新型コロナ対策緊急対談「今、日本は新型コロナにどう対応すべきか」尾身茂氏×山中伸弥氏

*本記事は、2020年3月5日に行われた対談を書き起こしたものです。新型コロナウイルスに関する情報は日々更新されています。

はじめに

山中伸弥氏(以下、敬称略):こんにちは。京都大学 iPS細胞研究所の山中伸弥です。今、日本中、そして世界中が新型コロナウイルスによる肺炎で大変な騒ぎになっています。私も組織の長として、この対応に日々追われています。いろんな情報が出てきて、私たちは惑わされています。

今日はこの新型コロナウイルスに関して、最先端で日本と世界を引っ張っていただいている尾身茂先生にお越しいただいて、1時間も時間をいただいております。テレビで何度もお見かけされていると思いますが、尾身先生は今は政府の新型コロナウイルスの専門家会議の副座長をされております。

尾身先生の経歴を簡単にご紹介しますと、すごいご経歴なのですが、まず慶應義塾大学の法学部に入られ、自治医大の一期生として地域医療の道に進まれました。その後、公衆衛生の道に進まれて、WHOで20年以上活躍されています。そして日本に帰ってこられて、自治医大の教授や、今はJCHO(ジェイコ)と呼ばれています、独立行政法人 地域医療機能推進機構の理事長をされています。

これまでSARSや2009年の新型インフルエンザの対応を先頭に立って行ってこられました。尾身先生、今日は本当にありがとうございます。

尾身茂氏(以下、敬称略):よろしくお願いいたします。

インフルエンザとの違い「クラスター」とは

山中:この新型コロナウイルス、COVID-19ですが、今日は新型コロナウイルスと呼ばせていただきますが、みなさんの関心事は「どこまで広がってしまうんだろう」と。そして、「インフルエンザとどう違うんだろう」ということがあると思います。

その中でも今まで聞いたこともない「クラスター」という言葉をよく聞くようになりました。今日はまず、このクラスターとは何かを教えていただいてもよろしいでしょうか。

尾身:なぜ今回のコロナの新型肺炎で「クラスター」という言葉を使っているかというと、こういうことです。

ここに感染した人が5人いたとします。このウイルスは不思議なことに、5人全員感染したんだけれど、そのうち4人は、濃厚接触の方がいても感染させないんです。人に感染させるのは、5人のうちの1人だけ。これがインフルエンザの場合は、5人が感染すると、それぞれが1人とか、2人いかないくらいの人に感染させるんですけど、今回のコロナは、5人のうち4人は、自分は感染しても近くにいる人にうつさない。

ただ、そのうちの1人が例えば飲み会とか、ライブハウスなど、私どもが挙げた3つの条件、腕が届く距離に長くいたり、複数の人がいるところ、換気の悪い密閉空間に行くと、そこでいわゆる集団感染、つまり、クラスター感染が起きます。そして、またそこで感染した5人のうちの1人が次にまたどこかに行って集団感染を起こす――こういうクラスター(集団)を介して感染が広がるという特徴があります。

インフルエンザの場合は感染した1人ひとりが少しずつ広げるんですけど、コロナウイルスの場合は他の人にうつすのは5人のうち1人だけ。でも、その人が1人どころか何人もの人に広げてしまう。そういう理由があるので、対策の要諦は、このクラスター感染の連鎖をどこで断ち切るかということだと思います。

山中:そうなってきますと、人にうつさない4人とうつす1人とは、何が違うんでしょうか。

尾身:その1人の特徴は何かということは、まだはっきり分かっていません。専門家の、特にウイルス学者の今のところの仮説は、ウイルス側の要素ではなくて、ホスト側(人間側)の要素ではないかということです。

さっき言った5人のうちの1人が私だとすると、私も誰かから感染を受けたわけですよね。その受けたときのウイルスの曝露量が多いと、当然、私の上気道で増殖する量も増えていきます。その状態では、あまり咳なんかしなくても簡単にうつしますよね。あとは、その人の免疫も関係するんじゃないかと。まだはっきりとはしていませんが、そういうことが今考えられています。

