「おっさんずラブ」が低視聴率でもブームになった理由 

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「おっさんずラブ」というドラマが話題になっている。全7話の平均視聴率は約4%で、失敗作と言われる数字(テレビ朝日の早河会長)である。にもかかわらず、「おっさんずラブロス」に出る人が出るなど、その熱は冷めやらない。放送終了後の見逃し配信は121.2万回を突破(テレビ朝日史上最高記録)。地上波放送終了3日後に発売されたLINEのスタンプは1位を獲得し、公式インスタグラムのフォロワー数(51万)も伸び続けている。なぜ今、おっさん同士のオフィスラブを描いたドラマがブームになったのか、そして誰がブームをけん引しているのか。

過去の恋愛ドラマとの比較

このドラマは、主人公の春田創一(33歳、女好きだがモテない)と、営業部長の黒澤武蔵(55歳、頼りがいある上司だが、恋をすると乙女チックに変わる。妻がいる)、後輩の牧凌太(25歳、一見ドSだが繊細、エリートでイケメン)の三角関係を軸に展開する。あくまで純愛ドラマであり、過激なシーンなどはない。これまでにない斬新な設定であり、韓国や香港、台湾でも話題になった。

おっさんずラブロス

主人公を女性にしたら、渋くて献身的(乙女チック)な上司と、ドSでイケメンの後輩に迫られる、モテない30代女子という構図になる。この型を踏襲している少女漫画とそれを原作としたドラマは多い。

近年のヒット作品では、綾瀬はるか主演のドラマ「ホタルノヒカリ」(2007年)がよく似ている。主人公は25歳の女性で、仕事はできるが恋愛から遠ざかっており、家に帰るとオッサンのような生活をしている(このドラマをきっかけに、「干物女」という言葉が流行した)。あるきっかけで、イケメン上司の部長(40代)と同居生活することになり、互いに恋愛感情を持つようになる。そこにロンドンから帰国した男性若手社員(デザイナー)加わり、オフィスラブで三角関係になる。同じく綾瀬はるかが主演した「今日は会社休みます」(2014年)もオフィスラブを絡めた三角関係を扱っている。

このタイプのドラマは、「純愛」「三角関係(年上と年下)」「モテない主人公(女子)」の3つが揃っている。まさにおっさんずラブと同じだ。そう分析して、私はひとりで納得していた。主人公がおっさんであるということを除いては。しかし、なんで主人公がおっさんなのか?

コアなファンは「おっさんずラブ」の何にハマったのか?

その疑問が拭い去れなかった私は、ここまでの考察をおっさんずラブのコアなファン(大企業で働くキャリアウーマン)に読んでもらうことにした。その結果、「それもわかるが、自分がハマっている理由はそれじゃない」という指摘を受けた。彼女曰く「優しくて不器用な友達を応援する気持ちで見ていた」「応援していたのは牧(後輩)と春田(主人公)だけ。部長は正直キモいと思っていた」という。

ここで私は自分が見落としていた点に気づいた。牧と春田の関係は「牧春(まきはる)」と呼ばれ、「OL民(おっさんずラブの熱いファン)」の多くは、牧春にハマっていたのだ。つまり、OL民たちは渋い上司と若いイケメンに迫られるという三角関係を楽しんでいたのではなく、牧に心情移入していたのだ。そこで、牧を中心に人間関係を整理してみた。

おっさんずラブ

恋愛関係に絡む男性はすべて社内であり、女性はすべて社外である。また、黒沢部長と春田は異性愛者であり、牧だけが同性愛者である。あくまで黒沢部長が好きなのは男性ではなく(ゆえに妻がいる)例外的に春田に恋しているだけであり、春田も女好き(ゆえに女性がアプローチしてくる)という設定である。

牧の視点からこの関係を整理すると、このドラマのテーマが「叶わぬ恋」であることが分かる。牧は次のような困難に直面する。

・春田は基本的に異性愛者であり、それは牧との出会った後も変わらない
・春田を巡って、黒沢部長という強力なライバルがいる
・春田の幼馴染の女性ちず(27歳)も春田に恋心を抱くようになる
・春田の母は牧をただの友達だと信じており、牧に対して「息子はちずと結婚してほしい」「私も早く孫の顔を見たい」「あなたはずっと息子の友達でいてね」と言う。

