日本で初めての開催となるラグビーワールドカップがいよいよ開幕しました。日本は初戦のロシア戦を30-10で制し、プール戦(サッカーでいう1次リーグ)突破に向けて幸先のよいスタートを切りました。日本が所属するプールAは以下の5チームより成ります。カッコの中に示したのは公式サイトによる世界順位です。
プールA
・サモア(16位)
・アイルランド(2位)
・日本(9位)
・スコットランド(8位)
・ロシア(20位)
上位2チームがプール戦を突破し、決勝トーナメントに進みます。一見、世界ランキングだけに注目をすると十分全勝もありそうですし、仮にアイルランドに負けても1ランクだけ上のスコットランドを下せばめでたく突破となりそうですが、そう簡単でないのがラグビーというスポーツの難しさです。
ラグビーは、数あるスポーツの中でも番狂わせ(アップセット、ジャイアントキリング)が起きにくいスポーツの筆頭とされています。つまり、実際の強さがそのまま結果に反映されやすいということです。これは同じイギリス発祥のサッカーとは対照的です。
サッカーではランキング9位のチームが8位のチームに勝っても何の不思議もありません。そもそも点数が入りにくく、一瞬の隙が試合を左右しやすい、また手を使ってはいけないという競技の特性上ボールの保持が難しく、ハプニングが起きやすいからです。何かの拍子にレッドカードをもらって1人少ない10人で戦わなくてはならないというシーンもしばしば起きます。偶発的に1点だけ取った後、あとはひたすらディフェンスに力を入れて守り切るという勝ちパターンも存在します。
それに対してラグビーは得点機会も多い上、基本的に手でボールをコントロールしますから、サッカーに比べるとアクシデントは減ります。一発レッドカードも実質、起きません。また、体重差なども露骨に効いてくる結果、強いチームがそのまま勝ちやすいのです。ランキング1枚の差とは言え、特に1ケタのランキングではその差は思った以上に大きいのです。ちなみに、公式ランキングにおける8位スコットランド80.54と9位日本76.70のポイント差(3.84)は、1位ニュージーランド90.88と4位ウェールズ87.32のポイント差(3.56)以上であり、見た目以上に大きな差があります。
こう書くとファンの方には申し訳ないのですが、ランキング2位のアイルランドに日本が勝てる可能性はほぼないと言っていいでしょう。問題は、前回の大会でも煮え湯を飲まされたランキング8位のスコットランドにどう勝つかです。そのカギが「リスクを恐れないプレー」という、ジェイミー・ジョセフ監督の戦術哲学です。
具体的には、一昔前にはあまり見られなかったキックパスやオフロードパス(タックルを受けながらの片手パス)などのリスクの高いプレーを恐れずにするということです。これらは、前回大会までは、体格の劣る日本チームにとってはボールを失う可能性が高いとして避けられてきたプレーです。
「強い相手にリスクの高いプレーで挑んでいいのか?」という疑問もあるかもしれませんが、それは逆です。強い相手だからこそリスクの高いプレーをしないと勝てないのです。普通の戦い方をしては普通に負ける、と言い換えてもいいかもしれません。よく「競馬で負けるには、本命だけを買い続けると、てら銭分だけ負ける」という言い方があります。その愚を犯してはいけません。普通の戦い方ではなく、リスキーなプレーを繰り出すことが、格上に対する勝率を高めるのです。
実際、前回2015年のワールドカップでは、日本はあまりリスクの高いプレーはしませんでした。それでもランキング3位(当時)の南アメリカに勝つというジャイアントキリングを起こしたことはかなり奇跡的でしたが、やはり限界はあります。ジェイミー監督がそれを見抜き、日本にリスキーなプレーも多用するようにコーチしたことは、日本の立ち位置を考えると非常に理に適っていると言えるでしょう。
同様のことは、同じフルコンタクトスポーツのアメリカンフットボールなどでも観察されます。アメフトの番狂わせは、司令塔となる重要なポジションであるQB(クォーターバック)の怪我や不調でもよく起こりますが、やはりリスクをとった戦術がはまった時に起きやすくなっています。一歩間違えれば大量失点につながるような一か八かのディフェンスが奏功したり、難しいトリックプレーを多用する、4thダウンギャンブルをどんどん仕掛け、それが成功するなどです。
リスクと言うとどうしてもマイナス面ばかりを見がちですが、アップサイドのリスク(好ましい方向性へのブレ)というものを忘れてはいけません。大敗しようが1敗は1敗です。難しい局面こそ、正攻法ではなく、リスクをとる姿勢が奏功することも多いのです。
そしてこれはビジネスでもしばしば使える発想法です。たとえば正攻法で戦ってくる大手企業に、ゲリラ戦的な戦い方を挑むなどです。未来のリスクを正確に見極めることは難しいですが、リスクをいたずらに恐れず、正しく向き合うことが必要です。