【特別対談】アフターコロナの新常態を見据えて―DXをバズワードで終わらせないために~田川欣哉×深津貴之

コロナパンデミックで重要性が再認識されたDX(デジタルトランスフォーメーション)。WithコロナからAfterコロナにかけて、我々の日常は変わり、ユーザーも変化をしていく。その過渡期にDXをどのように推進していくべきか――株式会社Takram 代表取締役の田川欣哉氏と株式会社THE GUILD 代表取締役の深津貴之氏が議論した。前編では、改めてDXとは何か、デジタルの強み、ユーザー側に起きた変化などをテーマに話した。(全2回、前編) *本記事は、2020年9月3日に公開した動画記事を全文書き起こししたものです。

DXはバズワード?生産性はあがらない?大事なのは、権限移譲でDXを生かすこと

八尾:まずDXをどのように定義されているかをお聞きしたいと思います。

田川:DXには多くの企業がこれまでも取り組んできたと思いますが、その動きが今一気に加速していると思います。DXにはいくつかレイヤーがあると思います。

オフラインのビジネスプロセスのデジタル化がフェーズ1です。これが完了したときに経営や現場が直面するのは、思ったよりも生産性が上がっていないのではないかという感覚です。なぜかというと、単なるドキュメントやプロセスを表面的に「デジタル化」するだけでは、仕事のスピードは上がらないからです。せいぜい、書類を探す時間が短縮される程度でしょう。

そこでフェーズ2がスタートします。デジタル化で、意思決定や行動のヒエラルキーと時間軸をマイクロ化して、PDCAを素早く回し、高速企業になっていくのがフェーズ2のDXだと思います。ここまで行くと、1人あたりの生産性は爆発的に上がるでしょう。

その実現のためには、すべての情報をオンラインに上げ、情報に対するアクセシビリティを向上させることで、社員全員が自律的に考え、判断できる状況を生み出す必要があります。同時に権限を委譲して、現場レベルで決定して実行できるようになれば、失敗があっても時間軸が短縮されているので、リカバリーも迅速にできるようになります。

ただし、フェーズ2まで歩を進めるには、組織構造の転換やガバナンスの再構成が必要で、経営の意志がないとできません。大胆な改革が必要で、完遂できる組織とできない組織に分かれていくと思います。

深津:端的に言うと、1800年代、1900年代の業務オペレーション、企業設備で止まっている会社に、2000年代の機材とオペレーションを導入させることでしょう。

デジタルの強みは物質ではないこと、スケール性や速度性、流動性が極端に高いことだと思います。紙のメールであれば、1万通あったら部屋が満タンになってしまいますが、電子メールなら1万通あっても問題ないし、100万通でも1億通でも紙に比べスケール性が断然高い。デジタルで処理されるので、人的オペレーションに比べて速度や生産性が上がります。

流動性でも優れています。機械を買ったり工場を建てたりすれば、お金や時間がかかり、処分も大変です。その点、デジタルな資産は、開発にお金と時間はかかるものの、デジタルでの資産の購入や使用は、始めるのもやめるのも流動性が極めて高い。フットワーク的な意味での効率が高くなります。

本質的には、1990年代にインターネットを導入したのと全く変わらない現象で、基本的にはバズワードの一種だと思っています。

2022年、デジタル×フィジカルのソリューションで強化された人類は、ビフォーコロナとは違う人類である

八尾:コロナの影響で私たちの生活にも大きな変化がありました。ユーザーの意識や価値観の変化で、今後も長く定着すると思うことは何でしょうか。

深津:人類全体に、物質に対するプライオリティーが落ちたことでしょう。例えば、都心や職場の近くに住んでいることの価値が減り、逆に自然に囲まれた場所に住んでいることの価値が上昇しました。

同じように、自分のステータス、財産、幸せなどを顕示するためにものを買うという行動の価値が減っています。

田川:今は自然環境側からのプレッシャーで行動制限がかかっている状態です。人間はより心地のよい生活を目指すものなので、これに対抗するような発明やイノベーションが2年以内に大量投入されていくと思います。実際、北米の株式市場を見ていてもデジタル勢力に相当量の資本が投下されています。

企業が注視すべきは、今から2年後の2022年の「ユーザー」は、ビフォーコロナのユーザーとは違う人類になっているはずだということです。単にユーザーの意識がシフトするというレベルではなく、デジタルツールや物理的なソリューションによって強化された人類に進化しているはずです。