分からないことも多いですが、調査をすると、うつすのは5人のうち1人だということは分かっているということです。

山中: 今の段階では、誰がその5人のうちの1人なのか、他の人にたくさんうつしてしまう可能性があるかということを、症状や年齢から区別はできないというのが現状でしょうか。

尾身:先生のおっしゃるように、誰がその5人のうちの1人かは分からないんだけれども、クラスターの感染がどんどん広がっていくようなリスクの高い場所は分かっているんです。

クラスターの連鎖、感染の連鎖を起こしやすい場所は、空気のいい公園でもないし、人々が歩く普通の道路ではなくて、ライブハウスだったり、飲み会の場所だったり。そういう閉鎖した空間で多人数が比較的長い時間いると明らかにクラスターの感染の連鎖が起こりやすい。人間側からすれば、その連鎖を断ち切るために集中的な努力をする必要があると思います。

山中:では、クラスターは、まず「場所」が非常に重要な要素になります。さらにそこに、うつしやすい人がいる。これが2つ重なると、はじめて1か所で10人20人という感染を生み出す。新型コロナウイルスは局所的にバーンと感染が広がるというのが、少しずつ広がるインフルエンザとの違いということですね。

暖かくなると収束するのか

山中:このクラスターという概念が新型コロナウイルスの最大の特徴だと思うのですが、今日は「敵を知る」「現状を知る」「ゴールを知る」の3つを分解して項目ごとにお伺いさせてください。

山中:まず、インフルエンザ、特に季節性のインフルエンザは日本だけでも毎年500~1,000万人が感染して、それに関連して亡くなる方が1万人くらいおられると言われています。ただ、季節性という名のとおり、4月5月になると患者さんがスーッと減ります。素人としては、今回の新型コロナウイルスも同じように、暖かくなって終息してくれたらいいなと思うのですが、その可能性はありますでしょうか。

尾身:もちろん、暖かくなるとウイルスは増えにくいということはあります。ちょっと話題が変わりますが、北海道がつい最近、緊急事態宣言を出しましたが、年齢が下に行けば行くほど症状が軽い。高齢者になれば重篤化するのですが。

山中:それに関して、こういう中国のデータがございます。

尾身:そうですね。この図は、実感としても分かりますよね。若い人たちが、ウイルスの特徴のために感染しても症状が軽くて、気がつかないうちにさっきのような場所に行って、たまたまそこに高齢者の人がいれば重症化します。

そうすると、自治体の報告システムに引っかかります。そういう報告があったので、私ども専門家委員会としては、北海道知事が緊急事態宣言を出して、若い人に、この1~2週間は自粛して、そういう危険な場所に行かないでいただきたいと。ただ、これは何度も強調したいと思いますけれども、若い人たちご本人の責任ではなく、ウイルスの特徴です。

だから、4月になったらどうかという話は、天候のことはもちろんありますが、人間が努力できる部分はありますよね。この2週間ストレスにはなるかもしれないけれど、感染しやすい場所に行かないことによって、高齢者も含めた多くの人の命を救うことができる。

ただ、中国の(武漢のある)湖北省以外の他の所では、あれだけの感染になりたくないんで、外出制限していますが、日本の場合にはそこまで、散歩とか、ジョギングとか、先生がお好きなマラソンとかを禁止にはしていません。さっきの感染のリスクと、そこはメリハリをつけてクラスターを防ぐようにすれば早く終息する可能性が……。

だから、天候頼みではなくて、オールジャパンでやるということが大事だという気がします。

山中:インフルエンザほど季節だけによる劇的な減少があるかどうかは、実際なってみないと分からないということでしょうか。

尾身:やっぱり、このウイルスは基本的には誰も免疫を持っていませんのでね。さきほど、新型インフルエンザとの違いはクラスターだと申し上げましたけれど、大事なのは、ほとんどの人は軽症で終わるけども、重症になったときの肺炎は、インフルエンザの比ではありません。

