テクノロジーの進化の影響が、さまざまな領域においてこれほど急激に、かつ切迫感を持って感じられる時代もまたとないのではなかろうか。『断絶の時代』(ドラッカー、1969年)や『不確実性の時代』(ガルブレイス、1978年)などと呼ばれた20世紀後半から、はや半世紀も経とうとしているが、時代の変革の波はいっこうに収まる気配はなく、むしろ激動の度合を増している感がある。
そして、このような現代のビジネスをリードしているのは、ことごとくITに強みを持つ企業である。頭文字をとってGAFAと称される、グーグル、アップル、
こうした状況を見るにつけ、ITを中心としたテクノロジーの進化についていかなければ、これからのビジネスにおいて成果を残せない、時代遅れになってしまう、そんな危機感を抱いている人は多いと思われる。見方を変えれば、新たなテクノロジーの進化を機会として捉えることで、自分自身にも社会にも大きな創造と変革をもたらすことができるという、希望に満ちた時代だとも言える。
グロービス経営大学院では、こうした時代環境を捉えて2016年から「テクノベート」という名のもとに多くの新科目を開講し、最先端のテクノロジーを理解してビジネスにイノベーションを生み出すリーダーの育成を図ってきている。「テクノベート」とは、テクノロジーとイノベートを組み合わせた造語である。
本書は、そうした「テクノベート」科目群に関連した経営知やスキルのエッセンスを、グロービス経営大学院の7名の講師陣が分担して書き下ろしたものである。
特に、第1章の「コンピュータ+データの基本スキル」をお勧めしたい。コンピュータを用いた問題解決の考え方は、従来の「人間が考える問題解決」とどう違うのか、しばしば聞かれる「プログラミングの知識」とはどのようなものでどうビジネスに役立つのか、「データ」とは扱い方次第でどれほどのインパクトをもたらすのか、ビッグデータやAI、VRなど最近よく聞く言葉の意味合い等々について、専門的になり過ぎず、事例を豊富に紹介しながらコンパクトに解説されている。
これまで仕事としてのITにはそれほど縁がなく、漠然と「テクノロジーが現実のビジネスに影響を及ぼすとは、こういう感じかな」と考えてきたような人にとって、具体的な実態とそこから得られる示唆とが俄然くっきりとした像となってあらわれ、「なるほど、こういうことだったのか」と驚かされること請け合いだ。
もちろん、第2章の「戦略・マーケティングの基本スキル」、第3章の「リーダーシップ・組織の基本スキル」も、これまでMBAで学んできた基礎的部分が「テクノベート」時代にどのように更新されていくか(たとえば第2章ではプラットフォーム型ビジネスやデータ・ドリブン・マーケティング、第3章では変化創出のためのリーダーシップやデジタルネイティブ時代の信頼の作り方など)をうかがわせ、最新動向をキャッチアップしつつ更に学習意欲を喚起させるものになっている。
新時代のテクノロジーを使いこなしてビジネスシーンで活躍したいと志す、すべてのリーダー候補の方々にとって必読の1冊である。ぜひ手にとっていただきたい。
『ビジネススクールで教えている武器としてのITスキル』
グロービス経営大学院(著)
東洋経済新報社 1,620円