著者のデービッド・アーカー教授といえばブランド論の大家として名を馳せている。アーカー教授が20年以上前に唱えたブランド・エクイティという概念は、今ではすっかりブランド戦略に携わるマーケターの間で共有されるものとなっている。そんなアーカー教授の最新刊ということで早速手にとってみた。
本書では、アーカー教授は書名のとおり、今の時代ではストーリーを活かすことがブランド構築にとって重要であると述べている。それも、ありきたりなストーリーでなくシグネチャーストーリーが重要であるという。殊更シグネチャー(=人目を引くくらい突出している様)というところにどのような意味があるのだろうか。
ブランドへの愛着を強烈に抱かせる「シグネチャーストーリー」とは何か?
本書ではシグネチャーストーリーを「戦略的メッセージーーブランド・ビジョン、顧客との関係、組織の価値観や事業戦略などを明確化または強化するメッセージーーを伝える、あるいは支える物語」としている。要はそのブランドが人々の頭の中に形作りたいイメージを、ドラマ的要素を用いてできるだけ強く印象づけるための手立てといったところだろうか。単に事実を伝えるのではなく、いかにドラマティックに伝えるかがこれからのブランドコミュニケーションの肝といえよう。
シグネチャーストーリーがあることで、メッセージの受け手の関心を強烈に惹きつけ、伝えたいことを印象づけ、ブランドへの愛着を抱かせるとともにブランド側が望む行動に誘うことができる。ここでいう行動とは必ずしも購買行動でなくてもよく、人々が話題にしてくれる、いわゆるバズるだけでも構わない。というのも、インターネットメディアが全盛を迎えた昨今、人は一日で4,000から5,000の広告に触れると言われているがそのほとんどが記憶に残らないことを思うと、話題にしてくれるだけで広告としてはかなりうまくいったといえるからである。
「しゅくだいやる気ペン」――シグネチャーストーリーの実例
説明だけではピンと来にくいシグネチャーストーリーなので私が最近気に入っている事例を1つ紹介したい。
文具大手コクヨの「しゅくだいやる気ペン」という商品をご存知だろうか。小学生の子供が鉛筆にはめて使うだけで勉強への取り組み度合いが可視化されるという、今夏発売された同社初のIoT製品である(商品の詳細はこちらのリンクで確認していただきたい https://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/yarukipen/)。
コクヨは自社のYoutubeチャネルでこの「しゅくだいやる気ペン」の使用前・使用後を実に効果的な90秒の動画にまとめて公開している。
最近、小学生の子供を持つ方々数名にこの動画を見せたところ、全員が動画が終わるやいなやインターネットで商品検索する様子が見られたことにこちらが驚いた。
動画では、勉強に集中できない小学校低学年の子ども達が「しゅくだいやる気ペン」により文字通り嘘みたいに勉強に取り組み出した様子が切り取られている。
ここでのポイントは、ブランド側の作り話ではなく、ドキュメンタリーであることだ。それが何より強い説得力となり同じ悩みを持つ親に響いたものだろう。ただの商品説明だけでは即座の検索に至らなかったかもしれない。シグネチャーストーリーとは人々の気持ちを揺さぶり、行動に掻き立てるものでなければならないということ実感した次第である。
本書には、自社が都合よくシグネチャーストーリーが持ち得ていない場合にどのようにストーリーをつくればいいのかの対処法についても言及されている。是非手にとって見てほしい。
『ストーリーで伝えるブランド シグネチャーストーリーが人々を惹きつける』
著:デービッド・アーカー 発行日:2019/10/3 価格:2200円 発行元:ダイヤモンド社