最終的に日本の対策がどう評価されるのかは、「死亡率」だと思います。日本の場合は世界最大の超高齢化社会で、高齢者の方がたくさんおられるので、これが最大のチャレンジです。なるべく高齢者に感染が行かないようにということで、出歩かないようにしようという話になると思うんですね。

山中:分かりました。今、ちょうど学校も職場も送別会シーズンですが、室内の集まりはクラスター感染になる可能性があるということで自粛しています。これはどうでしょう。4月になって歓迎会の頃になれば、やってもいいのか、それとも引き続きある程度我慢しないと仕方ないのか、どう見込まれますか。

尾身:この1~2週間、「今が瀬戸際ですよ」と言われて、多くの方が不自由を感じていますよね。これがいつ解放されるのかという話ですけれど、最初の頃より、だんだんと情報が出てきますから、この情報を見て適宜対応する――これは当たり前ですよね。

1つの参考になる情報は、北海道が数日前から緊急事態宣言を出して行動変容を求めたわけですよね。社会経済活動をある程度維持しながら、リスクの高いところだけを避けるという行動で、うまく制御できるのかどうかという評価がもうすぐ出ます。そういうことも踏まえてやるのではないかと思いますので、一律に「4月になったらこう」というふうになかなか言えません。

高齢者をいかに守るか

山中:この中国のデータでは、若い人はほとんど重症化せず、70歳80歳になると、致死率で10パーセントまでになります。日本でも同じくらいの致死率になると見込まれますか。

尾身:致死率は「おしなべて」ではなくて、年齢によって違います。65歳以上では1パーセントぐらい、20~64歳の人が0.15パーセント。20歳以下はほとんど今のところ死亡がありません。しかも、この病気を白黒単純化できないんで、我々にとっていいことと、ちょっとチャレンジングなことと、はっきり理解したほうがいいと思います。高齢者とか基礎疾患を持っている人はリスクが高いというのは、みなさん、もうご存知ですね。

同時にもう1つ私が申し上げたいのは、感染が確認されたうちの約80パーセント、5人に4人は風邪程度の軽症で、16パーセントが重症です。重症と重篤の違いはどうかというと、重篤というのはおそらく人工呼吸器をつけるような話だと思うんですけど。しかも、重症化した16パーセントの人も約半数は回復しているというところは、ややポジティブなところですよね。そんなところはちょっと押さえておいたほうがいいんじゃないかと思います。

山中:ただ、先ほど尾身先生が言われましたとおり、この新型コロナウイルスによる肺炎はインフルエンザとは比べものにならないというのも事実です。季節性のインフルエンザの場合は、1万人くらい亡くなっているんですが、これはインフルエンザで直接亡くなったというよりは、二次的な病気を併発して、結果として亡くなってしまうという場合がほとんどだと思います。

しかし、新型コロナウイルスに関しては、重篤な方の場合、本当にこのウイルスが肺を破壊して、一気に人工呼吸が必要になってしまう。ですから、そこはやはりインフルエンザとは区別して、ほとんどの人は大丈夫なんですが、いったん悪くなったら急激に悪くなるというのが特徴だと理解しています。

尾身:先生のおっしゃるとおりで、インフルエンザで亡くなる人は「関連死」と言われて、インフルエンザ自身ではなくて、それによる合併症ですね。インフルエンザの感染がトリガーになって全身を、ということです。

今回のコロナウイルスで重症化する人は、特徴がもう1つあります。インフルエンザの場合は感染して2~3日と比較的早く重症化する。ところが、コロナウイルスの場合は、風邪のような症状が5日~1週間ぐらい続くんですね。これを過ぎると良くなる人は良くなっちゃう。ここで悪くなると、そのときの肺炎像は、合併症としての肺炎ではなくて、ウイルス性肺炎で、肺に直接ウイルスが行って、空気はほとんどないということになります。

