本記事は、「eラーニングアワード 2019 フォーラム」の中で行われたセミナー「大学と企業をつなぐ――反転学習による学生の新たなキャリア教育」の内容を書き起こしたものです。(全2回の前編、後編はこちら)
なぜ大学と企業をつなぐ必要があるのか?
寺内:本日は、「大学と企業をつなぐ――反転学習による学生の新たなキャリア教育」というテーマで、実践女子大学でキャリア教育を担当されている深澤先生と2人でお話をさせていただきます。
まず、なぜ大学と企業をつなぐことが必要なのか。皆さんは「VUCAの時代」という言葉をご存知でしょうか。VUCAは不安定性、不確実性、複雑性、曖昧性という言葉の英語の頭文字で、要するに先の見えない時代を表す言葉です。
世界的に見ると、AI、ビッグデータなどテクノロジーが大きく進化し、一方でトランプ政権の反グローバルみたいな流れもあり、多様な価値観が広がってきている。その結果、先の見えない混迷の時代に入っていると言えます。目線を国内に向けると、少子高齢化が進んで企業の中でベテラン層が高齢化する一方で、若手人材は不足が続いています。
つまり、VUCAの時代にもかかわらず、人材、働き手がどんどん少なくなり、さらに深刻化しているのというのが、背景としてあります。では、実際の現場はどうなのか、深澤先生からお話いただきます。
深澤:大きな変化として、新卒者に求められるレベルが非常に高まっている、ということがあります。大学を出てすぐ企業の即戦力として活躍することが求められているため、大学は学生に早い段階から広い視野と高い視座を、身に付けさせる必要が出てきました。要するに、学科の専門科目と私が担当しているキャリア科目をどう有機的につなげられるか。縦と横をどうつなげていくか、非常に大事な局面に差し掛かっていると思います。
実は、産学連携はかなり浸透してきていますが、リアルな経験を積ませるだけでは足りません。理論的なフレームワークや考え方、仕組みもセットで学んでいかなければいけない。ですから、経験と理論というものをどうキャリア教育の中で結びつけるかが、私の課題認識でありました。
同時に就職活動も混迷の時代になっています。いつ就職活動が始まったとしても、臨機応変に対応できる。即ち「変化対応力」を十分に備えた学生の育成が、喫緊の課題になっています。
社会人教育の現場はどう変わったか?
寺内:では、次に社会人教育の現場の変化をお伝えします。
大きく分けると3つの変化があり、まず1つ目が採用環境の変化ですね。市場に若い働き手がいないという厳しい状況の中、企業は自社の価値観と合う人を少人数でも集めようとしています。学生は学生で、たくさんの内定をもらうので、お客様のような感覚を持っています。「企業はどんな成長機会を与えてくれるか?」を見て入社する人が年々増えていると感じます。
2つ目として、「一人前」の姿が変化しています。人材不足なので、一人前までの期間が早くなります。これまでは3年から5年で一人前に育てていたところが、近年は1年とか2年で一人前。かつそのレベルも、1人で現場に出られるではなく、ビジネスを立ち上げるとかマネージするレベル。企業は、自立して、新しいものごとを率先して挑戦してくれる人を求めているなと思います。
3つ目は、新卒者の価値観の変化です。内定者向けのサービスをやっているので、新卒や学生の方と結構話すんですが、プライベート優先で、愛社精神は正直あんまり高くない。転職することを前提としている。「しばらく働いたら出るつもりなんで」と、皆さん口をそろえて言う。その価値観を踏まえて、マネジメントしなければいけないというところが、大きな変化としてあります。
まとめると、加速する混迷の時代を、限られた少ない人材でこれからの社会、支えていかなければならないわけです。なので、社会人になりたての方は、早期にレベルの高い仕事をどうしても求められざるを得ないという状況になってきています。これらを踏まえて、大学の「学ぶ」と、企業の「働く」をきちんとつないで橋渡しをしていくことが、すごく重要になってきているのです。
eラーニングによる反転型キャリア教育の取り組み
寺内:続いて、実践女子大学×グロービスの取り組みについてご紹介します。今回、実践女子大学のキャリアデザイン講座の中に、本来であれば内定者に使うサービス「グロービス学び放題フレッシャーズ」を取り入れていただき、反転学習をやらせていただきました。
深澤:実践女子大学は1899年にできましたので、ちょうど、創立120周年を迎えた女子大学です。現在、3学部に9学科、短大を含めて学生の数が約4,300人。品格高雅にして自立自営しうる女性の育成というものを掲げた大学です。
今回、グロービス様と連携させていただいたのは、キャリア教育のコア科目である「キャリアデザイン」という科目です。受講は主に3年生。定員は40名ですが、今年は定員の倍の87名が履修申請をしてくれまして。抽選せずに全員受け入れました。
授業のコンセプトは「まなぶとはたらくをつなぐ」。マルチアプローチ、マルチフィールドということで、さまざまなゲストにお越しいただき、共に語り合い、考え続ける、アクティブラーニング型の授業となっています。私が一方的に話すという時間はほぼなくて、学生が議論することを中心に据えています。
寺内:「グロービス学び放題フレッシャーズ」は、内定者や新入社員向けのサービスです。ビジネスマナーのような基礎知識ではなく、マーケティング、アカウンティング、プレゼンテーション、リーダーシップといった経営学の学びを扱っているサービスになっています。
深澤:産学連携の授業は、大学はもちろん、高校段階からかなり行われています。多くは企業からお題を出していただき、学生が考えてプレゼンテーションをして、企業からフィードバックをしてもらって…という正統派スタイルです。
ただ、それだけではなくて、企業経営の中のどのような課題がそのお題に含まれているのか、しっかりアカデミックな部分で押さえてから実例を聞くというようなかたちを取れないかっていうのが、今回の取り組みに至った背景です。
例えば、「企業研究の新たな視点」というテーマですが、ある企業のIR説明会の動画を見ながら企業の研究をして、その内容を株主や新聞記者の立場でプレゼンするということをやってきました。ただ、いきなりそれを見ても、株主総会に出てくるような言葉そのものが分からないですよね。
そこで「グロービス学び放題フレッシャーズ」のアカウンティングの講座を事前に勉強してくることで、少なくともそこに出てくる言葉、例えば営業利益や純利益、ROEといった、動画の中で登場する言葉の意味が理解できると思います。
他にも、『ONE PIECE』という漫画をテーマとしてリーダーシップを語ってもらう講座があるのですが、ここでは「リーダーシップとは何か」っていうことをゲストの方のお話を通じて学生に理解をしてもらうことを目指しています。
講座の前に「そもそもリーダーシップって何だろう?」っていうことを事前に学んできてもらうことで、その学びが深くなる。理論と実践を行ったり来たりさせようっていうことが、実は狙いだったということです。
ですから、事前に勉強し、授業でリアルな話を聞いて、またそれを振り返るということを繰り返すことで、それぞれの講座に狙いとして定めていたリーダーシップ、コミュニケーション、アカウンティングといったものがバックグラウンドにあることを知ったうえで、リアルな場で経験を深めてもらう。新しいキャリア教育の型を目指したのが、今回の授業でした。