坂投手に用意された金額はドル換算では5000万ドルでした(当時の為替レートは1ドル=およそ120円)。つまり、たまたまこの期間に円高が進んだため、一見、日本人の感覚で言うとほぼ同等の金額に見えますが、実際には、ダルビッシュ投手に用意された金額の方が1.6倍も大きいわけです(もちろん、こうした価格は、その時々の相場や移籍選手のアベイラビリティでも変わりますので、必ずしもダルビッシュ投手が松坂投手よりも良い投手だということを意味するものではありません)。

言うまでもなく、人々は、何か買い物をしたり、過去との業績比較などをする時、通常は自国の通貨で計算します。たとえば、日本人が日本で買い物をする際には、120円の缶ジュースはあくまで120円の缶ジュースであり、日本円で120円を支払います。その際に、これは1本1.5ドルだとか、3年前なら1本1ドルだったなどと意識する人はいないでしょう。

これは国の予算などを考える際も同様です。国際統計などでは、ドル換算した数字が載っていたりすることが多いですが、わざわざ予算を組む時に他国の通貨に換算して数字を決める国は基本的にありません。たとえば軍事予算を考える時、その国はあくまで自国の通貨に基づいて対前年より増やした/減らしたということを考えます。

たとえば、日本の軍事費(防衛費)は、2010年度と2009年度でおよそ4兆7千億円でほぼ横ばいです。中国が人民元単位で毎年10%以上の拡大を続けていることなどに比較すると、極めておとなしい伸び率と言えるでしょう(ちなみに、東アジア諸国では、自国通貨で軍事費がほぼ横ばいの国は日本など極めてレアなケースで、ほとんどの国では増やしています)。

ところが、もしこの数字をドル換算すると、現在、1年前より10%以上、円高が進んでいますから、海外から見ると、「日本は軍事予算を増やしている」などという、日本人の感覚値とは合わない解釈になってしまうのです。このケースでは、あくまで、その主体となる人々が意識、利用している通貨単位を用いて時系列で比較をしてみないと、ファクトを正しく押さえることができないのです。

金銭で比較する際には、物価という難しい問題もあります。たとえば、GDPなどの経年変化をみる際には、デフレーターという調整指数を使って、単に名目GDPの数字を見るだけではなく、実質GDPというものを計算します。デフレーターの数字などは、サイト「世界経済のネタ帳(リンク:http://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html#index03)」などを参考にしてください。昨今言われているように、日本が継続的なデフレにあることが分かります。

ちなみに、経済学では昔から、「インフレのコスト」として、経営者が適切な判断ができなくなるコスト(たとえば適切な値付けや予算設定ができない)などを指摘してきました。デフレの悪影響は、マクロに見れば、こうしたコストをはるかに超える甚大なものですが、「通貨の価値」の変化がミクロの意思決定をも曇らせてしまうという点にはインフレ同様に注意が必要です。

ところで、GDPなどは名目と実質の両方が発表されていますが、会社の売上げや利益は通常、名目の数字でしか示されません。考えてみれば不思議な話ではあるのですが、金銭という、ビジネスの基本となる単位1つをとってみても、こうした難しさがある点は理解しておいてください。

用いられている単位を理解しないと、ある現象が説明できない場合もあります。たとえば、アメリカの男性などに身長を聞くと、日本的に言えば182cmや181cmという人はなぜか少なく、一方で、183cmの人が非常に多くなります。これは、日本人の感覚ではなかなか理解できません。

種明かしをすると、183cmは、アメリカ流に言えば、ちょうど6フィートになるのです。つまり、5フィート11インチや5フィート11インチ半(12インチで1フィートになります)という微妙な身長の方は、ちょっとサバを読んで6フィートと申告するわけです。プロバスケットボールの選手などでは、実際には身長209cmや210cmの選手が213cmで登録されていることがありますが、これも、センター(バスケットボールのチームで通常、最も背の高い選手が務めるポジション)は7フィート(213cm)以上が望ましいという暗黙の了解に従った結果と言えます。

単位というものは、物事を測定する基本となるものです。大昔は、長さにせよ重さにせよ暦にせよ、単位を決めるのは、支配者に与えられた特権でもありました。しかし単位は、実は万国共通ではありませんし、特に金銭の単位は、今回説明したように「伸び縮み」するものでもあります。どのような単位を用い、何と比較すればより良い意思決定ができるか強く意識したいものです。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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