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【未来の年表・河合雅司氏】少子・高齢化が日本の社会に与える影響とは

投稿日:2018/05/01更新日:2019/04/09

ビジネス書グランプリ2018」の総合部門で第10位を受賞し、すでに46万部を超えるベストセラーとなっている『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』。続編『未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること 』も近日発売予定です。著者の河合雅司氏に、人口減少がもたらす未来や、ビジネスパーソンとして意識しておくべきことについて伺いました。聞き手はグロービス経営大学院 教員の金子浩明です。(全2回)

高齢者の「率」ではなく「数」が増える問題にどう対応するか

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金子:先生が著書で指摘されていたことで認識が深まったことは、“少子高齢化”と“高齢化”は別の問題という点でした。つまり、少子化が起こっていなくても、それとは関係なく高齢者は増えていく。高齢者の老病死に対する現在の人や設備が、高齢者の増加、つまり高齢化「率」でなく「数」が増える問題に対応しきれていない。

河合:そうなんです。すごく簡単に言うと、仮に少子化が止まって子供がたくさん生まれる状況になっても、高齢者の数が減るわけじゃない。そこをごっちゃに語ってしまう方は政府にもいて、政策がかみ合わなくなる要因になっています。

2040年頃に高齢者「数」がピークを迎えて、そのあとは高齢者も減るし、若い人はもっと減る。ただ、高齢者「率」のほうは40%弱のままという政府の推計になっているんですね。2060年になっても2070年になっても。だから、「率」だけを見て高齢者施設などを用意し過ぎてしまうと、今度はインフラが余ってしまう。また、若い人は減っていくので、その維持費を出せないという話にもなります。しかも、総人口が減っていくスピードより働き手世代の減っていくスピードのほうが早いので、なおさら維持ができない。

金子:人が減ることによって学校や家も余ることになります。著書には地方銀行や救急病院、映画館やハンバーガーショップの存続80%~50%ラインの人口が示されていました。すでに地方では人口減少によってこうした施設が余っていますが、一方で国全体でみると老人向けのインフラなどは足りなくなると。

河合:そこで一番大きな問題になるのは、国や自治体の借金です。少なくとも2040年代までは高齢者の数が増えていくわけで、今のインフラやサービスが足りないということで、とりあえず借り入れしてでも応急的につくらなきゃいけない時期がしばらく続きます。

ただ、その場合は「その借金をどれだけの年数で誰が返すのか」という議論も、本当は同時にしなければいけない。実際、そのあとは若い人が減り続けていくので、返済計画はかなり苦しいものとなる。これは自治体が破綻する典型的なパターンです。

企業も同じです。減価償却を含めていろいろな財政計画を何十年単位で考えますよね。たとえば本社ビルの建て替えなど。では、それをまかないきれるだけの売上高、あるいは日本のマーケットが維持されるのか。これは、今の経営者には責任が取れない話です。そこまでひとりの経営者が長くは経営できないので。

社会全体で再生産がなされていた頃は、あまり意識しなくても次の時代の経営者、あるいは次の時代の政治家や官僚が同じような条件でつなげていくことができました。でも、これから先は違います。今の世代と次の世代で与えられる状況が違ってくるにも関わらず、計画は長期で考えなければいけない。ここに大きな問題点あります。

金子:いずれ不要になることが分かっていながら、高齢者の増加やインフラの老朽化に対応するために、今はそこに投資をせざるを得ないということですね。

河合:なので「まずは、すでにあるものをうまく使うことから考えましょう」と、私は言っています。偏在という問題もあり、余ってるところがある一方で、足りないところも出てきています。すでに地方の介護施設ではベッドが余りはじめているところや、職員が減ってしまっているところがある。一方、東京ではこれから足りなくなる。ですから、そのアンバランスさを是正しましょう、と。それでCCRC(Continuing Care Retirement Community)のような話が出てきているわけですね。

労働力不足にどう対応するか?

金子:労働力不足についてはどうでしょうか?