山中:SARSとかMARSで見られたような劇的な症状が起こってしまうと。

尾身:そうです。これは普通のインフルエンザとはぜんぜん違うところで、しかも入院の期間が長くなります。そういう意味では、インフルエンザとは明らかに違います。

山中:実際、クルーズ船でも70代80代の方が全部で6人亡くなっていると思いますが、ご高齢とはいえ非常に元気でいらしたのに、たった1人のコロナウイルスの患者さんがそこに入ってきたがために、短期間に6人も亡くなってしまっている。この事実は非常に重たいと思っております。これを国・社会としてどう抑えて、高齢者の方を守っていくかというのが、今、私たちに求められている課題ではないかなというふうに考えています。

一斉休校の意義

山中:このグラフでもう1つ私が気になっていることがございまして、0歳~10歳、10歳~20歳の層で患者さんがほとんどいないということになっているんですね。20代になるとかなり出てきていますが。これはあくまで中国の結果ですが、中国は一番、感染者数が多いですから、統計的には非常に意味があると思うんです。

これだけ見ると「子どもは感染しないんじゃないか」と。今、休校措置要請でされていますが、「感染しない子どもさんを休校にしても効果があるのか」と、そういう意見を聞いたことがあるのですが、それについてはいかがお考えでしょうか。

尾身:それもインフルエンザとの比較で言うと分かりやすいと思うんですけれど、2009年の新型インフルエンザの流行時に、実は日本の死亡率は世界的にみて圧倒的に低かったんです。WHOはこれを随分認識して「すごかった」と評しています。日本のマスコミにはあまり出ていませんでしたけれど。

この理由の1つが、実は学校閉鎖だったんです。なぜかというと、インフルエンザの場合には、感染拡大の一番強い要素、ドライビングフォース(牽引力)が児童・生徒なんですね。児童が、いってみればクラスターと一緒ですね。小学校や中学校で感染して、家に帰って、そこで家族にうつしてしまうと大変です。学校を閉鎖することによって、家族を守る、社会を守ると同時に、感染の広がりを抑える。これが実は効いたんです。

山中:今は、これまでになかった危機ですから、リアクティブというか後追いの対策ではなくて、プロアクティブに、先手必勝でやっていく必要があると思いますが、小学校を休校にするということも、子どもさんの健康を守るというよりは、そこを起点として感染が広がることを防ぐ。その意味が一番強いという理解でよろしいでしょうか。

尾身:そうですね。可能性としては、お子さんも症状は軽いけれど感染していることはあり得ます。そういう意味では、働いているご両親の仕事をどうするのかですとか、なかなか難しい社会的な問題はあるけれど、純粋に医学的に見れば、やらないよりは……。ただ、今はむしろ社会的なほうの問題があるので、またこれは別の話だと思います。

PCR検査の適切な実施方法

山中:今、「敵を知る」ということで、致死率だったり、感染性、季節性とだいぶ議論いたしましたが、次に「現状を知る」、今どこまで来ているんだと。

ちょうど昨日(2020年3月4日)の報道で、クルーズ船を含めてですけど、日本で感染者が1,000名を超えたと。クルーズ船以外ですと300数十名おられるようです。ただ、日本で行われているPCR検査の数は韓国と比べると10分の1くらいとかなり少ない。開業医の人が「検査してほしい」と保健所などに電話しても、なかなかしてもらえないという例も聞きます。

そうなってくると、日本における実際の感染者数はもっと多いんじゃないかなという気がするんですが、専門家の先生方では、どういう推定がございますでしょうか。本当に1,000人くらいしかいないのか、実は1万人とか10万人とか広がっているのか。推定の話なので難しいとは思うのですが。

尾身:これは専門家委員会の見解というより、私個人の見解になります。多くの人は「自分は感染しているのかどうか」というのが知りたいですよね。極端に言えば日本人全員に症状が出る、感染をする可能性はあるわけで、理想的には全部の人にPCRをやるというふうになるけれど、これは公衆衛生学的には、全く意味がないし、感染していなくとも陽性とでてしまういわゆる偽陽性が多く出て増悪させてしまう。

じゃあ、PCRはどういう人にやるべきかを、はっきりと医療界だけでなく、国民も決めておかないと、判断が恣意的になりますよね。この病気は、軽い症状が何日か続いて、その後にグッと重症化するので、本来なら風邪症状が出た瞬間にPCRをやればいいと思うんだけれど、それをやるとPCRのキャパシティと関連します。

