本書は、日本における2大戦略コンサルティングファームであるマッキンゼーとボストン コンサルティング グループ(以下BCG)の両社で要職を務めたという稀有な経歴を持ち、新しい時代の経営のあり方に関する論客の1人でもある名和高司氏の最新刊である。個人的に、新刊が出たら必ず買う著者の1人である。
本書の内容は大きく3部構成をとっている。第1部は、特に問題解決請負人としてのコンサルタントの基本技術を、書籍全体の約半分のページ数を割いて解説している。具体的には論点思考や仮説思考といった思考の方法や、定番フレームワーク(MECEやロジックツリー、PEST、3C、5Fなど)の使い方や留意点などである。
これらは、グロービスのクリティカル・シンキングや戦略系の科目などでも紹介するもので、コンサルティングに関心のある方ならば必須のスキルでもある。実際に、適切に使えば非常に「切れる刀」となる。初学者の方にはやや難易度が高いと感じられる部分もあるかもしれないが(事実、実践するのは容易ではない)、ぜひその意義や体系感などを掴んでいただきたい。すでに他の書籍等で紹介されているコンセプトも多いが、それらを既読の方は改めて頭の整理用に読まれるのもいいだろう。
「超一流コンサルタントのスゴ技」とタイトルの付いている第2部はやや難易度が上がる(「やや」というのは本を読むという上での意味で、実践するとなると「かなり」難易度は高い)。特に最初の章である第9章「大前研一の『ワープする脳』」はただただ感心するばかりで、絶対に同じレベルでは模倣できない感があるが、紹介されている逸話などは面白く、味わい深い。大手通信会社の社長をその気にさせるくだりなどは圧巻である。レベルは違えども一般の読者の方にも参考になる個所は多いだろう。
この章はやや例外だが、第2部のその他の章で紹介されているAIに負けないための「真善美」論や、要素還元ではなく全体統合に向けてシステム思考を重視するといった部分などは、並みのコンサルタントと一流を分ける分岐点でもあるわけだが、これは当然通常のビジネスパーソンにも当てはまる。ビジネスパーソンの日常も、突き詰めれば問題解決や価値創造の連続だからである。ビジネスリーダーとして一皮むけるヒントと捉えることもできるので、ぜひ何かしらのヒントを探してほしい。
第3部「コンサルを目指す コンサルを超える」は正直、やや駆け足感があり、より具体的な方法論が欲しいと思ったパートだ。この部分はおいおいより深い洞察やフレームワークなどが提唱されていくのだろうが、筆者がどのような問題意識を持っているのかを知る上では参考になる。
個人的に印象に残ったのが、名和氏が問題解決のプロセスのWHYとHOWの間の「WHY NOT YET(なぜそれがまだできていないのか)」を特に重視している点だ。当たり前のようで意外と見逃す人は多いので、読者のみなさんも身の回りの問題解決において活用されてみるといいだろう。
また、昨今のマッキンゼーと(日本の)BCGの対比も、やや内輪話的ではあるが面白い。ソリューション重視のマッキンゼーと、ややプロセス・コンサルティング寄りのBCGというのは(本当にそこまでの大差があるのかはやや疑問だが)問題解決アプローチの有効性を考えるにあたって1つのヒントになるだろう。ただ、その意味で言えば、BCG的アプローチを効果的にするティップスなどについてもより多く触れてほしかった感がある。一般のビジネスパーソンにとっては、コーチングなどによって部下に気づかせながら指導や育成を行うシーンが多く、まさにBCG的な方法論のフィット感が高そうだからである。
欲を言えば切りはないが、経営や問題解決、価値創造といったものに興味のある方は一度目を通されてみるといいだろう。
『コンサルを超える 問題解決と価値創造の全技法』
名和高司(著)、ディスカヴァー・トゥエンティワン
2,592円