一見三角関係に見えるドラマだが、牧にとっての困難は黒沢部長の存在ではない。むしろ部長の存在があったから、牧は春田に自分の思いをぶつけることができたと言える。もし部長がいなかったら、彼は春田への思いを秘めたままだっただろう。なぜなら、彼の春田への恋は一貫して抑制的だからだ。彼の恋は春田が幸せになることだけを望んでおり、同居人として一緒に居られること以上の贅沢を望まなかった。黒澤部長が春田に強く迫ったから、牧のリミッターが外れたのだ(牧が春田に思いを告げるときは、たいてい黒澤部長が春田に強く迫った後)。このように、黒沢部長は「牧春」を成立させるための触媒になっている。

牧にとって春田との恋の最大の困難は、牧が女性になれないことであり、もっと言えば春田の子供を産めないことである。自分のせいで、春田とちずが結婚するチャンスを潰したらどうなるだろうか。春田の母はきっと悲しむだろう。それは、最も愛する人である春田を苦しめることになる。こうして、牧は春田から身を引くことを決意する。

しかし、牧が身を引いた後、黒澤部長と春田が同棲して結婚を決めてしまう。ここで春田は牧への思いに気づく。もし、春田が部長ではなくちずと一緒になっていたら、「牧春」は終わっていただろう。しかし、春田はちずと一緒にならず、部長と同居することになった。ここでも黒澤部長は「牧春」を成立させるための触媒になっている。つまりこのドラマはおっさん同士の三角関係というよりも、牧の立場で春田に対する「叶わぬ恋」を描いた純愛ドラマなのだ。

さて、叶わぬ恋を主題としたドラマは、古今東西数多く存在する。その障壁は、身分差があったり(タイタニック)、両家の仲が悪かったり(ロミオとジュリエット)、片方が記憶喪失だったり(冬のソナタ)さまざまである。そして男女の設定の方が断然多い。

なぜ、現代の日本で男性同士のオフィスラブのドラマがウケたのか。いったい誰がブームをけん引しているのだろうか。

ブームをけん引しているのは誰か?

「牧春」にハマっているのは、どのような人だろうか。

それは、33歳の結婚適齢期の男性(春田)との叶わぬ恋に、感情移入できる人である。基本的には女性だろう。それも、30代後半~50代前半の独身女性(以降、「オトナ女子」と表現する)が多いと思われる。その理由は、この層の女性が春田に恋をした場合、牧と同じジレンマを抱えるからである。そのジレンマとは、自らの出産可能性が低下していくことと、若い女性の競合の存在である。春田に恋する女性ちず(27歳)と違い、オトナ女子は春田の母の期待に応えられないかもしれない。これは牧と近い状況である。どれだけ尽くしても、自分は報われないかもしれない。むしろ、本当に相手を愛するならば、相手が幸せになる道を邪魔してはいけない(と自分を抑制する)。そういう牧の悲しさと、それに鈍感な春田の組み合わせという「牧春」は、オトナ女子の心を激しく揺さぶる。彼女たちにとって、牧の決断は他人事ではない。そこに深い共感が生まれる。

このドラマのメインキャストには、独身のオトナ女子が2人だけ登場する。黒澤部長の妻の蝶子(50歳)と、春田と牧の同僚の瀬川舞香(45歳)である。この2人はドラマの中心人物ではないが、40~50代の独身女性の「OL民(おっさんずラブのコアなファン)」にとって重要な意味を持つ。

蝶子は第4話で黒澤部長と離婚して独身になる。彼女のポジションは、黒沢部長の妻でありながら彼の恋を応援するという、奇妙な立場である。彼女のキャラクターが奇妙なのは、彼女は「オトナ女子が牧を応援しやすくするため必要な人物」だからである。それはどういう意味か。蝶子は部長側の応援団であり、恋愛参謀でもある。部長にとって、心強い存在だ。では、牧の応援団には誰がいるのか。そう、誰もいない。これでは牧がかわいそうではないか。だからこそ、私が応援してあげなければ・・・という構図になる。もし黒沢のバックに蝶子がいなければ、牧を一方的に応援することができない。なぜなら、部長も牧と同じようにかわいそうだからだ。