今のPCRのキャパシティぐらい、あるいは、急に感染が100倍200倍には拡大しないという前提で言うと、1日熱が出たらすぐにPCR検査をしても――あんまり早くやってもPCR検査の結果に出てこないということも考えられるので、4日ぐらいして熱が下がらなかったらすぐに相談して、必要だったら医師の判断で受けるということにする。

ただし、それだと遅すぎるという場合もありますよね。そのために、私はDay1から息切れがするとか、極めて強いだるさというのがウイルスの特徴なので、これがあった場合は別。それから高齢者の場合は別としたい。この基準に合った人にはPCRができるキャパシティがないとだめだと思うんですね。

そういう意味では、たしかにPCRをもう少し早くできる体制があったほうがいいですが、それをつくろうと民間の企業と協力してやられているんで。国が、しっかりした判断基準を示す一方でPCRのキャパシティを増やすというのは、これは今頑張っていますが、もう少しスピード感をもってできたらというのは個人的には思いますね。

今やるべき2本柱

尾身:日本は幸いなことにSARSがほとんど問題にならなかったですよね。私自身はSARSのときはWHOにいて直接関わっていたのですが、これは日本の努力というよりも、たまたま日本に入ってこなかった。今は韓国もそうですけど、一番積極的にやっているのはシンガポールですけれども、シンガポールはSARSのときにかなり打撃を受けましたので、その教訓があって、感染症に対してより強い対応をしたというのは間違いなかったと思います。

山中:シンガポールもすでに100名以上の感染者が見つかっておりまして、国内感染もかなりあると思います。ただ、シンガポールは死者が0なんですね。数が少ないですから、まだ統計的に有意かどうかは分からないですけれども、相当対策に成功しているという印象を受けます。日本が今後、シンガポールに見習うべきことはありますでしょうか。

尾身:基本的にはシンガポールがやっていることは日本もやっています。このウイルスとの戦いに勝つために、国民ができることというのは先ほどいくつか申し上げました。

あとは、我々一般市民ができることに加えて、2本柱があります。1本柱は、クラスターを早く見つける努力です。これが極めて重要。そのためには、さらにヒューマンリソース、人的資源を強化することです。なぜかというと、今、保健所の人たちを中心に自治体の人がクラスターを見つけようとやっていますけれど、電話相談にかなりの数の問い合わせが来る。そういう中でさっきのクラスターを見つける。これはものすごいことです。ここをなんとか国のリーダーシップで、リソースをしっかり投入する。シンガポールはここを徹底的にやっています。日本もやっているけれども、さらに強化する余地がある。

もう1つの柱は、医療現場です。日本の感染症指定病院が約1,800床ぐらいあります。それだけでは間に合わなくなる可能性があるので、そのときに一般の病院やクリニックにも参加してもらうというのはみんなコンセンサス(同意)だと思うんですけれど、じゃあ一体どういう基準で参加してもらうのか。やっていただくのはいいんだけど、クリニックが感染の場所になったり、あるいは、お医者さんが感染した場合にどうするのか。そういうようなこともあり得るわけですから。

クラスターの発見はやや行政的な話で、こちらは医療の現場、これをどうするかというと、両方とももう少し明確なポリシーがいります。それから、多分足りないものがいろいろあるはずです。今までそういうことを想定していないわけですから、感染指定病院にどんな機材が必要なのかとか、人的なものですとか。

ここをどうするかというのは今、日本の社会の課題、つまり国民の努力と行政のサーベイランス(調査監視)、それと医療を併せて、どう大変なウイルスに対処させるのか。現状から、ワンステップ、ツーステップ上げないとだめですよね。そこはクリアなメッセージとクリアなポリシーを出すことが大事だと個人的には思っています。

集団免疫で終息する可能性

山中:季節性インフルエンザは、毎年日本だけで1,000万人くらいが感染しています。新型インフルエンザは、2009年の場合も、結局あとで調査してみると、半年で2,000万人くらいが感染していたというデータがあります。そういうデータを見てみますと、今回の新型コロナウイルス、COVID-19が今後半年から1年でどれくらい広がってしまうんだろうか、と。

