男性が突然、女性用化粧品のマーケに任命されたら?
私は、マーケティング活動が目指すべきことの1つは顧客のロイヤリティ向上、平たく言えばファンづくりにあると考える。
顧客が企業や商品、サービスとの間に何らかの意味合いを見出し、つながりを感じてファンになってくれたら、ちょっとやそっとのことで離れることはないだろう。こうして築かれた顧客基盤は、マーケティングの1つの定義である「継続的に売れる仕組みづくり」へとつながっている。したがってマーケティングに携わる方の多くは、心の琴線に触れるメッセージを届けたい、と日々考えていらっしゃるだろう。そのための取っ掛かりにしてマーケティングにおける最重要ポイントが「顧客理解」である。
それでは、顧客を理解する力をつけるため、マーケターはどんなことに取り組むとよいだろうか?
たとえば、自ら顧客となって使用体験を積む中で、自分の心の動きや感じ方を観察する、というのはオーソドックスながらとてもいいトレーニングだ。題材は何でもよく、日々の買い物から高額商材に至るまで、観察機会は多々あろう。
その際、自分が担当している商材でなくても構わない。顧客理解の幅を広げるつもりでやってみるとよい。但し、この方法には限界もある。自分がユーザーになりえない商材について、である。トレーニングならまだしも、もしあなたが男性で、婦人服や女性用化粧品、生理用品の担当に任命されたら?仮にそのようなことになったときに役に立つのが今回紹介する本書である。
単純に男女で分けられないと知りつつも、学ぶところがある
本書では女性特有の心の動きを、男性との対比において解説している。たとえば、男性というものは時間をかけてでも努力を重ね、勝ち負けを繰り返して成長を遂げ、周囲から称賛を浴びることを望む、生まれつき戦士のような存在。なのでマーケティング活動においてもアピールしたい商材をさながら成長を支える武器のように位置づけることが大事らしい。
一方女性はというと、今の自分は仮の姿であり、なにか運命的な出会い、きっかけにより一瞬にして本来の自分の姿に戻り、自分の気持ちが満たされることを望む、元来のお姫様のような存在、とのこと。なので、マーケティング活動においては商材を魔法のアイテムのように位置づけることが大事だという。
他にも、男性と女性で惹かれるストーリーや設定の違いも示されており、今まであまり知らなかった世界をのぞき見たような、とても興味深い記述が多々あった。ちなみに著者は本書の冒頭で、男性的・女性的と対比させているものの、実際は一人の人が男性・女性それぞれの特性を持っているもの、としているが、たしかにそれはそうだと思う。
個人的にはシンデレラの話がなぜ時代を超えて支持されてきたのか、理解できた気がする。あの話は、「人生大逆転もあるのだから辛い現状もくじけず頑張って」がメッセージだと思っていたのだがそれだけではなく、「不遇をかこった仮の姿から、プリンセスという本来の姿に戻ることが出来るきっかけを夢見ていいんだよ」もメッセージなのだろうと。
今の時代、単純な男女比較はウケないと知りつつも、それでも男性にはわからない女性ならではの考え方のいくつかは、はっきり明示してもらってやっと理解できるところがあるのではないかと、本書を読んで改めて思った次第である。
『プリンセス・マーケティング 「女性」の購買意欲をかき立てる7つの大原則』
谷本理恵子著、エムディエヌコーポレーション
1,500円(税込1,620円)