本書は、インテルの元CEO、アンドリュー・グローブ氏が書き記した経営管理の必読書だ。30年以上前に書かれたものでありながら、シリコンバレーの最強投資家ベン・ホロウィッツも「世界最高の経営書」と評するように、組織マネジメントの具体的かつ実践的なアドバイスが盛りだくさんだ。
どうすればチームの成果を最大化できるか――私自身、国内外含め様々な経営管理場面に向き合ってきた中での共通課題だが、この問いにもしっかり応えてくれる。
本書では、ミドルマネジャー(役職上のマネジャーのみならず、3人以上の組織に対して監督、もしくは間接的に影響をあたえる人全般を指す)のアウトプットを上げることが、経営管理の中核をなすと結論づけられている。これは、インテル社が小さな組織から、極めて大きな組織に成長していく過程において形成された考え方であるため、説得力がある。
では、マネジャーのアウトプットとは何であろう。著者は「自分の組織のアウトプット+自分の影響力が及ぶ隣接諸組織のアウトプット」と定義している。そして、アウトプットを上げるために、自らスピードアップするだけでなく、「テコ作用」を使うことに注目している。つまり、マネジャーの時間をどう使うかの観点を提示しているのだ。
そのため、本書ではマネジャーの時間の使い方を具体的に落とし込んで見直せるようになっている。たとえば、経営哲学上の根本綱領の1つとして取り上げるほど重視している、監督者とその部下との間での1on1ミーティング。目的は相互教育と情報交換だ。時々刻々と発生する問題の処理に主眼を置きつつ、これらを通じた情報収集をもとに、上司が良い意思決定をすることになればさらに価値が高い。
この1on1ミーティングは最低1時間くらい取り、準備は部下がアウトラインを作ることを推奨(一連の課題を考えることにも意味がある)。さらに、部下が困っていることを知ってコーチし、双方が問題の根底に達したと満足感を覚えるまで質問を繰り返し、部下を励ます等々、具体的なやり方も紹介している。
1on1以外にも、プロセス中心のミーティング(スタッフミーティング、業務検討会等)や意思決定中心のミーティングのやり方、評価の仕方、ハイブリッド組織をどのように動かすかなど、いずれも詳細に記されている。
各国の境界がもはや存在せず、資本も競争相手も自分の仕事も地球上どこにでも移動でき、そこで仕事が行える。音声も写真も映像もあらゆるものがデジタルに切り替わり、世界全体に瞬く間に発送できる。今日の会社の置かれているこのような状況下で「新環境に適応するか、死ぬか」、鍵は中間管理職の情報収集と、それに基づく判断、意思決定の質とスピードにある。
中間管理職が本当の価値を付加しているのか、単に情報をあちこちへ流しているだけではないか、自分の周囲で何が起こっているかに関して情報収集を怠っていないか、新しいアイデアや技術をいつも試みているか、自らが実際に手を下しているか、著者は問いかける。
自身の時間の使い方に悩んだ方、組織の成果をどのように出すか改めて考えたい方は、本書から実践的なヒントが得られるはずだ。ぜひ手にとって読んで頂きたい。
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』
アンドリュー・グローブ (著)、小林 薫 (翻訳)、ベン・ホロウィッツ(序文)、日経BP社
1,944円