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タンザニア旅行記~その4)サファリから世界経済フォーラムへ

投稿日:2010/05/09更新日:2024/11/24

朝、アフリカの大地に抱かれて、目が覚める。外はまだ暗い。6時に運転手と待ち合わせて、早朝サファリに出かける。車が走るうちに、明るくなり、大地に色が加わっていく。地平線の上に漂う雲が赤いのには、ビックリさせられる。

赤い雲の反対側の地平線から目映い光が、天に向けて発せられている。そして日の出を迎える。日本人としては、ついつい合掌して拝まずにはいられない。ランドクルーザーが、ガタボコ道を走る中、二列目の座席から立ち上がる。浮き上がった天井と車の屋根の間から、朝の冷たい空気を感じながら、手を合わせ目を瞑る。

振り返ると、赤い雲は、白みがかった朝焼けに変わっていた。外気に当たりながら見る、360度パノラマの世界。このホテルの周りは、草原というよりも、疎林帯という表現が適切かもしれない。まだ、動物と遭遇していない。空は水色。天上には、雲ひとつない。

いきなり、ホロホロ鳥が路上に挨拶に来て、車と追いかけっこを始めた。車が追いかけている途中で、ホロホロ鳥は飛び上がり、右旋回して彼方に飛び去っていった。

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ホテルを出て、30分ほどして、車が止まった。「カバのプールに行こう!」と運転手が声をかけ、外に出た。この公園の中で、車の外に出られる数少ない場所だ。その「プール」には、朝日の中カバが水浴びしている。ざっと数えただけでも、ゆうに100頭以上のカバが泥色の水の中で、所狭しとひしめき合っている。「プール」というのは、うまい表現である。ちょっとしたリゾートホテルのプールよりも狭い場所に、100頭以上のカバが時に重なり合い、目と耳を水面に出しているのだ。

運転手によると、その沼地には、ワニもいるらしい。ただ、朝は寒いので、水中に潜み、地上には体を見せないのだという。その狭いプールにワニとカバは同居しているが、ワニはカバを食べないのだという。いずれにせよ、ワニに襲われる心配をしなくて、良さそうだった。僕は、その沼地の端に近づいた。水を触れる距離から見るカバの集団は、僕を圧倒する実在感を持ち迫ってくる。

一頭が泣き出すと皆が呼応して合唱となる。カバがあくびをして、大きな口を開ける。一頭が立ち上がり、しっぽをパタパタ振りながらウンチをするのが見れる。暫く、その不思議な空間を楽しみ、運転手に促されて、今来た同じ道をホテルに戻ることにした。

帰り道では、もう活動を開始したのか数多くの動物に遭遇した。キリンが5頭、目の前を横切った。車が止まり、僕が立ち上がる。そして暫し、キリンとにらめっこを楽しんだ。

ダチョウの群れに遭遇した。大きなおしりを揺らしながら、細い二本の足を前後に出しながら、ゆっくりと向こうに歩いていく。

イボイノシシにも出会う。コミカルなイボイノシンは、ライオンキングの映画を彷彿させてくれる。インパラとじゃれ合っていると、何やら語り合っている感じさえする。今にも映画の中のように、「ハクナマタタ(気にするな)」の歌を歌い始めそうな雰囲気がある。“プール”にいるカバの集団が、合唱に加わる様を想像すると、とても愉快になってくる。

そして、小さい丘をゆっくりと登り、ホテルの入り口に車が着いた。そのホテルは、国立公園のど真ん中に位置して、小さい丘の裏の斜面を陣取って建てられていた。コテージ形式のホテルには、外界と中とを遮るフェンスなど一切無い。従い、夜の間にコテージを出るときには、セキュリティ・ガードの送り迎えが必ず付く。昨晩の夕食の帰りに、ディクディク(アンティロープ、鹿に似ている動物)3頭と遭遇した。ガードマンが懐中電灯を当てると、目が赤く光りはしたが、不思議と動こうとしなかった。ライオンが出るときもあるのだという。

早朝サファリを終え、朝食を頂いている時には、ハイラックス(うさぎぐらいの大きさの小動物)が、挨拶に来ていた。食後、ホテル内を散策した。レストランの横にプールがあり、そこを超えると、セレンゲティの大草原が一望できる見晴らし台があった。そこで暫く静かにたたずむ。五感を研ぎ澄まさせながら目を瞑ると、大自然の中に溶け込んで行く感覚を味わえた。

