「ピボット」という言葉で失敗を正当化してはならない

新刊『ダークサイドオブMBAコンセプト』の5章「創造・変革」から、「リーンスタートアップ/ピボット」を紹介します。

いまやゲーム会社として大企業となったDeNAやグリーが、創業当初はそれぞれネットオークション、PC向けSNSの会社だったことは非常に有名です。これらは「ピボット(方向転換)」が成功した例と言えるでしょう。特にITビジネスにおいては技術の進化を始めとする経営環境の変化が速く、当初想定していたとおりにビジネスが進展しないということが少なくありません。そこで、スピード感を持ってまずはβ版的なサービスを提供しつつ、その様子を見て時には大胆な方向転換が図られるのです。ただ、これはリスクを下げる手法である一方、安易にピボットばかり繰り返していてもなかなか成功には至らないものです。それまでの失敗の理由を考え、正しい方向にピボットしていかないと、やはり成功はおぼつかないのです。

(このシリーズは、グロービスの書籍から、東洋経済新報社了承のもと、選抜した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

定義

リーンスタートアップは、新しいビジネスモデルを開発し、短期間で成長を果たす起業の方法論。ピボットは方向転換のことで、初期のトライがうまくいかなかったときに大胆に方向性を変えることを指す

失敗例

このままだとじり貧になりそうなのでピボットをしたのだが、かえって状況は悪くなった印象がある。これなら元通りのプランで進めておく方がよかったかもしれない。何がまずかったのか……

解説

特にIT関連のスタートアップビジネスでは、スピード感をもって市場を開拓し、そこでポジションを築くことが非常に重要になります。認知度アップや、イノベーター顧客・優良パートナーの囲い込みができることなどに加え、いわゆるネットワークの経済性(参加している人間が多いほど利便性が増す)が働くことが多いからです。特にプラットフォーム型のビジネスではその傾向が高まります。

それゆえ、リーンスタートアップでは、標準的な精緻さで市場調査をしたり、それに基づいて詳細なビジネスプランを書くということはしません。「まずはアイデア(仮説)をどんどん試し、市場からのフィードバックを早期に得、それに学び、スピーディに製品・サービスを改良していく」というアプローチが取られます。最低限の要件を満たすβ版的な製品・サービスをまずは作り(これをMVP:Minimum Viable Product と言います)、それを改良していくということです。

リーンスタートアップにより、スピーディな展開が可能になるだけではなく、失敗の時期を早期化できるので、失敗してもダメージが少ない、それゆえ費用対効果が高くなるというメリットもあります。

オンライン上でデータを保存できるサービスを展開するDropboxや日本では食ベログなどが典型的にリーンスタートアップで成功した企業・サービスといわれています。

一見、良いことずくめのようにも聞こえますが、実際にはやはり落とし穴があります。1つは、リーンスタートアップの美名のもとに、全くの思いつきのアイデアが拙速で進められる理由にされるというものです。どれだけ面白い仮説であっても、やはり「自分が欲しいサービスだから世の中も求めるだろう」程度では弱すぎます。

簡単でもいいのでヒアリングをしてみたりアンケート調査等でニーズの強さや潜在市場規模に関して裏付けを取る方が望ましいのですが、それをスキップしてしまうのです(なお、調査に関しては、「このような製品・サービスを欲しいですか?」とダイレクトに聞いても、存在しないものを人はイメージできないという側面がありますので、聞き方の工夫は必要になります)。

最初のMVPであるβ版が貧弱すぎて、見込み顧客に対して悪い印象を与えるというケースもあります。 MVPの要件として、顧客に価値提供する上で最小限の機能を具備していることが必須なのですが、これも拙速に進めすぎる結果、MVPがMVPたりえないのです。

たとえばいまや大きな事業となったYouTubeですが、仮に最初のβ版に5秒以上の動画はアップロードできないという制約があったなら、現在の成功はなかったかもしれません。 BtoCのサービスはブランド名を変えるなどすればまだ対応もしやすいですが、BtoBのサービスでは企業そのものへの信用を損ねる結果、再度試用してもらえないということもあります。

安易なピボットについての批判もあります。方向転換というと聞こえはいいのですが、その原因を精査しないまま闇雲に方向転換を行うのは賢明ではありません。たとえばうまくいかなかったのは市場性が元々なかったのか、それとも製品が良くなかったのか、あるいは製品は良くてもマーケティングや営業の実行面で問題があったのかなど、反省やそこからの学習がなければ、ピボットしたとしてもまた失敗してしまう可能性は高いでしょう。

また、投資家を始めとするステークホルダーの中には、安易なピボットを粘りや執着心の無さの現れと見る向きもあります。本当にリーダーが精魂かけているかを関係者は見ているものです。頑張った上で本当に必要なピボットでないとスタッフもついて来てくれません。そうなるとピボットしても結局同じことが起こる可能性があるのです。

リーンスタートアップやピボットは、拙速や失敗を正当化してしまうマジックワードであってはならないのです。

ダークサイドに落ちないためのヒント

①そもそもリーンスタートアップに向くビジネスなのかを検討する
②「拙速でないか?」の自問を怠らない
③内発的な動機を高めるための努力をする(高い志を設定するなど)

(本項担当執筆者:嶋田毅 グロービス出版局長)

 

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