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もっと教養を磨こう! ―『哲学用語図鑑』

投稿日:2015/06/13更新日:2019/04/09

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ビジネスパーソン、特にグローバルで活躍するリーダーにとって歴史や哲学、古典文学といった教養は必須という声を聞く機会が増えてきた。今回は、その中でも哲学というやや取り付きにくいテーマをシンプルかつ明快に解説した入門書『哲学用語図鑑』を紹介する。これ1冊で2000年超にわたる哲学の歴史をすべて理解できるわけではないが、忙しいビジネスパーソンがまず全体感を掴む上では非常に有用な1冊である。

正直、本書のような「アンチョコ本」をこのコラムで紹介していいものかやや逡巡する気持ちもあった。しかし、自分自身が読んでなかなか感心したということ、そしてビジネスリーダーの教養に注目が集まる昨今、役に立つものなら紹介してもいいだろうとの判断に至ったことが今回本書を取り上げた理由である。

ビジネスリーダーが哲学をはじめとする教養を身につける理由にはいくつかある。代表的なのは以下のようなものだろう。

1) 人間というものに対する理解が深まる。たとえば、世界中のいろいろな人々の動機や感情に関して理解しやすくなる
2) 先人の知恵を学ぶことで、無駄な思考をショートカットできる
3) 自分なりの価値観の確立に役に立つ。それは経営上の意思決定やキャリアデザインの際の羅針盤にもなる
4) 自分自身のルーツや存在意義を知ることにもつながる。その結果、自身の生きがいやモチベーションの源泉を再確認することができる
5) 先人の苦労の上に現在の自分があることを知ることで、未来に対する責任感を持つことができる
6) 特に世界的な教養に関しては、それを知ることがグローバルビジネスの場面で共通のコンテキストを持つことにつながる
7) 世の中の見え方が違ってくる(たとえば産業革命やラッダイト運動のことを知っていると、昨今の「ITに置き換えられる仕事」の問題をより多面的に見ることができる)

「明日から役に立つ」というものでは決してないが、こうした多様な効用を考えると、ビジネスパーソンが歴史や哲学、古典文学の基礎を学ぶ価値は少なくないのは間違いない。しかし、多くのビジネスパーソンにとっては、ただでさえ仕事が忙しく、またビジネス知識も学ばなくてはならない中、腰をすえて教養を身につけようとするのは大変なことだ。だからこそ本書のような書籍が価値を持つ。

本書の長所は、突き詰めればその構成、編集の妙である。普通は「入門書」と名がついていても取り上げるトピックスのバランスが悪かったり、また文章量が多くて意外に頭に入らないということが多いものだ。その点、本書は以下の点で非常に斬新だ。

1) 詳細な説明はあえて捨て、専門家には多少乱暴に見えるかもしれないが、「これは結局こういうことだ」とポイントを言いきっている
2) 網羅性と時間軸を重視しており、初心者にも全体像がわかりやすい(ただし、今回は西洋哲学にフォーカスしており、東洋哲学には触れていない)
3) 言葉遣いが平易
4) 図表やイラストを大胆に多用してコミックス世代にも取り付きやすくしている

どれも本書の重要な要素だが、世の中の哲学書のほとんどがこれらの逆であることを考えると、その斬新さがわかる。

特に感心したのは、1)だ。哲学の難しさはその抽象度の高さと、奥行きの深さにある。抽象度の高さは事例などを用いて具体的に語ることで読者の理解を促すこともある程度は可能だが、奥行きの深さは難しい問題だ。良心的な著者ほど、それを真面目に説明しようとして、一般人にはかえって読みにくい本になってしまうというのが多くのパターンだろう。

ところが本書は、そうした奥行きを潔く捨てて、「そこまで言い切っていいのか?」と思うくらい言葉を削り、ポイントに絞り込んでいる。たとえばフランシス・ベーコンの「知は力なり」については、「生活の向上は教義からだけではなく、経験や実験による自然の仕組みの理解(自然の征服)から得られると考えました」といった感じだ。スコラ哲学との対比に関する捕捉もあるが、それも文章量としてはほとんど同じである。

私も本を書く機会は多いのだが、これは実は、かなりの勇気がないとできない。しかも、それを2000年超の歴史を持つ哲学の領域でやりきっている。普通の入門書なら、ギリシア哲学あたりですでに投げ出す読者も多いかもしれないが、本書の手法を用いたからこそ、3、4時間もあれば全部を読めるようになっている。多忙なビジネスパーソンにとってその価値は非常に大きい。「捨てるのは難しい」とはビジネスの世界でもよく言われることだが、勇気をもって捨てることでこの「図鑑」を完成させた筆者らの挑戦には敬意を表したい。

もちろん、本書はあくまで「アンチョコ」であり、本当の深い部分を理解できるものではない。関心が湧いた部分については、徐々により深掘りした書籍を読めばいいだろう。そのためのホームページのような1冊である。

『哲学用語図鑑』
田中正人著、斎藤哲也編集
1,800円(税込1,944円)

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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