この数十年の中でも類を見ないスピードでユーザーが変化をします。企業が設定しているマーケティングスコープから、既存ユーザーがいなくなってしまうかもしれない。この1〜2年は、ユーザーの意識や行動が刻々と変化することを前提にして、ユーザー捕捉のセンサーをいかに研ぎ澄ませられるかが勝負の鍵でしょう。

従来のマインドセット自体をリセットし、揺れ動く状況に対応できる組織へ

八尾:アフターコロナの新常態に不可欠なリセットにはどんなものがあるでしょうか。

田川:リセットというと、語感的にはリセットボタンが1回押されるという感じに聞こえます。今回は違う状況なのではないかと考えています。つまり、リセットボタンが1回だけ押されるということではないと思っています。

今回のパンデミックにしても、収まったと思ったらまた流行してといったように、状況が揺れ動いています。ビフォーとアフターがくっきり分かれていて、その変化後の状態を「安定的な状態」として見立てているからリセットという言葉を使うのでしょう。しかし現実は、振り子のように右に左に刻々と状況が変化する「不安定な状態」です。

経済モデルにしても何にしても、ある種の定常状態をモデル化して、そこに対してさまざまな想定を置いていきますが、状況が大きく揺れるので、どちらに振れても対応できるような組織にシフトしなければなりません。

深津:大きく2種類あると思います。1つは損切り、あるいはダメージコントロールをして、新しい基盤に切り替えていく、痛みを伴うリセットがプランA。プランBは、例えば会社が潰れるなど、この世から消滅し世代交代という形でリセットする。この2種類のリセットが不可避な現象として発生すると思います。

新陳代謝の促進は、組織の「変化への耐性」を強化することにつながる

八尾:既存の金のなる木を捨てずに、新しい領域に着手する。これを回していくフェーズは非常に難しいと思います。

深津:経営のレイヤーでの決めの問題だと思います。自分で壊してルールを決めるほうが一番楽だし、安いし、儲かると思います。

アップルが好例だと思います。CDが売れている時代にiPodを出して、iPodで市場を取っておきながらMP3を全部壊して、ミュージックのストリーミングを持ってきたり、iPodで天下を取っているときにiPodの市場を壊してiPhoneを発売したり。自分で最初に市場をつくり一番儲けて、他社が追いついてきたところで、その市場を台無しにして、次のレイヤーに行くのが、けんかの仕方としては一番効率がいいと思います。

田川:潤沢な利益を出している企業でさえ、人材や組織は既存ビジネスにべったり貼り付いています。新規事業をやろうと思うと、既存事業から人やリソースを剥がして投入する必要がありますが、売り上げが1兆円を超える企業でも実はなかなかリソースが割けない。儲かっている事業を温存しながら次に行くのか、ガッとシフトさせるのかも、時間軸をどのように捉えるのかもケースバイケースだと思います。

ただ、いずれにしてもシステムは長く使えば使うほど固定化して動かせなくなっていきます。5年に1回ぐらいは、強制的に新陳代謝をさせたほうが、変化に対する組織的耐性は上げられると思います。

人材の面では、新しいことを立ち上げる経験値を持つ人たちを育てていくしかないのかなと思います。遊軍的なタイプの人員を常に持っておいて、次々に新規事業を考えてもらうことも必要かもしれません。

もし社内で難しいのであれば、スタートアップを巻き込んだり、資本を入れて出島的なところに据え付けたりする手段もあります。オペレーション優先の組織の中で、イノベーションを興すのは非常に難しいので、経営レベルでしっかり状況設定をしていく必要があります。

深津:企業も人も同じだと思います。何で苦労するかと言うと、ジャンプのインターバルを長く置くからです。20年ごとにビッグジャンプみたいな感じで、インターバルを長く置いてしまうと、その間、同じ業務しかしていないし、変革を経験した人がいないので、大混乱しながら頑張って移行することになる。次の20年後の変革時までに世代交代が進み、その経験を持っている人がまたいなくなる。これが一番大きな原因だと思うので、ライフサイクルを短くすることが一番の解決法だと思います。

コスト高、あるいは効率が悪そうに見えるかもしれませんが、1、2年ごとに段階的にシステムをアップデートし続けるといった構造のほうが、中長期で見た場合、変化に柔軟なシステムになりやすいと思います。(後編に続く)

(文=荻島央江)

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