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『リーダーシップ教育のフロンティア 実践編』――誰もがリーダーになりうる教育の最前線

投稿日:2018/07/09更新日:2020/02/27

大学生に近い世代やその親世代、あるいは企業の採用担当者であれば、近年、立教大学経営学部が受験生や企業からの評価を大きく上げていることをご存じかもしれない。その鍵となっているのは、2006年から本格的に始まった同学部のビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)にあるといっても過言ではないだろう。これは企業の協力も得つつ、4年間にわたって皆に自分自身のリーダーシップを見出し、実践してもらうプログラムである。

本書は、同学部で教鞭をとり、BLPも担当している高橋俊之氏らが中心となって、立教大学の取り組みはもちろん、大学や高校、中学校などでリーダーシップ教育がどのように進化しているのかを、実践例の紹介などを交え記したものである。ちなみに高橋氏は筆者のグロービスの元同僚であり、本格的に大学院化する以前のスクール部門の責任者を務めたこともある。また、独自の視点を持つ希少性の高いリーダーであり、グロービスの人気科目でもある「クリティカル・シンキング」のカリキュラム開発にも大きく寄与された。

さて、リーダーシップというと「皆が学び、身に着けうるスキル、行動様式」ということが経営学者の間では常識であるが、それを知る人はまだ多くはないのが現状である。ましてや、多くの教育現場ではリーダーシップの必要性に対する理解度も低く(ひどい場合には道徳教育同様のアレルギーすらある)、また、昔ながらの「生得の資質」といった誤解がまだまだ蔓延している。

考えてみればこれは怖いことである。日本では、かねてより「知識」の詰め込み型教育が主流であり、社会に出たときにより実践的に役に立つ論理思考やリーダーシップの教育が小学校から大学に至るまでないがしろにされてきたとの指摘がある。

筆者自身の経験を振り返っても、大学院までの20年近い教育の中で、リーダーシップを取れと言われた記憶はほとんどない(運動部の主将などを務めたことがないからかもしれないが)。組織や社会全体の生産性がリーダーの量と質によって左右されることを考えれば、これは看過できない事態といえよう。グロービスでも社会人相手にリーダーシップ教育を行っているが、「鉄は熱いうちに打て」という言葉通り、社会人になってから慌ててリーダーシップ教育を始めても、効果は限定的なものになってしまう可能性が高いのだ。

しかし、一部ではあるが、そうした従来型の教育から脱却し、リーダーシップを開発しようとする試みが私立・公立問わず、さまざまな教育現場でも生まれつつある。それを取り上げたのが本書だ。

ちなみに筆者が本書で紹介されているものの中で面白いと思った事例や発見をいくつか紹介しよう。

都立駒場高校の家庭科の授業

家庭科という授業は一見、全くリーダーシップと関係がないように思える。しかし、見方を変えれば、詰め込み型の科目ではない分、主体性を発揮させやすく、「自分の得意な分野でチームに貢献することができる」という体験を積みやすい科目でもあるのだ。「目標設定」→「ワーク」→「振り返り」という、スキル習得、態度変容のプロセスを当然のように取り入れているのも非常に興味深い。

効果的な動機づけの方法に「カッコいい」を取り入れる

動機づけのわかりやすい例は、それをマスターしたらすぐに役に立つという利益実感である。グロービスでクリティカル・シンキングが人気なのも、明日からすぐ役に立つイメージが湧きやすいという利益実感による部分が大である。

最近の若者にとってそれと並んで大きな動機づけになるのはカッコ良さだという。「あのリーダーシップを発揮しているスチューデント・アシスタントの先輩、カッコいいなあ」といった思いが学生を学習に向かわせるという。「カッコいいで動くなんて」という向きもあるかもしれないが、昔から「憧れ」は大きな動機の1つである。時代に合わせ、それをより身近にしていく工夫とも言えるだろう。何事も提供側の視点ではなく、受け手側の視点で考える必要があるのだ。

見方を変えてもらい、量以上に方向性を評価する

若い人間が最初からすべてにおいて成功を収められるはずはない。それよりも「失敗からの学びを活かせばいい」と考えたり、「1人で抱え込んで行き詰るよりは、他人の力を借りればいい」などと意識を変えてもらうことが特に若いうちは重要である。そのような方向に向かっているならば、それを後押しすることがリーダーシップの開花につながるというのは、当たり前のことのようでいて、なかなか実現できないことであろう。

本書は教育現場のことを中心に書かれているが、これは当然ビジネスにも応用可能であり、実際にすぐにでも使えるノウハウやティップスが満載である。論理思考がいかにリーダーシップやその育成にも必要かを理解できるだけでも収穫は大きい。また、子育て中の方であれば、子どもの教育にも大いに役に立つはずだ。「子育ては自分育て」という言葉の通り、自身の能力開発にも必ずつながるだろう。

リーダーシップは日本人が弱いと言われている部分だからこそ、こうした知見は大いに参考にしたいものである。

リーダーシップ教育のフロンティア 実践編
高橋俊之、舘野泰一編著、中原淳監修
2,200円(税込2,376円)

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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