平均値を安易に使っていませんか? 

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『ビジネス数字力を鍛える』から「全体を1つの数字に集約して、全体像を見る」を紹介します。

かつて私は『MBA 100の基本』という書籍の中で「平均値は平均の像ではない」という項目を設けて解説したことがあります。「平均」という言葉は、「普通」や「人並み」といった印象を想起させますが、平均値は必ずしもその集団の標準的な値ではありません。少数のサンプルが一気に平均値を押し上げてしまうケースもあるのです。その典型は保有資産額などです。身長や寿命であれば、1人の人間が平均値の何十倍、何百倍もかせぐということはありません。しかし、資産額であれば、仮に1万人のサンプルをとったとしても、その中にアマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏(資産額およそ10兆円)がたまたま含まれていれば、一気に平均を10億円引き上げてしまうことになります。

人間は誰しも「あなたは平均以下だった」などと言われるといい気持はしないものです。しかし、だからこそこうした平均の落とし穴や特徴を知り、適切に用いるべきなのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

全体を1つの数字に集約して、全体像を見る

全体を1つの数字に集約(代表値)して、全体像を見るという方法は、最もよく利用される分析方法です。代表的なものは「平均値」です。エクセルに数字が並んでいると、AVE(AVERAGE) という関数を使って、とりあえず平均を出してしまう方も多いでしょう。

平均値の注意点

平均を出す際には、そのロジックに注意しなければなりません。エクセルのAVEという関数を用いて平均を出す場合、並んでいる数字を単純に足し上げ、項目数で割るという計算をしています。これを「単純平均」と言います。

この方法で平均を出すことで意味のある数字となる前提は何でしょうか。少なくとも次の前提が成立している必要があります。

・それぞれの要素の重要性は同じである

例えば、ある集団の平均身長を計算する場合に、A君よりB君を重視して計算すべきということはないはずですから、単純平均を出せばよいことになります。

一方、例えば、最近多くの企業で取り入れられつつある、360度評価(上司からだけではなく、部下や同僚からなど、多方面から人材を評価する制度)の運用にあたり、単純平均で数字を求めてよいでしょうか。具体的には、部長、課長、係長、担当の評価が同じ重みでよいでしょうか。あるいは、評価される人と1カ月しか同じ職場にいない人と、1年程度同じ職場にいる人、長い間同じ職場にいる人の評価が同じでよいでしょうか。

同じでよいと判断する場合もあるかもしれませんが、一般的には条件によって重みをつけて考えるケースが多いでしょう。例えば、部長の点数は×1、課長は×0.8、係長は×0.6、担当は×0.5のように重みをつけるということです。このように重みづけをした平均を「加重平均」と呼びます。

具体的な例で考えてみましょう。あるレストランの経営者の気持ちになってください。ある日販売データを整理してみたところ、次のような数値が得られたとします。

さて、定食メニューの平均価格はいくらでしょうか? また、一食当たりの平均単価はいくらでしょうか? 答えは、下図のようになります。言われてみればとても簡単なことなのですが、何を求めたいかによって、平均の計算式が変わってくるのです。

ですから、単純平均、加重平均のどちらがよいのかと問いかけるのではなく、「何を求めるのか」から逆算して計算方法を決めていくことが重要です。

そもそも平均値でよいのか、それとも中央値か

一歩話を進めて、そもそも平均値という値が代表値としてふさわしいのかについても考えていきましょう。普段、ニュースなどを見ていて、「あれ?」と違和感を覚えることかありませんか。例えば、平均給与や平均貯蓄残高などは、その典型例と言えるかもしれません。

例として世帯の貯蓄残高を見てみましょう。総務省の統計の中に家計調査年報という統計があります。2006年度の解説はこうなっています。皆さんの感覚に合いますか?

「(1)2人以上の世帯の貯蓄現在高(の平均値)は1722万円」

直感的に、かなり多い気がするのではないでしょうか。この報告書には続きがあります。

「(2)2人以上の世帯について貯蓄現在高階級別の世帯分布をみると、平均値(1722万円)を下回る世帯が69.7%(前年67.3%)と約3分の2を占め、世帯分布は貯蓄現在高の低い方に偏ったものとなっている」

これをグラフに表すと、帽子を左側にひしゃげたような右肩下がりのグラフになります。多くの方は貯蓄が少ない一方で、少数の富裕層が存在しているわけです。

このように、データの分布に大きな偏りがある場合、平均値は、一般的にイメージする感覚とずれてきます。ラフな言い方ですが、私は、平均値を算出する意味があるのは、データが正規分布(釣鐘状の左右対称の分布)から大きくかけ離れていないときだけと考えています。

ちなみに、平均ではなく、貯蓄高を上から並べて、順番で見て真ん中の値を取った中位値(または中央値)は1008万円となっています。こちらのほうが感覚的にはしっくりくるのではないでしょうか。

(本項担当執筆者:グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長 田久保善彦)

『ビジネス数字力を鍛える』
グロービス経営大学院/田久保善彦 (著)
1728円

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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