問題です
以下の会話で、B氏の良くない点は何でしょうか
A氏:企画部所属
B氏:広告部所属
A氏: 「新商品の風邪薬の『X』だけど今一つ売れ行きが良くないようだね」
B氏: 「そうですね」
A氏: 「何が原因だろう?」
B氏: 「私が見る限りは、やはりテレビCMの問題のような気がします」
A氏: 「というと?」
B氏: 「特にクリエイティブが問題ですね。せっかく新しいタイプの風邪薬なのだから、アニメーションなどを利用して、もっと視覚的に、その独自性を訴えかけるべきだったと思います」
A氏: 「でも、あの役者さんを使った今のCMもそんなに悪いようには思えないけど」
B氏: 「いや、広告の専門家の立場から言わせていただくと、あれではインパクトが弱すぎです。競合品との差別化が伝わってこない。好感度さえよければいいというわけでもないですから」
A氏: 「そういうものかな」
B氏: 「自分だったら、アニメーションの提案を代理店にいくつか出してもらって選んだでしょうね」
A氏: 「なるほど、クリエイティブの問題か」
B氏: 「さらに言えば、フライティングパターンにも問題があると思います」
A氏: 「フライティングパターン?」
B氏: 「広告を露出させるパターンのことです。もちろん、予算の問題もあるので、ただ大量に打てばいいというものではありませんが、もっとどこかで集中的に流すべきだったと思います。ちょっと分散しすぎでしたね」
A氏: 「とにかく、広告に問題があったということか」
B氏: 「そうですね。間違いないです。いくらでも改善案は浮かびますから」
解答です
今回の落とし穴は、「専門偏向」と呼ばれるものです。自分の専門領域のことについては非常に詳しく、さまざまな問題点が見えたり、解決策のアイデアは湧くものの、視野が狭く、それ以外の要素については見逃してしまったり、そもそも考えようとしない、という落とし穴です。俗な言葉でいえば「専門バカ」という言葉に近いものです。
今回のケースでは、広告の専門家であるB氏にとって、広告の問題は非常によく見えているようで、具体的な対策もいろいろ挙げています。しかし、一歩引いてより広い視野から考えてみると、別の問題点が見えてくる可能性もあります。たとえばマーケティングの問題の可能性だけとってみても、4Pのフレームワークで言えば、パッケージも含めた製品の問題かもしれませんし(Product)、価格が高すぎるのかもしれません(Price)。あるいは、薬局へのマージン設定や棚確保の問題かもしれませんし(Place)、広告ではなくセールスプロモーションツールに不備があったのかもしれません(Promotion)。こうした可能性があるにもかかわらず、B氏は広告の問題しか見えていないのです。
近年、こうした傾向はますます強まる傾向にあります。なぜなら、物事がどんどん複雑化するにつれ、深い専門知識を必要とされる場面が増えてきたからです。理想的には、深い専門知識と同時に、幅広い視野、知識も同時に持てればいいのですが、ビジネスパーソンの時間は限られていますから、なかなかそうもいきません。
では、専門偏向に陥らないためにはどうすればいいのでしょう?
まずは、「専門バカ」であることをよしとしないマインドを持つことです。かつて、ある学者は、「専門バカと言われようが、バカよりはましだ」という、開き直りともとれる言葉を発しました。こうしたマインドを持っていては、ますます専門偏向の視野狭窄に陥ってしまいます。そして、いったんこういう状態になると、他の事柄に目を向けるのが億劫になったり、自己を正当化しようという意識が強くなったりして、ますます専門偏向が進んでしまいます。
それを避ける鍵は、上記の心構えと同時に、旺盛な好奇心を持つことです。そして、自分の専門分野と、一見専門分野以外のことがどのように関連してくるかを考えてみることです。筆者は、本物の専門家は専門バカではないと考えます。専門分野について深い造詣があるからこそ、他の世界もよく見える、逆に、他の世界が見えているからこそ、専門分野の深め方がさらに効果的なものになる——それが本物の専門家でしょう。事実、ビジネスの世界で評価されるのは、そうした人材です。
時間不足を言い訳にする人もいますが、時間は意識して作るものです。まずは上記のような意識を持って、自分の知識や思考が偏っていないかチェックすることから始めてみてください。