河合:総人口が減っていくのは、もう避けられない未来です。働き手を補うために政府が考えている施策は、主に4つあると思います。まず「外国人」。そして「AI・機械化の推進」ですね。機械化は仕事自体の省力化も含んでいます。これは人口の増減に関係なく、合理化ということで絶えずやってきたことです。それをさらに進めて、人口と働き手世代の減少に対応できる形にしましょうと。あとは「女性」と「高齢者」の活躍推進。働く意欲のある人がなるべく働きやすい形に変えていく。

ただ、これらの対策を進めればうまくいくという程度ではないほど、今は働き手世代が減っています。ですから、私は、「そうした政策に加えて社会そのものをさらに縮めましょう」と言っています。多少不便になったり、産業的な偏りが出てきたりしてもいいんです。日本人が得意とするところを一生懸命やって、採算が合わないところは他の国に任せる。そして、そうした国と手を組むことでうまくバランスをとっていく。

そんな風にしてこの国の総仕事量を減らすことで労働力不足の減り具合を縮める。機械的に考えると、仮にこれから働き手世代が1000万人減るとしても、総事量が1000万人分減らせるのなら労働力不足は起こらないことになります。そのうえで、働く人が1000万人減っても日本が豊かな国であり続けるためにどうしていくのかを考える。つまり、付加価値の高いものに特化していきましょうという話です。

実際、どこで人が足りなくなるのか?

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金子:人が決定的に足りなくなるのはどんな領域なのでしょう。

河合:どれもこれも足りなくなるんですが、まず医療・介護で言えば、介護職が最も足りなくなると思います。機械に置き換えるのが難しい部分も多いので。

金子:そうすると、外国から人を呼ぶということも議論せねばならなくなりますね。

河合:増やしていかざるを得なくなると思います。一方で、もう少し介護の現場を効率的にできないかとも感じますね。今は外国人の在留資格の要件に介護職を加えて門戸の開放を進めていますが、実際にはなかなか来ないでしょう?ある程度は外国の方々にも手伝っていただきつつ、今後は少ない人手でたくさんの高齢者や要介護者を、質を保ったまま看ることができるような仕組みをもっと考えないと、この課題解決は難しいと思います。

たとえば、われわれ住民の方がある程度は集まって住み、住宅で介護施設に近いサービスを受けることができる仕組みをつくっていくとか。あるいは介護サービスの段階をもっときめ細かくして、本当に無駄のない介護サービスを提供できるよう制度を組み立てていくとか。そうした取り組みを通して、要介護者の数が多くなっても少ないスタッフ数でサポートできる方法を考えていかないといけない。

今は看護師も足りないと言われますが、それは病床に手間がかかり過ぎるからです。機械化すれば、ずいぶん解決します。「この患者さんの点滴はあと30分」といったことをナースセンターのパネルで確認できるようになれば、点滴の残量を確認するために四六時中、病室を巡回する必要がなくなり、看護師の数を数%減らすこともできる。

あと、最も足りなくなるのは物流の人手です。若い人がネット通販で利便性を求めるということも含めて、運送業に頼らなければいけないサービスはどんどん増えてきました。でも、ここも人手に頼っていますから、働き手全体が減っていけば運送業に就く人も減少します。高い水準のサービスを求められる割に、賃金は高くない職種なので、なり手が少ないわけですね。女性もなかなか参入しづらい。エレベーターのないマンション5階まで大きな荷物を女性ドライバーが運ぶというのはなかなか難しいので。

金子:マンションの5階まで荷物を運ぶというのは、高齢の男性でもなかなか大変です。

河合:実際、運送業における従業員の高齢化率は全産業の平均より高い。このままでは高齢者向けのサービスが成り立たなくなるでしょう。今は独り暮らしの高齢者にとって不便なことが増えています。たとえば地域によっては商店街のお店が撤退・廃業して、買い物難民や医療難民が増えています。その一方でバスやトラックのドライバーは減っているわけで、ここはもう少し考えないといけない。

それをドローンや無人運転自動車で運ぶという発想を政府は持っていて、実証実験をやろうとしているわけですが、ドローンが飛び交う社会にすぐにはなり得ない。ドローンでは冷蔵庫や洗濯機は運べません。無人運転もそれなりに普及はしますが、個別のお宅へ行ってチャイムを鳴らすとか、重い荷物をエレベーターもない団地の5階まで運ぶとか、トラックの荷台から自動で荷物を選別して降ろすということはしてくれません。

何十年も先であればそういう技術だって開発されるかもしれませんが、高齢問題は技術革新よりも早く確実に進みます。ですから、無人自動車が運ぶ時代は遠くない将来やってくるのかもしれないけれども、そこから先はどうしてもある程度は人手が必要になる。その人手が少子化で減ってしまうという問題が今後すごく大きくなります。これは少子高齢問題における一番のウィークポイントだと思いますね。