これは普通に考えると、誰も免疫を持っていないわけですから、インフルエンザと同じように数百万人、1,000万人、2,000万人というレベルで日本だけでも感染者が出てしまうんじゃないかなという気持ちもしてしまうんですが、それはどうでしょうか。

尾身:「報告されている数よりも、実際の感染者は多いんじゃないのか」という意見があります。感染しても症状が軽い人あるいは無い人も多くいると考えられていますので、実際の正確な感染者数はわからないと思います。そういう中で例えば「たくさんの人が感染しちゃえば、集団免疫みたいになって終息するんじゃないか」という考えもある。

今の時点では誰も正確なことはわからないと思うんだけれど、我々のこれまでの実感と限られた情報では、今、集団免疫、いわゆるherd immunity(ハードイムニティ)ができるほどの感染の広がりはないと思います。集団免疫というのはかなりの数のパーセントがないとできないので、「いずれ、みんなが感染すれば免疫を持つだろう」という意見についてはちょっと……。我々は、きちんと感染拡大をなるべく抑制するという努力を続けるべきだと思います。

山中:集団免疫というのは、10人のうちの5人なり6人が抗体を持って感染しなくなると、一気に感染のスピードが落ちて、免疫を持っていない人への感染も集団としては少なくなるということですよね。これはワクチンの有効性の根拠の1つになっていると思うんですが、そのためにはかなりの数がコロナウイルスに感染して抗体を作り出さないとだめですから、まだそこまでは当然いっていないと。

尾身:そうです。あと、先生が先ほどおっしゃったPCRのキャパシティも増えていくといいと思いますが、迅速診断キットですよね、これがあるとずいぶん違うんで、早くコマーシャルベースでできればというか、活用できるといいと思いますね。

山中:いわゆる抗原抗体反応ということで、インフルエンザのときに、どこのお医者さんでもスワブ(綿棒)をとって、そこにピッと垂らしたら数分で色が変わるという検査で、これができると本当にいいですよね。そのためにはまず抗体が必要になります。一番抗体を持っておられるのは実際に感染して回復された患者さんですが、そういう方に協力していただいたりというのは?

尾身:どこまで開発のプロセスが進んでいるか具体的には私はわかりかねますが、十分その考えでやっていると思います。ただ、技術的にクリアしなくちゃいけない問題が多少あると思います。

山中:昨日、ちょうど武田薬品が感染した人の抗体を利用した治療薬を開発しているという報道も流れましたが、そういう薬の開発も本当に喫緊の課題だと思います。

尾身:そうですね。あと、最近、ステロイドの吸入というのもあるし、例の(中国で新型コロナに聞くと言われている)アビガンですね。

山中:いろんな既存薬が出てきましたね。感染症でステロイドというと意外な気もするんですが、おそらく、SARSも、今回のCOVID-19も、免疫が暴走しているんじゃないかということが考えられていますから、そういう意味でステロイドで免疫の暴走を止めて、重症化を回復させるということは十分あり得ると思っています。

医療キャパシティを超えないように

山中:先生、最後に、この戦いの「ゴールを知る」ということですが、急激に患者さんが増えてしまうと医療のキャパシティを超えてしまう。そうすると、武漢と同じように患者さんがあふれてしまって、社会が崩壊してしまう。

だから、なんとか、こちらの図のようにピークを遅らせて低くすると同時に、治療薬の開発や病床を増やす努力をしてキャパシティを超えないようにする。これが1つの考え方だと思うんですが、今回の新型コロナウイルスも、やはり目指すゴールはここでしょうか。

尾身:基本的にはこの図でいいと思うんですけれど、もう少し細かく見ると、さっき言ったクラスターという発想があって、今、北海道が緊急事態宣言を出しましたね。細かいグラフの描き方はさておき、本質的な問題は、北海道を例にいたしますと、北海道は、この図でいうと、やや赤の線に行きそうだったわけですね。今回の場合にはガンガンと感染者を増やすクラスター感染があるので、それを放っておくと、どんどん赤の線のピークに行ってしまう。北海道知事の英断だったと思いますけど、赤の線をぐっと上がっていきそうなのを、緩やかに下げるというんじゃなくて、緊急事態宣言を出すことによって、一気にガッと下げることをしたわけです。

