令和の時代が始まりました。ビジネス環境もこれまでとは大きく変わっていくことでしょう。そこで今回は、新しい時代においても役に立つ、後世に残るような理論やコンセプトを提唱した平成の名経営書を、グロービス経営大学院教員がご紹介します。
頂点に立った瞬間、次のゲームで負ける。だからこそビジネスは面白い
イノベーションのジレンマ
推薦:荒木博行
平成の期間に多くの経営書が世の中に出ました。その多くは、効用期間が1~3年程度で終わってしまうものでしたが、中には「人間がビジネスをしている限り永遠に」という時代を超えて使えるお化け書籍もありました。その代表格が本書です。この書籍の内容をシンプルに言えば、「既存のルールで勝ち抜いたチャンピオンは、新しいルールでは勝つことができない。なぜならば、既存のルールと新しいルールで求められる能力が大きく異なるからだ」ということ。みんな「頂点に立ちたい」と思って頑張るけど、このセオリーに従うならば、「頂点に立った瞬間に次のゲームでの敗退が決まる」ということでもあります。この「勝ったら負け」というのが、このタイトルにもある「ジレンマ」の本質なんです。もちろん、「うちは例外。このルールでも勝って、次のルールでも勝つ!」と言って頑張るものの、やっぱり高い確率で負けてしまいます。この本にはその「例外的だと思って頑張って敗れ去っていった企業の姿」がしっかり描かれています。ビジネスって難しい。でもだからこそ楽しい。そう感じさせる平成の名著です。
世界に影響を与えた日本的経営のコンセプトを知る
経営戦略の論理
推薦:金子浩明
本書は1980年にアメリカで「Mobilizing Invisible Assets」として出版され、世界の経営理論に影響を与えました。そのユニークな点は、企業が成長・発展していく上で、情報的経営資源(見えざる資産=Invisible Assets)を重視したことです。見えざる資産とは、技術やノウハウなどの知識資産、デザインやブランド力、これらを活用する組織体制など指します。これらは企業特殊的な経営資源であり、市場で外部から調達することが難しい。伊丹は、戦後の日本から世界を代表する企業が続々と誕生できたのは、「オーバーエクステンション」(自社の能力を超えたチャレンジ)戦略によって従業員が学習し、内部に独自の「見えざる資産」を蓄積してきたからだと論じました。そこには、経営資源を市場から調達しやすい米国企業とは異なる経営の姿がありました。伊丹の理論は資源重視・学習重視の戦略論の先駆であり、今や古典的な位置づけとなっています。しかし、その理論は現代でも全く色あせていません。出版から30年以上経っていますが、内容は改定(第4版)を通じて進化しており、扱っている事例も刷新されています。まさに、令和時代も読み続けたい1冊。
大ベストセラー本の真意、ちゃんと理解していますか?
[新版]ブルー・オーシャン戦略
推薦:垣岡淳
「失われた30年」とも評される平成の時代、本書を手に取った諸兄姉も多いのではないでしょうか。競合だらけの「レッド・オーシャン」を抜け出し、競争のない「ブルー・オーシャン」を創造すべき、というメッセージは破壊力十分。日本のみならず、世界43ヵ国350万部のベストセラーです。結果、「ブルー・オーシャン(&レッド・オーシャン)」はビジネス用語として広く定着しました。ただ知名度の割に、言葉だけが一人歩きしている印象は拭えません。「ブルー・オーシャン戦略って何ですか?」との問いに、上記メッセージ以上の説明ができますか?「単に競争がない市場を選ぶべし」といった表面的な理解で留まっている貴女&貴男にこそ、手に取っていただきたい1冊です。平成の積読の山から引っ張り出し、令和の時代、今度こそ新たな世界を創造しようではありませんか!
論理的で説得力の高い文章を書けますか?
[新版]考える技術・書く技術
推薦:嶋田毅
原著の初版は昭和時代に書かれたものですが、本書が初めて翻訳書として日本に紹介されたのは平成7年(1995年)のことでした。私も少しばかりですが、当時監修に関与しました。内容は、元マッキンゼーのコンサルタントで同社内でも文書作成のトレーニングなどを担当していた著者が、論理的で説得力の高い文書の構造として世界標準になった「ピラミッド・ストラクチャー」について、その作成方法を解説したものです。英語の原著は価格が高いこともあり、当時数千部程度の売上げだったそうですが、日本では発売からすぐに数万部売れるほどのベストセラーになり、著者を驚かせたという逸話もあります。日本に論理思考や論理構成の大切さ、そしてその実践方法を広めたという意味でエポックメイキングな1冊と言えるでしょう。
経済合理性では説明できない行動を説明する論理的アプローチとは?
セイラー教授の行動経済学入門
推薦:星野優
「サイコロを振って、偶数の目が出れば100万円もらえる、奇数の目が出れば100万円支払う」というゲームに、あなたは参加しますか?目が出る確率は同じなので、合理的な判断は「参加してもしなくても良い」はずですが、多くの人は「割に合わない気がするので、止めておこう」と考えます。金額が大きくなればなおさらでしょう。この様に、人間の行動や心理は経済合理性だけでは説明できないものも多く、本書はその様な例外を引き起こす原因に鋭くメスを入れた上で、「行動経済学」という新しい理論体系を提唱しています。「行動経済学」は伝統的な経済学を否定するものではなく、心理学と融合した画期的なアプローチであり、著者はその研究功績が認められて2017年にノーベル経済学賞を受賞しました。原著のタイトルは『Winner’s Curse(勝者の呪い)』。ぜひ手に取って、その意味するところを考えてみてください。