せっかくの「分析」の価値が非常に小さくなる理由とは?

新刊『ダークサイドオブMBAコンセプト』の1章「論理思考のダークサイド」から、「分析」を紹介します。

分析は、正しく行えば非常に大きなインパクトを経営にもたらします。特に、「儲かっていると思っていた製品が、実は作れば作るほど赤字になることがわかった」といったように、皆が思いこんでいたことが実は誤りだったことを気付かせるような新しい発見のある分析や、費用対効果の高い効果的なアクションにつながるような分析は非常に重宝されます。

ただ、世の中で行われている分析の多くは残念ながらジャンクであり、時間の無駄遣いとしかいいようのないものが少なくありません。時間という経営資源は有限です。その中で無駄な分析をしないためのヒントをご紹介します。

(このシリーズは、グロービスの書籍から、東洋経済新報社了承のもと、選抜した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

定義

複雑な物事を細分化したりその関係性を見ることで、ポイントをつかんだり、とるべきアクションのヒントにすること。やればやるほど実態に近づける。実態を把握するための活動

失敗例

クライアントからの要望に基づき、詳細な分析をすべきと上司に提案したが「時間の無駄」と却下された。なぜ上司はわかってくれないのか。丁寧に分析をすればいろいろな事実が明らかになると思うのだが……

解説

分析という作業は、何かを行う際に適切に行えば多くのヒントをもたらしてくれる非常に大切な行為です。例えば、ある事業において海外進出すべきか否かを判断する場合、現地の市場性を調べたり、競合がいるかどうか、チャネルが存在するかどうかなどを調べ、場合によっては気になるポイントをさらに深掘りして調べるのは常識でしょう。

また、外部の経営環境だけではなく、自社の内部にある強みがそのまま生きるか、十分な人材や資金は確保できそうかといったことを精査するのも当然大事です。これを適切に行えば、事業が成功する可能性は高まります。慎重を期すなら、いくつかのケースについてシナリオを作り、何かあった時のリスクに備える分析を行うのも有効です。

さて、分析にはこうした効用がある一方で、典型的に陥りがちな落とし穴もあります。その代表として、分析の目標が定まっておらず、意図しない方向に分析がいってしまう、あるいは、「分析のための分析」になってしまい、時間をかけている割には大したアウトプットが出てこない、などがあります。今回はこの2つについてご紹介しましょう。

まず、分析の目標が定まっておらず、意図しない方向に分析が行ってしまうという事態がよく起きるのは、他者(通常は上司や先輩など)から「これちょっと分析お願い」などと指示を受けるシーンです。

例えばあなたは銀行の企画部に勤めているものとします。そこで上司に「日本のベンチャーキャピタル業界について調べてほしい」と指示されたらどんな分析をするでしょうか? 本来は上司の意図をしっかり確認してから分析に入るのが筋なのですが、慣れない人は往々にして勝手に相手の依頼を理解したつもりになり分析を始めてしまいます。

例えば「自社でも関連企業でベンチャーキャピタル事業を始めるのかな?」と考えた人は、主だったベンチャーキャピタルの近年の業績を調べ、どのようなプレーヤーが良い業績を上げているかを知ろうとするでしょう。人によっては、いわゆるKSF (事業成功のカギ)を自分なりに考えるかもしれません。

一方で、ベンチャーキャピタルを広い意味での競合と考え、どのくらい彼らからビジネスを奪えるかが上司の知りたいことと考えた人であれば、低リスク(通常は成長後期=レイターステージ)の投資の状況を調べるかもしれません。

これらはいずれもその目的に照らせば「間違った分析」ではないのですが、仮に上司の意図と違っていたらせっかくの分析があまり意味を持たなくなります。

それと並んでよく陥る罠は、2つ目の「分析のための分析」、あるいは分析麻痺です。分析というものはやればやるほど何らかの新しい発見があるものです。たとえば顧客アンケートを分析しようとします。マーケティングの領域には因子分析やクラスター分析、コンジョイント分析、重回帰分析など、その気になればできる分析は山のようにあります。しかも変数の選び方、組合せもその気になればもの凄い数になります。

それらをやっていくと、いつの間にか分析が非常に面白いものに感じるようになってきます。新しい分析をすれば、とりあえず何かしらの新しい知見は得られるのですから。しかし、この「面白く感じるようになる」が実は罠なのです。

パレートの法則という「上位の20%程度の項目数で全体の80%のボリュームを占める」という経験則があります。たとえば「上位20%の製品で売上げの8割を占める」「上位20%の原因で事故の80%を占める」などです。

分析に費やしたエネルギーとアウトプットにもこの傾向は当てはまります。ある時点を超えると、確かに新しい知見は手に入るのですが、そのために投入したエネルギーに見合わなくなり、投資対効果がどんどん落ちていくのです。これでは生産性も上がりません。

分析は手段であって目的ではありません。「このくらいのことがわかれば後は実践しながら進めればいい」というマインドを持ち、どんどん先に物事を進めるべきなのです。

ダークサイドに落ちないためのヒント

①分析の目的を常に自問したり確認する
②分析によって得られる知見が本当にアクションにつながる、「意味のある知見なのか」を意識する。「現時点でここまで分かれば十分」という感覚を磨く
③部下に安易に「分析しておいて」などと言っていないか自問する

(本項担当執筆者:嶋田毅 グロービス出版局長)

 

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