東京海上ホールディングス(HD)は6月10日、米保険会社HCCインシュアランス・ホールディングスを買収することで合意したと正式に発表した。買収金額は約75億ドル(約9413億円)。日本の保険会社による海外企業の買収案件としては過去最大の規模であると同時に、その高額な「買収プレミアム」について関心が集まった。
「買収プレミアム」とは、買収価額と市場価値(時価総額)の差額のことである。今回の場合、東京海上HDはHCC社の発行済み株式の全てを現金で買い取る方針で、買収価格は1株あたり78ドル。過去1カ月の平均株価に対して約36%のプレミアム(割増し金)を支払う計算になる。これに対して、発表会見では「買収価格が高過ぎるのではないか?」という質問が飛んだという。
東京海上HDが、縮小する日本市場を補完するべく、海外企業の買収を円滑、かつ、スピーディーに進めるために多少の“色”を付けたという経営判断があったと思われる。一方で、この買収プレミアムを支払ったとしても採算が取れるかどうかがが、東京海上HDの株主が最も関心を寄せるポイントであろう。
では、買収プレミアムの「原資」とは何だろうか。買収する企業の財務諸表は、買収される企業の財務諸表の分だけ規模が大きくなる。もし、両社の株式価値が市場で適正に評価されているとすれば、この財務諸表の単純な足し算では買収プレミアムの原資は捻り出せない。2つの企業が一緒になることで生み出される“追加的な価値”が必要になってくる。
これが相乗効果(シナジー)と呼ばれるもので、具体的には、売上拡大、バリューチェーンの強化、コスト削減、経営効率の改善などが挙げられる。東京海上HDは、地域や事業リスクの分散など複数の効果を見込んでいるようだ。
企業買収劇では買収金額や買収後の業界内での市場シェアなどに目が行きがちだが、本当に大切なのは、買収によってどのような価値が創出されるのかである。買収する側は、その追加的価値についての情報を資本市場に対して具体的に、分かりやすく、スピーディーに開示することが肝要である。透明度の高い形での説明を期待したい。