『国会で働き方改革法が成立 脱時間給や同一賃金導入』『パナソニック流働き方改革 「留職」や「複業」も』(日本経済新聞、2018年6月29日)…。新聞をめくれば「働き方」に関する記事を目にしない日はないほどだ。それらを通して喧伝されているのは、終身雇用と年功賃金の見直し、人生100年時代、自分なりに有意義にかつ経済的にも不安の無い人生を送るためには様々な備えが必要等々。
ミドル世代の筆者としては、これらの言葉を聞くと焦りを感じる。自分も既にある程度の年齢で、子どもにはまだまだお金がかかる。定年後は悠々自適の生活、なんてうまくいかないであろうことは目に見えており、とにかく何らかの形で働かざるを得ないだろう。もちろん、今は目の前の仕事で成果を出すのが一番大切だが、何かやらなくちゃ、本気で副業とやらを考えてみないとマズいのでは、と。
本書は、私のように「副業に関心を持ち始めたビジネスパーソン」という“個人”のみならず、「社員の副業解禁を考える管理者・経営者」という“企業”に向けても書かれている。ここでは、「ふくぎょう」を「副業」(Side jobs)ではなく、本業と同等に複数の仕事をするという意味の「複業」(Multiple jobs)としているのがポイントだ。個人は人生100年時代にどのようなキャリアの選択肢を持つべきか、企業は「複業」という手段により、優れた人材の確保と育成(ひいては、オープン・イノベーションのきっかけ作り)をしていくべきかという発想から考えを促している。
ちなみに、この本では副業を成功させるためのハウツーはまったく書かれていない。むしろ、副業が注目されている社会的背景から、個人・企業の双方に対して、副業(複業)が何をもたらし何が課題となっているのかを読みやすく説明しているところに価値があると感じた。特に印象に残った点を、個人、企業それぞれの視点から挙げてみよう。
まず、個人に対してだ。筆者は、副業の種類をケイパビリティ(何かを遂行することができる能力)と収入により4象限に分類した。従来言われている「副業」は、「収入はある程度期待できるが、ケイパビリティは低い仕事」であり「時給900円~9000円の仕事」とされている。
対して、「複業」は「収入も高く、ケイパビリティも高まる仕事」で「時給9000円~9万円以上(!)」とされている。副業の収入は「その仕事の代わりをできる人がいるか否か」で決まってくるというのだ。さらに複業を考えるヒントとして「will×can×environment」という枠組みも紹介されている。果たして、私の今までのキャリアから「複業」の取っ掛かりとなるようなものを探し、準備をしていけるのか。
次に企業に対してだ。筆者は、優秀な人材を獲得・育成するためには、従来の社員を「縛りつける」「囲い込む」という経営スタイルから、「自立した社員が共通の目的で集う場」としての会社に変えていく必要があると述べている。そして、企業はシステムとして成り立っているため、「マッキンゼーの7S(組織変革の要素)」との整合性をとりながら変革しないと副業は機能しないという。
単純に、自分の先行きへの焦燥感から副業を考えようとしたが、どうもそれだけではなかったようだ。筆者が示している通り、複業も方々で起こっている個人と企業を取り巻く関係性の変化のうねりの1つだ。このような時代を生きていく私たちにとって、変化を理解し複業を手に入れている未来の自分を実現しようと思わせられる1冊だ。
『マルチプル・ワーカー「複業」の時代~働き方の新たな選択肢』
山田英夫著、三笠書房
1,500円(税込1,620円)