おっさんずラブ

図のように、蝶子に対置される「空白の部分」にOL民が入るポジションがある。蝶子と間接的にライバルになるポジションだ。牧は年齢も若いから、オトナ女子としても応援しやすい。このように、「牧春」にハマるオトナ女子たちは、牧の境遇に深く共感しつつ、自分自身を牧に重ねてはいない。あくまで、牧を応援する立場にいる。

もう一人のオトナ女子である瀬川舞香(45歳)は、「OL民のオトナ女子ありかた」を示している。彼女は(公式HPによると)次のようなキャラクターである。「噂好きで何かと事件にしたがる、おしゃべりおばちゃん。ときどき勘が鋭く、みんなの何歩先を予測したような言動が光る。(中略)恋に悩む春田たちに、『好きになっちゃいけない人なんて、いないんじゃないかしら』となど思わぬ助言を与えることも」。彼女が言うように、オフィス内でボーイズラブがあってもいいし、ついつい先を予想したくなるし、仲間と感想を共有したくなる(SNSなどで)のだ・・・。

おっさんずラブ

このように、おっさんずラブは独身のオトナ女子がハマる要素にあふれている。

それに加えて、この層の人口が一昔前に比べて激増していることもブームとなった大きな要因である。国勢調査(2015年)によると、40代女性の未婚率は1990年の5.2%から2015年には17.2%に増えた。40代には団塊ジュニアが含まれるので、人数も多い。40代女性の未婚人口は約913万人中の17.2%で約160万人になる。結婚経験のある独身者を加えると、約250万人(同年代女性人口の3割弱)になる。この250万人に30代の独身女子(35~39歳の生涯未婚率は23.1%)と50~55歳の独身女子(50歳時点の生涯未婚率は14.9%)も加えたら、その数はさらに増える。

このように、おっさんずラブは日本で激増した独身のオトナ女子の心を掴んだことで、ブームとなったのだ。

視聴手段の変化も追い風に

ここまで見てきたように、おっさんずラブは幅広い層をターゲットにしたドラマではなく、独身のオトナ女子にターゲットを絞り込んでいる。だから、視聴率は4%と低調であった。しかし、ネットによる動画配信やインスタグラムで人気が拡大し、じわじわとファンを広げてブームとなった。こうした視聴手段の変化も、ヒットの要因である。

ネット配信とインスタグラムを視る手段は、テレビではない。スマホやタブレットである。当然、テレビとは視聴シーンも異なる。テレビドラマは「居間で」「誰かと」「毎週決められた時間に」視聴することが多い。一方、スマホやタブレットで観る動画は、「ひとりで」「シーンを選ばず(通勤途中など)」に視聴する。また、SNSの普及によって、良い作品であればSNSの口コミを通じてじわじわとファンを拡大させることが可能になった。このように、動画配信サービスの普及、スマホ・タブレットの普及、SNSの普及によって、ターゲットをかなり絞り込んだ作品でもヒットさせることが可能になった。今後、こういうタイプのドラマは増えるかもしれない。

テレビ局にとって、動画配信のライバルは既存のテレビ局よりはむしろ、NETFLIX、Hulu、Amazonプライムビデオなどである。これらの企業は資金力が豊富で、質の高いドラマを多数送り出している。日本のテレビ局はこれらの外資企業に比べたら資金力で及ばない。しかし、これまで培ったドラマ作りのノウハウや、日本人の好みを熟知している強みがある。おっさんずラブのようにターゲットを絞り込んだコンテンツであれば、海外ドラマと十分に戦えるのではないか。

私はおっさんなので、残念ながらおっさんずラブのターゲットではない。ぜひ、日本の40代の働くおっさんにターゲットを絞った、ユニークで斬新なテレビドラマの登場を期待したい。

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