『社内を動かす力』から「抵抗勢力を弱体化する」を紹介します。
変革論の大家であるJ.P.コッター教授は、抵抗(勢力)克服の手段として、ソフトなものからハードなものの順に、「教育とコミュニケーション」「参加促進」「手助け」「交渉と合意」「策略と懐柔」「有形無形の強制」の6つを挙げました。これらを適切に使い分けていくことで抵抗を乗り切ることができるというものです。ポイントは、これらを闇雲に使うのではなく、相手の状態を適切に知り、それに合わせた施策を用いるということです。抵抗勢力の存在は必ずしも悪というわけではありません。それを克服する過程で新しい方法論が生まれたり、社内の融和が進むという側面もあります。自分のやり方を独善的に押し付けるのではなく、相手の視点に立ってWin-Winとなるやり方を粘り強く考えることが必要です。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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抵抗勢力を弱体化する
残念ながら、どんな組織、どんな仕事にも抵抗勢力は存在します。しかし、しっかり観察して適切な対応を取ることで、抵抗勢力を弱めることは可能です。
ステークホルダーを分析し、理解することの重要性は、いくら強調しても強調しすぎることはないですが、とりわけ抵抗する人々については、その影響度、抵抗度、抵抗の仕方などを「継続的に」知る必要があります。
そもそも「やろうとしていること」に対して抵抗しているのか、それとも「やり方・進め方」が気に食わないのか、何に抵抗しているかによって、自ずと対処方法も異なってきます。やり方に反対している場合などは、一段上の目的レベルの議論をすることで、Win-Winの解決方法を見出せる場合も少なくありません。一つ例を挙げましよう。
あるファミリーレストランで、企画部主導で接客マニュアルの改訂を進めようとして、賛成派と反対派に割れてしまったとします。こうした場合、マニュアルのどの部分を改変するかといった各論を話し合っても、議論は紛糾するばかりです。
むしろ、そもそもどのような接客が望ましいのか、どのような能力を従業員につけさせたいのか、マニュアル改訂のそもそもの目的は何なのかを話し合うことで、たとえばマニュアルの改訂ではなく、まったく別の打ち手が浮かび上がるなどして、本質的な問題解決を図ることができたりします。
ちなみに、最も扱いにくいのは面従腹背のタイプ、口では「わかりました」と言いつつ、実際には何もしない人々です。この種の存在は早めにあぶり出し、手を打ちましよう。実際に活動したかどうかをまめに報告させる、自ら率先して動かなければならないポジションにつけてしまうなどして、動かざるを得ないように仕向けるのです。こうした対応は、もっとあからさまな抵抗勢力ヘの対応策としても有効に機能します。
また、一般になぜ人は抵抗するかと言うと、それが自分にとって大切なこと、関係が深いことだからなのです。だからこそ、真剣に考え、反対するというわけです。どうでもよいことに、いちいち反対の声は上げません。
つまり、反対勢力は一概に悪ではないのです。先入観を持たず、いったんは虚心坦懐に耳を傾けてみましょう。ある意味、推進側と同じぐらい真剣に考えているわけですから、そこから何らかのヒントや知見を得られることも十分にあり得ます。
いずれにせよ、反対勢力に一気に攻め込んでもうまくいきません。粘り強い対応の積み重ねが求められます。
最後に、反対勢力との付き合い方について紹介します。具体的には、図のようなアプローチが考えられます。
(本項担当執筆者:田久保善彦 グロービス経営大学院研究科長)
『社内を動かす力』
田久保善彦(著)、ダイヤモンド社
1620円