ロンドンオリンピック開催中の8月10日、韓国の李明博大統領が日本の固有の領土である竹島に上陸した。日本と韓国が長年にわたって構築してきた友好関係を、一国のリーダーが一方的にぶち壊してしまう行為であり、到底容認することはできない。
スポーツを愛する僕にとって残念だったのは、ロンドンオリンピックのサッカー男子3位決定戦後に韓国チームの朴鍾佑選手が、「竹島は韓国領土である」と主張するプラカードを掲げたことである。スポーツと政治を分離するオリンピック精神を踏みにじる行為である。
そして、李明博氏は、8月14日に天皇陛下の訪韓に関して「心から謝罪するならば来なさい」と発言した。天皇陛下への言及には、数多くの日本人が呆れ果て、そして憤慨した。ツイッターやフェイスブックは、李大統領への反発で溢れかえっていた。
任期末期に支持率低迷に悩む韓国大統領が、身内の逮捕等の政治スキャンダルから目をそらさせ、退任後にも国民から支持を得たいが為に、「国粋的ポピュリズム」に走ったのであろう。韓国の大統領任期が末期に近付き、支持が低下するたびに繰り返される、政治ショーだ。しかし、安易に選んだ政治パフォーマンスが日韓関係に及ぼす悪影響はあまりにも大きい。これから当然日本も対抗策に出るであろう。そして、韓国も強硬策に出るのであろう。李明博の名は、自らの保身を優先させて日韓関係を冷え込ませた政治家として、歴史に刻まれることになるであろう。
報道によれば、韓国世論は五輪精神に反した朴選手の行為を恥じたり、反省したり、謝罪したりするどころか、「何も問題は無い」と正当化しているという。また、李大統領への支持も一定限あるのだと言う。僕は、オリンピック期間中に政治を持ち込んだ韓国大統領、それを正当化しようとする韓国世論のあり方に強い違和感を覚える。韓国社会から冷静で客観的な自己批判の声が出てこないと、また同じ行為が繰り返されるのではと危惧している。
僕は韓国人の友達が多くいるし、韓国のベンチャー企業にも投資をしている。グロービスでは韓国人のMBA生も学んでいるし、社員もいる。僕は韓国に親近感を持っている。だが、好き嫌いの問題ではなく、「何が正しいか」で判断することが重要だと思う。今回の韓国人選手が行ったことは、明らかに五輪憲章に違反している間違った行為であるし、 李明博氏の発言も不適切を通り越し、日本を侮辱するものであったと思う。
僕は、韓国人、中国人さらにはドイツ人等と歴史問題に関して腹を割って、夜を徹して、何度も語り合ってきた。だからどの民族であっても、個人レベルでは分かり合えると確信している。だが、中国人・韓国人に「その意見を公の場で言えるか?」と聞くと、すぐさま「ノー」の返事が返ってくる。個人では分かっていても、「社会」がその発言を許さないのだ。韓国社会は(中国でも同様だが)、こと「対日本」となると言論の自由が社会的に大幅に制限されてしまう。公の場で「日本が好き」、「韓国選手のあの行為は、五輪憲章に照らして間違っている」等といった発言ができないのだから。
日韓、日中の真の相互理解のためには、韓国と中国における言論の自由が欠かせないと僕は感じている。 個人レベルでは分かり合えても、社会の相互理解に繋がらないからだ。草の根レベルで培ってきた相互理解が、社会に広がらないどころか、その社会的な「空気」を利用して、自らの保身に繋げようとする政治家が出てくるのだから、頭を抱えてしまう。
一方、日本が領土を奪われ、天皇陛下にも非礼な発言をされてしまう事態に至っているのは、日本の閣僚・政治家が弱腰だからだ。日本の政治家は、もっと毅然とした態度でこの問題に対処すべきだ。森本敏防衛相は8月10日の記者会見で、李大統領が竹島を訪問したことについて「韓国が内政上の判断で決めたこと。他国の内政にとやかくコメントするのは控えるべきだ」と述べた。日本の国土を守る防衛大臣の発言とは思えない。閣僚・政治家はもっとしっかりしろと言いたい。竹島上陸事件以降、政治家は、主張すべきことを主張しているのだろうか。僕がツイッターを見ている限り、決して十分だとは言えない。
こちらが主張しなければ、相手はどんどんつけ込んでくる。李大統領は8月13日の会見で、「国際社会での日本の影響力は以前と同じではない」という認識を示したという。日本の政治家の本領は、こういう時にこそ発揮すべきである。世界から目をそらして、内に籠もり、政局・政争に明け暮れている場合ではない。毅然とした態度で断固抗議し、対抗手段を打つべきである。甘い対応をしていたら、「やった者勝ち」になってしまう。「無理を通せば、道理が引っ込む」だ。毅然とした態度で臨んでほしい。
それにしても日本人は、我慢強く大人しい民族だと思う。だが、「文句を言わないことが日本の美徳」なのではない。武士は、理不尽に名誉と誇りを傷つけられたら、必ず相応の行動を取ってきた。正しいと思う事を主張しないのは、美徳でも何でもなく、「意気地無し」なだけである。国民一人一人が、正しい主張、行動をとる必要がある。
「同じ次元で争わない方がいい」、「言わせておけばいい」という声をよく聞く。一見大人びた発言で、もっともらしく聞こえるが、何の問題解決にならないどころか、事態を悪化させることに気づく必要がある。相手が一国民だったら別だが、一国の大統領の発言であったり、オリンピックが舞台だったりする。国際社会では「何も言わない」は、相手の主張を認めたことになってしまうのだ。
僕の外国在住の友人が、竹島に向かって韓国人が泳いでいるニュースを見ながら、ポロっと言った。「日本って不思議な国だよね。あんなことを許しちゃうのだから」と。政治家が弱腰なのは、日本国民が主張しないからだ。発言し、主張しない弱虫は、国際社会からいじめられるだけだ。主張し、闘う姿勢を見せることにより、初めて尊敬を得、そして相互理解に繋がるのである。これが、僕が世界に出て、国際社会の中で学んだことだ。日本のリーダーたる政治家、財界人、文化人を含めて、もっと主張すべきだと思う。一人一人が強い意識を持ち、発言し、主張し、相手との相互理解をはかることにより、初めて日韓関係を健全な方向に向かっていけるのだ。無闇に事態をエスカレートさせたくはない。だが、だからと言って、沈黙することは解決にはならないと僕は思う。
本日は、終戦記念日だ。日本国のために命を捧げた英霊たちは、天国から日本の現況を見てどう思うであろうか。僕ら一人一人が、強い意識を持ち、「次の世代に良い日本を引き継ぐのだ」という責任感を持ち行動することが重要であろう。本日は、亡くなった英霊たちに手を合わせながら、静かに過ごすことにしたい。
2012年8月15日
山小屋にて執筆
堀義人