止まらない負の連鎖
ZARAやBershukaなどカジュアルSPA業態を展開するインディテックス社は、約1200店舗閉鎖を発表した。新型コロナの影響で、多くのファッションブランドは、店舗の閉鎖や経営破綻に直面している。感染者が世界最多のアメリカでは、200年の歴史のある老舗アパレルブランドのブルックス・ブラザーズや人気のカジュアルブランドのJ.クルーが経営破綻、世界でトップクラスの売上を誇るカジュアルブランドのGAPは、財政難から従業員の一時解雇や店舗の家賃未払いが明るみになった。ニーマン・マーカスやバーニーズ・ニューヨークといった高級衣料百貨店も経営破綻し、日本でも大手アパレルのオンワードは約700店舗閉鎖し、レナウンは経営破綻した。
環境問題への意識の高まりや消費者の価値変化によって、少し前からファッション業界にも、方向性を見直す動きが出てきていた。しかし、長年続けてきた大量生産とそれの受け皿である大量の店舗の閉鎖は、莫大なコストもかかるため、容易に決断できることではない。従来のビジネススタイルを継続し、抜本的な改革を進められずにいた結果、新型コロナの影響で、一気に財政難になったブランドが多かったと考えられる。
大量店舗閉鎖の意味―デジタル化推進に10億ユーロ投資
グローバルSPAとして、常にトップクラスの売上で、盤石な財務体質で知られるインディテックス社だが、2020年2月~4月期の純損益は約498憶円で前年同期比44.3%減少した。1200店舗閉鎖は、先述のファッションブランドや百貨店同様に、コロナ禍で財政難に直面した故の決断と捉えるべきだろうか?
大量店舗閉鎖の発表と同時に、同社はデジタル化推進に10億ユーロ投資することで、2022年までにオンラインの売上比率を現状の14%から25%までに引き上げると発表した。同社は、以前からもデジタル化に注力しており、今回の発表はその延長線上ともいえるだろう。
インディテックス社はマーケティング戦略において「4E」を取り入れていることでも知られている。「4E」とは、「Experience(体験:製品に代わる)」「Exchange(交換:価格に代わる)」「Evangelism(伝道:販促に代わる)」「Every Place(あらゆる場所:流通に代わる)」を示す。従来の「4P」と比較すると、顧客を中心に置いた考え方だ。彼らのマーケティング施策は、常に、顧客体験価値を重視している。
2011年頃から開始した、オンラインで注文した商品を会社や自宅に近い店舗で受け取ることができるクリックアンドコレクトのサービスは、顧客の利便性向上を目的としている。2018年頃からは、店頭にARを導入し、ワクワク感を演出し、幅広い層の心を掴み、デジタル時代に合った顧客体験を充実させた。2018年から、オンラインと店舗の在庫を統合して管理することで、オムニチャネルでの消費スタイルに最適化した。
アフターコロナのデジタル施策
2019年には、グローバルSPAのEC売り上げにおいて、ZARAは首位を確立していた。以前から行っていたクリック&コレクトのサービスでは、2020年1月期から店舗在庫を引き当てる形に切り替えて売上高39億ユーロ(約4730億円)前期比23%増加となり、他社がコロナ禍の売り上げ減に苦しむ中、EC売り上げが下支えした。
アフターコロナも顧客起点と既に注力していたデジタル化の施策が軸となるようだ。オープン・プラットフォーム(デジタル・オペレーティングシステム)によって、顧客はECもしくはブランドのアプリ「ストア・モード」を利用することができる。このアプリは、顧客の好みそうなコーディネート提案を行ったり、顧客自身が、リアル店舗の在庫を確認できることで、オンライン購入や店舗ピックアップが可能になる。店舗に在庫がない場合は、「クリック&ファインド」によって在庫店舗を探すことができたり、試着室の予約ができる「クリック&トライ」も整備している。2020年末までには、店舗とオンラインを統合し、同社の全てのブランドを世界のどこでもオンライン購入できるようにする計画だ。顧客は、自宅でウェブルーミングを楽しみ、リアル店舗へ出向いた際も試着などで待たされることなく、快適にショッピングできるのだ。
変革の道―ニューノーマル時代に適した消費スタイルとは
インディテックス社が今回閉鎖する店舗数は、全体の約13~16%だが、売上高でみると約5~6%に留まる。不採算店舗を閉じ、現代の消費スタイルにマッチする顧客体験を実現する店作りを実施すると考えられる。
コロナ禍で、先行き不透明な状況に戸惑う企業が多い中、インディテックス社は、他に先駆けて大量店舗閉鎖とデジタル化を加速させることを決めた。単なる業績不振による戦略転換ではなく、ニューノーマル時代に適した消費スタイルのあるべき姿は何か、顧客が求めていることは何かを考えた結果といえる。新たなビジネスモデルへとシフトしても最も重要なのは、顧客起点なのだ。