ニュースの影の主役 資本コスト
8%を上回るROE(自己資本利益率)の達成、有価証券報告書でのTSR(株主総利回り)の開示開始、経営評価指標にROIC(投下資本利益率)を採用する企業の増加――こういった経営指標に関するニュースに聞き覚えはないだろうか?
そのときどきに注目を集める経営評価指標がある。指標そのものを理解することも必要だが、より重要なのは、なぜ今注目されるのかという理由だ。なぜなら現在の経営の潮流の理解につながるからである。冒頭であげた指標から見えるのは、現在の経営のトップイシューを理解するには「資本コスト」の理解が欠かせないということである。
資本コストは、2014年に発表された経産省のレポート(通称「伊藤レポート」)に始まり、2018年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードで言及されたことで、一層注目されるようになった。
コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業のコーポレートガバナンスの実現のために、金融庁と東京証券取引所が策定した主要な原則を示したものであり、上場企業はガイドラインとして参照しなければならない。この中で、上場企業は、資本コストの把握や資本コストに基づいた目標設定をすべきと掲げられた。つまり、上場企業は資本コストを意識せずには済まなくなったのだ。
会話形式のストーリー仕立てで資本コストを理解できる
では、資本コストとは何か。
資本コストはコーポレート・ファイナンスにおいて必須の概念であり、世界の主要MBAコースで使われているコーポレート・ファイナンスの基本テキスト(例えば、ロバート・C・ヒギンズの『ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版』)をはじめ、どの教科書を見ても、必ず解説が載っている。それでも、資本コストを理解するのは難しい。そうした方にとって朗報となるのが本書である。
本書は、とある架空企業の「ミツカネ工業」をモデルに社外取締役たちが自社の経営の評価・管理をどう行うかを対話していく。会話形式でストーリーが進み、図表やデータが随所に差し込まれている。一冊を通して、資本コストが主役であり、非常にわかりやすく資本コストとその関連領域が説明されている。用語解説もあり、ファイナンス初心者でもとっつきやすい。
著者の岡俊子氏はコンサルタントとしてM&Aに携わり、社外役員も複数務めるなど資本コストやコーポレートガバナンスに長く関与してきた。架空のシンプルなストーリーながらリアリティに富み、実務上の論点もわかりやすく理解することができる。
ストーリーは社外役員の視点から描かれているが、資本コストを意識することは、経営陣はもちろんのこと、将来の経営陣候補である社員の方も若いうちから身につけておくことが必要、と著者は述べている。資本コストの理解なしに現在の経営は語れない。経営コストの理解というハードルを越えたい方にはぜひ本書を手に取ってもらいたい。資本コストを学びたい方や復習したい方にとっても最良の一冊となるだろう。
『図解&ストーリー「資本コスト」入門(改訂版)』
著者:岡俊子 発売日 : 2020/8/12 価格:2,860円 発行元:中央経済社