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生存バイアスとは【意味やひっかからないための注意点を事例で解説】ホントにそんなにうまくいく?

投稿日:2010/08/25更新日:2023/12/21

生存バイアスとは

今回の落とし穴は、生存バイアスの罠です。

生存バイアス(生存者バイアス)とは、脱落あるいは淘汰されていったサンプルが存在することを忘れてしまい、一部の「成功者」のサンプルのみに着目して間違った判断をしてしまうというものです。例えば、以下のケースを見てみましょう。

生存バイアスの例

「プロ野球選手の年俸調査によると、この不況下、1億円以上の年俸の選手が、全体の選手のうち、およそ10%もいる。10%は決して低い数字ではない。平均年俸も3800万円か。やはり高いな。うちの息子も体格や運動選手としてのセンスは抜群のようだし、ここはプロ野球の選手を狙わせてみようか」

今回のケースでは、プロ野球の選手会に所属する支配下選手(およそ750人)のうち、10%程度が1億円以上のプレーヤーであること、あるいは平均年俸が3800万円であることを理由に、息子をプロ野球選手にでもしようと考えていますが、典型的な生存バイアスの罠に引っ掛かっています。現在支配下登録されている選手は、基本的に、厳しい生存競争を勝ち抜いた(あるいは勝ち抜くだろうと評価されている)、いわば勝者ばかりです。若手でさえ、全く見込みなしと判断されれば、1、2年で解雇されるのがこの世界です。1、2年とは言わないまでも、数年たっても芽が出ず、無名のまま球界を去る若者の方が多いことは容易に想像がつくでしょう。

つまり、支配下登録にとどまれるという段階でかなりのエリートなのです。そのエリートの数字のみを見て、「平均的なプロ野球選手像」を描いてしまうのは、実態以上に物事を過大評価することにつながるのです。

生存バイアスは様々なシーンで現れる

この生存バイアスは、さまざまなシーンで現れます。たとえば株式やFXを売り込む際の、顧客の声やデータなどが典型的です。証券会社やFX会社は、マーケティングのツールとして、たとえば3年以上利用している顧客の平均リターンの数字を示すかもしれません。その数字はおそらく、初心者には魅力的な数字と映るでしょう。

しかし、よく考えれば、3年以上投資をしているという段階で、そこに強いスクリーニングがかかっていることが分かります。株式投資はプラスサムになりえますが、FXなどは基本的にゼロサム(手数料を引けばマイナスサム)の世界ですから、本来、期待リターンはマイナスのはずです。しかし、早々に損をだしてFXを止めてしまった人のデータが抜け落ちてしまうため、長期顧客のデータだけ見るとプラスになってしまうことがあるのです。

生存バイアスに引っ掛からないために

企業分析やケーススタディなどを行う際にもこのバイアスには注意が必要です。よく、しっかり分析を行うために、成功事例だけではなく失敗事例も見ることで、何が成功と失敗を分けた主要因なのかを見極めようとすることがあります。この発想自体は悪くないのですが、現存している企業だけを対象とすると、やはり生存バイアスの罠に落ちることになります。

つまり、現存している企業は、基本的に生き残った企業ですから、その中からどれだけ「悪い例」を抜き出したところで、しょせん、「生き残った中での悪い例」にとどまってしまい、本質的に何が悪かったのかという点にまで到達しない可能性があるのです(もちろん、それでもかなりのヒントは得られますが)。

特にベンチャー企業のスタディではこの点は非常に重要です。大手の多角化企業であれば、1つの新規事業の失敗は吸収しうるので、失敗事例のスタディは可能でしょう。しかし、純粋なベンチャー企業の場合、本質的なところで間違ってしまった会社は早々に市場から退出を余儀なくされ、スタディしようにも痕跡すら残らない可能性が高いのです。

生存バイアスは、個人の意思決定に影響するにとどまっているうちはまだいいのですが、それが国や自治体の政策にまで影響を及ぼすとなると問題です。たとえば、「株のキャピタルゲインや配当の税率をもっと高くしよう」あるいは「法人税率を高くしよう」という議論です。

「そこまで儲けたのならもっと税金をかけて所得の再分配をすべき」という発想ですが、そこでは、投資家がリスクをとって投資をしてなんとかパフォーマンスを上げたり、企業が厳しい生存競争の末に生き残って利益を出しているという事実が見落とされています。無価値になった株式投資や、倒産してしまった企業のことが考慮に入れられていないのです。100社が争い、1社が生き残って莫大な利益を出したときに、その利益を法人税で大幅に持っていかれることを想像してください。健全な市場競争を育むのは難しいでしょう。

この他にも、成功者の伝記や、テレビの長寿番組の成功物語など、生存バイアスはそこかしこにあふれています。ぜひ、我われが見ている世界が、往々にして淘汰や競争を勝ち抜いたサンプルだけの世界であることを意識してください。

なお、冒頭のプロ野球選手のケースは、生存バイアスの罠以外にも、いろいろ見逃している点がありそうです。ここではあえて書きませんので、ぜひ宿題として考えてみてください。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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