デジタルで価値提供の方法を変え、価値を増大させよ

今年9月発売の『一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略』から「価値提供モデルを再構築する」を紹介します。

デジタル技術を使ったビジネスモデルの再構築にはいくつかのパターンがあります。(1)業界のあり方を改革する、(2)製品やサービスを置き変える、(3)新しいビジネスモデルを創る、(4)価値提供モデルを再構築する、(5)バリュー・プロポジションを変える、などです。その中でも多用されているのは価値提供の方法を変えるやり方です。既存のパートナーとの関係も最適化しつつ、より費用対効果の高い価値提供の方法を模索することが求められます。これが実現できれば、トータルとしての提供価値も増大し、自社に対する顧客ロイヤルティやスイッチング・コストが劇的に高まるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

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価値提供モデルを再構築する

ビジネスモデルの改革では、実際にはこれまでに述べた業界のあり方の変更や、製品やサービスの代替、新しいデジタルビジネスの創造よりも、価値をどう届けるかに関するモデルを再構築することのほうが多いだろう。技術を使って、製品やサービス、情報のすべてをこれまでとは異なる形でつなぐことで、顧客や競争優位をしっかりと維持することができる。これがうまくできれば、スイッチング・コストを高められるし、顧客が自社を選ぶ動機にもなる。

企業の多くは、仲介業者を間にはさんだ流通モデルという、長年機能してきたモデルを壊すことなく、顧客との関係を結び直したいと考えている。このジレンマを、従来型の多くのB2B企業が打開したいと思っている。そのためには、これまでの垂直統合型のモデルを再考する必要がある。

保険会社を例に見てみよう。保険会社のビジネスモデルは、代理店を通して商品を最終消費者に届けるというものだ。だが、代理店を通すことを好まない人が増えたら、どうすればよいだろうか。あるいは、最終消費者との接点がなくなって、消費者のニーズを細かく把握できなくなったらどうすればよいだろう。そのようなときには、新しいビジネスモデルが必要になる。

自動車メーカーはほとんどがB2B企業だ。車を製造し、販売代理店に卸す。最終顧客に販売するのは代理店の役目だ。自動車メーカーは、製品の販売に関しては代理店に完全に依存している。すると、そのぶんの費用がかかるうえに、代理店の管理がうまくいかない場合もありうる。加えて、顧客と直接的な関係があるのは代理店で、自動車メーカーには最終顧客と接する機会はほとんどない。

スウェーデンの自動車メーカー、ボルボは、この従来型のモデルをどうにかしようと決めた。 2012年、同社は世界100カ国にある233の代理店から成るネットワークを持ち、販売とアフターサービスはすべて代理店が行っていた。販売プロセスは代理店が管理していたので、顧客について知っていたのは各地の代理店だった。ボルボは従来型の市場調査は実施していたが、最終顧客についてはほとんど情報を持っておらず、顧客から直接情報を得たこともなかった。

競争は激化していた。需要の質も変わりつつあった。自動車はもはや単なる製品ではなく、移動のためのソリューションとして販売されており、顧客体験の性質も変わっていた。最新のITやコミュニケーション技術を満載したコネクテッド・カー【訳注:インターネットへの常時接続機能を具備した自動車】は、より効率的かつ安全で、環境への影響も少ない交通手段となることが期待されていた。

では、ボルボはどうやって、販売代理店との関係を壊すことなく、最終顧客と直接の関係をつくったのだろうか。同社は、ビジネスモデルをB2B型からB2B2C型へと大きく転換することにしたのだ。つまり、ボルボが一部のサービスを直接、最終消費者に提供するのである。提供するサービスは、販売代理店とは競合しないものとした。このサービスによってボルボの車の魅力はいっそう高まり、販売代理店にもメリットをもたらすことになった。このB2B2Cモデルへと進化するにあたり、同社はモバイルやソーシャルメディア、アナリティクス、組み込み機器といったデジタル技術を拠り所にした。

まず、顧客との結び付きを強めるため、同社は自社のウェブサイトだけでなくフェイスブックやツイッター、ユーチューブといったソーシャルメディアのプラットフォームを積極的に活用した。ソーシャルメディアで顧客と交流する目的は車を売ることではなく、代理店と争うことでもなかった。既存の顧客との距離を縮め、双方向の対話ができるようにし、信頼を築き、ロイヤルティを高めることが目的だった。

ボルボが取り組んだのはそれだけではなかった。車にプッシュ・トゥ・トーク【訳注:ボタンを押すと、その間マイクを使って通話ができる】機能を搭載したいというニーズに対応して、ボルボはコネクテッド・カーのコンセプトを発展させている。同社の緊急時対応サービス、ボルボ・オン・コールは、各地のコールセンターが提供するサービスで、全世界的な枠組みの下で運営されている。新型のボルボ車の利用者は、ボタンを押すことでコールセンターのオペレーターと直接話ができる。コールセンターは、GPS機能を使って最寄りの販売店を探したり、レッカー車を手配したり、警察に連絡するといったサービスを行う。加えて、ボルボ・オン・コールは、事故の際に自動で通知をコールセンターに送ることもできる。ボルボ・オン・コールは携帯アプリでも利用できるので、GPSやGSM (モバイル通信用のグローバルシステム)技術が搭載されていない旧型の車のオーナーにもサービスを販売できる。新型車の場合、サービスは車の購入後の数年間は当初から含まれており、その後は有料で更新可能となっている。

もちろん、こうしたサービスを実施したのはボルボが初めてではない。先駆けとなったのは米国のオンスターで、他の企業はそれに追随した格好だ。ボルボが行ったのは、プッシュ・トゥ・トークの必要性を根拠に、代理店や顧客に対する価値提供モデルを再構築するということだった。こうすることで、ボルボは代理店から強い抵抗を受けることなく、顧客に近づくことができたのである。代理店側にすれば、コールセンターがあれば販売に有利ではあるものの、単独で持つには費用がかかりすぎる。ボルボの側でコールセンターを管理してもらえれば、自前でやる必要がなくなるので喜ばしいというわけだ。ボルボは、コネクテッド・カーとしての機能を車両全体に装備すると、新たなデジタルサービスをスタートさせた。盗難時の追跡サービスやドアロックのコントロール、暖房始動、リモート・ダッシュボード【訳注:携帯アプリでメーターパネルの情報が確認できる】、車両の位置特定などだ。

ボルボは代理店を飛び越すどころか、新しく生まれた顧客との接点を活かし、代理店に情報やサービスを提供している。同社は、集中管理の顧客データベースを構築して、グローバルなCRM(顧客関係管理)のソリューションを導人した。今では、既存の販売代理店からの情報と、車両から絶え間なく送られてくる情報とを統合している。新たな解析能力によって、ボルボはワントゥワン・マーケティングに近づくことができ、一方で顧客情報を販売代理店に提供できるようにもなっている。

さらに新しいサービスにも着手した。その1つがメンテナンス・リマインダーで、これは代理店のサービススケジュールにいつ空きがあるかを知らせるものだ。こうして、デジタル技術によって双方に利益のあるビジネスモデルが実現されたのだ。

(本項担当翻訳者:牛田亜紀 グロービス・グローバルエデュケーション部門コンサルタント、ファカルティ部門研究員)

『一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略』
ジョージ・ウェスターマン、ディディエ・ボネ、アンドリュー・マカフィー (著)、グロービス (翻訳)、
ダイヤモンド社、3,024円

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