この図はインフルエンザをもとに描いてますから、下げ方は、緩やかに下がるようなグラフの曲線になっていますが、北海道は緊急事態宣言というかなり積極的なことをやりましたよね。これで1回は終息、といっても0にはなりませんけど、感染が広がる率はガッと下がる。ただ、0には行かないから、クラスターが発見できるようにサーベイをやって、ある程度落ち着かせると。

山中:なるほど。今までパンデミックというとスペイン風邪を筆頭に患者さんがすごく多かったのは全部インフルエンザでした。インフルエンザというのは最初に言われたように、感染したらみんながある意味等しく1人か2人にうつしていく、そういう均一的な感染なので、それに基づくと、こちらの図のようになります。

が、今回のウイルスはクラスターという増え方、全員がうつすわけじゃない、限られた人が特定の場所に行ってバッとうつすということで、そこをうまく抑えれば、この赤や青の線の緩やかな下げ方ではなくて、ガクッと下げられる可能性があるということですね。そこで一度、ガクッと下げることができれば、結果として、かなり低いレベルで感染者を押さえる可能性があるということですね。

尾身:はい。

山中:どうしてもインフルエンザのイメージがありますから、これが今回のコロナでもたどる道だというのが頭にあったんですが、クラスターや今日のお話を伺うと、まだチャンスは随分あるかもしれない。何百万人、1,000万、2,000万人というところまで感染者がいかない可能性もあるなと。今が本当にクラスターを叩けるかどうか。1個1個しらみつぶしで、つぶしていかないと。それが今、喫緊の課題というのが、今日、私にも分かりました。

ゴールの見通しはいつ見えてくるのか

山中:対談の時間も残り少なくなってきました。これも「ゴールを知る」の話ですが、首相に「1~2週が山場です」と言われると、僕たちとしては「1~2週我慢したら、そのあとは宴会行っていいのかな」と思ってしまうのですが、これはもうちょっと長期戦と考えておいたほうが、あとでショックが大きくならなさそうですね。

尾身:その前に、ゴールは何かですが、1人ひとりの感染を完全に防御するという幻想は、もうやめたほうがいいんです。

ゴールは結局死亡率を減らすということですから、そこを目的にいろんなことをやっています。この1~2週間というのは、先ほども申し上げたように、今、まさに北海道が先駆的に始めている緊急事態宣言、つまり、「1~2週間、人が集まるところに行かないでください」ということの効果がもうすぐ分かりますから。

このあとは、やや感染リスクの低いことは、少しずつだと思うんですが、解禁されるかもしれない。これはまだ控えてほしいというのもあるかもしれない。そこは、今回の北海道の効果を見て、もう1回評価しないといけない。

この感染症の戦いに負けるというのは、赤い線の方向に行くということです。そのときは、赤の線の頂点まで行くと、感染のミティゲーション(緩和)といって、死亡率を低くして、インパクトを弱めるしかなくなります。だけど、今はそこまで行っていないので。だから、このあとどうするのかというのは、北海道の評価がもうすぐ出てきますから。

山中:この1~2週で、そういう見通しが立ってくる?

尾身:そうですね。3月の中旬までには評価をせざるをえないですよね。

山中:分かりました。スポーツに関して言いますと、ジムはダメだけれども、屋外のジョギングはいいという発言を専門家委員からしていただいていますが、そういう、より踏み込んだ、「何は良くて、何はダメ」という積極的な指示がないと、みんな萎縮して何もできなくなります。

コロナ対策は成功するかもしれませんが、社会が萎縮して不景気になるという副作用もすごく心配ですから、ぜひ、あと1~2週の結果を見極めて、より具体的な対策が専門家会議の先生、さらには安倍首相から国民に発信されることを切に願っております。本日は本当にありがとうございました。

尾身:ありがとうございました。

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