空港に向かう時間となった。現地時間で午前10時前。既に太陽は上がり、空は水色、雲は白色に戻っていた。空港への道中、それこそ数多くの動物が、僕に別れの挨拶をしに来てくれた。ゾウの大家族、キリンの群れ、そして、最後はやはり、シマウマとヌー、ヌー、ヌーだ。赤土色の道路を横切るとか、いや遮るとかどころの感覚ではない。彼らの居住地に僕らが、邪魔しながら横切っている感覚だ。次から次に、こげ茶色の動物が起き上がり、せわしそうに道路から、草むらに移動してくれた。

フライトの時間は、11時5分だが、既に10時30分を過ぎていた。国内線のチェックインは、最低でも30分前だろうと思い、焦りながら運転手に、「時間は、大丈夫か?」と何度も確認する。運転手は、「大丈夫、大丈夫」と言う。僕は、焦り始めた。空港など一向に見えてこない。いるのは、ヌー、ヌー、ヌーだ。

ちょっとした平べったい掘っ立て小屋が見え、何台かのランドクルーザーが止まっているのを確認した。どうやら空港らしい。でも、小さいセスナ機が2機赤土の上に、止まっているだけであった。

もう出発時間の20分前である。運転手に連れられ、そのまま赤土の滑走路の中に踏み入れ、セスナ機に向かって歩き始めた。白い半そでの制服を着た白人のパイロットが、英国アクセントで、「Yoshito Horiさんですね」と確認されたので、僕は、「そうです」と答えた。

僕は、訳の分からないまま運転手に別れを告げ、パイロットに導かれ10人乗りの飛行機に搭乗した。既に4人の乗客が乗っていた。僕が乗ると、パイロットが運転席に乗り込み、「時間が早いけれど、全員集まったので、出発する。シートベルトをしっかりと締めてくれ」、と言い、エンジンをかけ始めた。チェックインも添乗員もいない。本人確認も口頭で済ませての出発である。

小さい窓から外を見ると、シマウマが草をのんびりと食べているのが見えた。そのままセスナ機は、赤土の滑走路をガタガタさせながら走り出し、飛行機がふわっと飛び立った。この状態でも、携帯電話がつながっている。僕が、感じるままにツイッターでつぶやきながらの離陸だ。

空から見るセレンゲティは、格別だ。陸から見ると草がうっそうと繁っていたが、空から見ると、茶色い乾いた大地が延々と続いているようにしか見えなかった。「良くこれだけの広大な敷地を、手付かずのまま残すことができたなぁ」、と言うのが、僕の率直な感想である。人工物は一切見えないのだ。

セスナ機は、オルドバイ渓谷の真上を飛び、緑と黄色のツー・トーンの絨毯が敷き詰められた山に近づいた。地面が近づいてきた。そして、ンゴロンゴロのクレーターの真上に差し掛かり、火山湖の上空を飛ぶ。クレーターを越えると、東に湖が見える農業地帯だ。コーヒーととうもろこし畑が規則的に並んでいた。近くに高い山地が見えてきた。雲があるので、キリマンジャロは、確認することができなかった。

そして、山の麓に位置する赤土色のアルーシャの滑走路に、セスナ機は着陸した。プラスティックの椅子が並ぶ、待合室で、待機する。「待合室」とは言っても、そこは日よけの屋根があるだけの場所だ。セスナ機のみが並ぶ飛行場で、屋外で航空ショーを楽しむ感覚だ。でも、飛び立つ飛行機は、ほとんど無い。

暫くして、同じセスナ機に搭乗した。今回は、貸切だった。僕は、運転席の真後ろに陣取った。計器が全て見えるし、コックピットから眼前に広がる景色も見る事ができた。向かい風の中、途中激しい雨に降られながらも、セスナ機は2時間飛び続けた。そして、高度を下げ、雲の下に出ると、ダル・エス・サラームの街並みが見えた。キチンと舗装された滑走路が見えた。セスナ機は、大きく左旋回をして、滑走路に降り立った。

空港には、3日前に迎えてくれた同じ運転手が迎えに来てくれていた。僕は、車の中で、帽子を脱ぎ、Tシャツ・ジーンズをスーツに着替え、靴下も黒色のものに替え、靴も革靴に履き替えて、世界経済フォーラムの会場へと向かった。既に気分は、仕事モードに切り替わっていた。

2010年5月8日

ダル・エス・サラーム空港の待合室にて執筆

堀義人

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