問題です
以下のA氏の問題点は何でしょうか
ある住宅販売会社の住宅紹介セミナーにおいて、同社の販売担当A氏が以下のようなプレゼンを行った。A氏は、販売経験が長く、研究所に勤務して特許申請まで行った経験もあることから、技術と販売の両方に秀でた稀有な人材として、社内のみならず業界でも一目置かれる存在である。
「本日は、私どものセミナーにお越しいただきありがとうございました。本日の司会兼プレゼンターを担当させていただきますのは、私Aでございます。本日は皆さんお忙しいと思いますので、早速本題に行かせていただきます。最初の物件のZですが、これは我々の自信作です。私の目から見ましても、画期的な工法を採用しており、よほどの直下型大地震でもない限り、まず倒壊の恐れはありません。私に言わせれば、まさに地震大国日本の先端を行く技術と断言できます…」
解答です
今回の落とし穴は、「奥ゆかしさの罠」です。正式にこの名称があるわけではないのですが、本稿ではこのように呼ぶことにします。この落とし穴は、実際に実力や専門知識があるにもかかわらず、それが聞き手に伝わっていないため、聞き手にとっては本当の専門家なのか、専門家ではない単なる自慢好きの人間なのかが分からないというものです。
特に日本人は、自分の専門性等をむやみにひけらかすことを好まない、奥ゆかしい人が多い傾向にあります。そのため、こうしたケースは思いのほか多発しているのではないでしょうか。
しかし、人に何かを説明する際、「What」「Why」「How」ももちろん重要ですが、結局、最も説得力を持つのは往々にして「Who(誰が言ったか)」です。したがって、実力や専門知識を持っている人からすると、当然、それを前面に打ち出す方が話の説得力を高めるわけですが、バランスに気をつけないと、自信過剰あるいは嫌味に聞こえてしまいます。だからこそ彼/彼女はジレンマに陥ってしまうのです。
今回のケースでは、奥ゆかしさと言うよりは、時間的な問題から、A氏がどういう人かの説明もないままに本題に入ってしまいました。そのこと自体は絶対的に悪いというわけではないのですが、であれば、「私の目から見ましても」や「私に言わせれば」といった、「権威だからこそ有効な言い回し」は避ける方がよかったと言えます。司会とプレゼンターを兼ねたという状況も、しっかり権威であることを印象付けるという意味ではマイナスになっています。
この事例からも推察されますが、「奥ゆかしさの罠」を避ける最も単純かつ有効な方法は、他人に紹介してもらうというものです。つまり、自分で自分の専門性を語るバランス感がとりにくい場合には、他の人間に紹介してもらうというやり方です。たとえば、今回のケースでは、別に司会を立て、「本日のプレゼンターのAは業界でも屈指の○○として知られており…」のような形で、その権威を語るのが効果的です。プレゼンター紹介のビラなどに簡単な紹介を載せるのも単純ですが効果があります。
あるいは、人にもよりますが、「博士」や「○○大学客員教授」、「△△社社外取締役」といったタイトルを活用するという手もあります。ただし、これはこれでバランス感覚をとらないと権威が伝わりませんし、下手に用いると権威を損ねる結果になります。たとえば、あまり有名ではない大学の非常勤講師という役職を紹介したところで、権威づけにはなりにくいでしょう。
こうしたバランス感をどうとるかはなかなか難しい問題ですが、ビジネスパーソンである以上、相手の視点に立ちながら、どう自分を見せれば嫌味がない形で説得力が高まるかを意識したいものです。繰り返しになりますが、結局最後にモノを言うのは「Who(誰が言ったか)」だからです。