金子:今、物流や介護の例がありましたが、防災や警察機能なども含めて、最終的に人がやらなければいけないフィールドサービスの部分をいかに効率化するということを、これから考えなければいけないということですね。

河合:人は何十年も先のことにはなかなか対応できないので、まずは目の前のことをやりつつ、もっともっと効率的な社会をつくっていく。最終的には生まれてくる子どもの数が増えないかぎりこうした問題は解決しないんですが、これには時間がかかります。何十年単位、もしかしたら100年単位という時間がかかってしまう。なので、今は少しでも出生数の減り方を緩和させながら、併せて高齢化に伴う変化に対応していかざるを得ないのだと思います。

人手不足で、産業構造はどう変わるのか

金子:日本の産業構造の見直しも必要になるでしょうか?

河合:必然的に淘汰されて、新しい成長分野が出てくると思います。そこを国が支援等していけばいい。だから、国には今までのようになんにでも補助金を出すのではなく、そのお金をもっと集中的に投資して欲しいと思います。

それから、私は「エリート敎育をやってください」と言っています。まんべんなく人を育てるということでなく、「この分野だ」という領域があれば、その分野のエリートを国として育てていく。そういう人材は国費ですべて面倒をみる。敎育無償化はそういうやり方でいいと思います。

国費で面倒を見る代わりに、新しい分野にチャレンジする人材として育てるのですから「社会に還元してくれよ」ということで制約はつけていく。明治時代にはそうやっていたわけじゃないですか。有能な人たちをどんどん海外に出し、学んだものを持ち帰ってもらって、各産業分野を近代化していった。それでも間に合わないところは外国からお抱え技師を招き、ガスだって水道だってすべて真似ていった。軍隊だってそうやってつくったわけです。

同じように、若者が少ない状況で総仕事量も減らしながら豊かさを維持していこうと思ったら、よほど産業を特化して、日本じゃないとできない分野を1つでも2つも増やしていかざるを得ない。そうして少量生産で少量販売、でも高く売れるというもの、世界が認める分野を伸ばしていく。財源、人材育成、そして規制緩和を含めた政策的後押し。それを国としてもっとやっていくことが大事だと思います。

金子:東日本大震災後、日本政策投資銀行が有識者を集めて「新産業構造研究会」という会を立ち上げたのですが、私はそこに参加していました。研究会の問題意識は、原発が停止したことで、「電力多消費型の産業は日本で生き残れないのではないか」ということでした。例えば、原発が止まった場合、たとえば半導体産業はクリーンルームで大変な電力を消費するので、そういう領域では韓国等に勝てない。電力価格が高い日本では、そうした状況下で勝てる領域と勝てない領域を峻別していかないといけないのではないかと。少子高齢化時代の日本で、河合さんにとって、この領域なら日本は勝てるんじゃないかという製品や産業分野はありますか。

河合:これは必ず日本のキラーコンテンツになるだろうと思うのは“寄り添う気持ち”。医療分野やコミュニケーションに関わる分野、弱い立場の方をサポートする分野、人の絆といったものに関わる分野でのイノベーションがあると思います。

私はこれまでずっと医療分野を取材してきましたが、日本発の医療機材って素晴らしいんですね。たとえば「赤ちゃんが泣かない注射針」。通常、薬瓶のゴム蓋に注射を刺して薬を吸い出し、針を抜くわけですが、そのときに針先が変形するんです。その針を皮膚に刺すと針先が広がっているから痛い。そこで、薬瓶のゴムに刺して抜いても針先が変形しない技術を、中小企業の技術者がつくった。鋭利なまま刺さるから、ちくりともせずに赤ちゃんも泣かない。例えばそういった技術だと思います。

金子:そうしたものを生み出す「現場力」みたいなところは、たしかに日本は強いと思います。ホワイトカラーだけでなく、現場の優秀なオペレーターや熟練工の方々に、特に材料や部品の面で優位性の源泉があったりするんですよね。

河合:あと、今までの日本の医療機材というと、体の外側に関連したものが目立った。体の中に入れるものをつくってこなかった。リスクが高いから。でも、本気になれば、医療分野で日本企業にできることはもっとあるはずなんです。たとえば、内視鏡技術を高めてきたオリンパスのような会社がもっと出てくるはずだと思います。

『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』
河合雅司(著)、講談社
821円

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