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北京でのスピーチ

投稿日:2006/04/27更新日:2019/08/21

北京空港に降り立ち、キャッシュ・ディスペンサーで中国元を手に入れ、タクシーをつかまえる。そして、北京市内へ向かう。この道を何度辿っただろうか。

窓から見える景観にもう新鮮味を感じ無いので、i-podに入っているクラシック音楽をBGMに、詰碁(つめご)問題を解きながら、ホテルに向かう。交通渋滞が、心なしか以前よりもひどくなっていると感じるのは、気のせいだろうか。

天気は、快晴。クーラーがきかないのか、窓が開いている。暖かい空気が入ってきて、汗ばんできた。北京の町並みは、黄砂の影響か埃っぽい。ホテルに着いて、すぐにチェックインした。

今回の出張の目的は、北京で開催されるアジア技術円卓会議(Asian Technology Roundtable Exhibitio=ATRE)でスピーチをすることである。この 会議は、友人のAlex Vieux が主催している。彼の主催のイベントへの参加は、これで6回目となる。

最初が、ETRE(European Technology Roundtable Exhibition) というヨーロッパ版の会議で、2001年にスペインのセビリアで行われた。ETREには、その後2004年にカンヌに参加した。アジア版のATREは、2002年にソウル、そして2004年に上海で一度づつ参加した。 2004年にビル・ゲイツとともにシアトルで開催されたリトリートに参加した(今年のリトリートには、ソニーの出井さん と楽天の三木谷さんが参加 したらしい)。そして、今回が6回目となる。

最初のETREの時から、僕は一貫してスピーカーとして参加してきた。ただ、その当時は小さい分科会のパネラーとしての参加のみだったが、今回は、キーノート・セッションでのスピーチだ。Forbes asia の表紙に掲載された効果があったのか、確実に待遇がよくなって来ている。どうせ喋るならば、大きな舞台で喋りたい、と思うのは自然なことであろう。

スピーチは、着いた日の17時からの予定であった。チェックインしたのは、15時である。スピーチまで、あと2時間。多少緊張してきた。

ホテルでチェックインをしている際、フロントのホテルウーマンから、 「ATREの主催者からの伝言があり、お話ししたいことがあるから暫く待っていて欲しい」と、ぶっきら棒な口調で告げられた。北京のサービスの質はまだそれほど高くはなってない。暫くしてATREの担当者が登場し、申し訳無さそうに説明し始めた。

「当初17時からスピーチの予定だったが、なぜだかプログラム上では12時半からに変更になっていた。12時の時点で、堀さんが来なかったけど、安心してください。 予定通り17時から行いますから」。

よくわからない説明である。僕が手にしているスケジュールには、確かに17時からになっている。会議の直前に予定が変更になっていたのだ。しかし、ここでジタバタしていても仕方がない。部屋に入り、シャワーを浴びて、スーツに着替えて、会場に向かった。

会場には、中国人を中心に、テクノロジー系のスタートアップ会社とベンチャーキャピタリストが100名ほど集っていた。例によって、スケジュールが 遅れていた。アレックス主催の会議で、スケジュール通りに進行することは珍しい 。それでも、彼の突っ込みは面白いから、評判が落ちないのだ。

僕の番が来た。壇上にいるアレックスから 名前を呼ばれたので、立ち上がり颯爽と壇上に向かった。スケジュールに入っていないので、予定よりも参加者が少ないような感じがしていた。アレックスとがっちりと握手をして、抱擁してから、ソファーに腰掛けた。アレックスは、カリブ系のフランス人だ。僕らが会うときは、必ず抱き合って、背中をぽんぽんと右手で叩くのが慣例となっていた。

そして、対談が始まった。「なぜ、日本にはベンチャーキャピタルが少ないのか?」、「なぜ日本からは、世界的なベンチャー企業がソニー以降出てこないのか?」、「なぜ日本の電気メーカーのM&Aが進まないのか?」、「そもそも、なぜ日本人は英語が下手なのか?」(「勝手にしてくれ」、と思いながらも、精一杯で答えた)。

更に突っ込みは 続いた。「なぜ日本の改革はスローなのか?」、「ライブドア事件の教訓は何なんだ」、「なんでグロービスは、ベンチャーキャピタルをやりながらビジネススクールをやっているのだ」、「お前の志は何だ?」とか、さまざまな角度から切り込んでくる。 

僕は、その質問に一つ一つ、冗談を交えながら、答えていく。アレックスの顔を見ながら、一所懸命に答えているときに、「結構、楽しい」と、対談を楽しんでいる自分を発見していた。思わず笑みも漏れてきた。今回の対談は、初めて楽しみながらできたような気がしていた。

英語もすんなりと出てきているし、ボディ・アクションも結構しっかりと出来ている様な気がする。何よりも余裕を持って楽しめているのが大きい。やはり、何度も繰り返し繰り返しやってきた成果だろうか。あるいは、毎日電子辞書を片手に、Financial Times を読んでいるからだろうか。

最後の「お前の志(Ambition)は、何だ?」には、「3つの志がある」と最初に結論を言った上で、以下の通り答えた。

「先ず一つ目は、アジアNo.1のビジネススクールを創ることである。北米には、ハーバードやスタンフォードがある。欧州にはINSEADがある。アジアには、今のところNo.,1 の ビジネススクールが無い。10年後には、そのNo.,1の座にグロービスが座っているであろうと思う。会場の皆さんも是非グロービスの名前を覚えておいて欲しい」。

「二つ目の志は、アジアNo.1のベンチャー・キャピタルを創ることである。 シリコンバレーには、クライナー・パーキンスとかセコイアキャピタル という、著名なベンチャーキャピタル会社がある。だが、アジアには今のところ世界に名を馳せる会社はできていない。僕らは、第二のソニー、ホンダをつくり 、世界レベルの会社を多くつくりたい。そして、投資家に対してコンスタントに4-5倍のリターンを生み出す成績を残したい。それだけのことを、日本にあるベンチャーキャピタルができるんだ、ということを世界に証明したいんだ」。

「そして、三つ目の志が、一番重要なものである。5人の父親として、子供をしっかりと育てることである(笑)」、と言って対談を締めくくった。

先の「人生のバランス」のコラムに書いたように、仕事と家庭のバランスは、とても重要なのである。

今回のATREには、日本からのパネラーが比較的多く来ていた。客観的に見ても、日本のスピーカーの方がクオリティが高い感じがしていた。特に、イーアクセスの千本会長のスピーチは、素晴らしかった。他には、ACCESSの鎌田副社長 、ソフトブレーンの小林CFOなどがスピーカーとして来ていた。日経新聞の関口編集委員 は、モデレーターとして活躍しており、デジタルフォレストの猪塚社長 は、ベンチャーキャピタリストの前で12分間のプレゼンをしていた。

最近、日本のベンチャー企業の元気さが目に付く。しかも、内容が濃くなってきている。来年はこの会議が、日本で開催されるらしい。日本のベンチャー企業の良さを世界に知らしめる良い機会と思い、積極的に参加したいと思う。来年には、この会議以外にも、YEO (Young Entrepreneur Organization)とYPO(Young President Organization)が日本で社長大学 (年2回行う国際大会) を開催する。それぞれ10年ぶりの開催である。今年の6月には、世界経済フォーラム(WEF)がアジア版の会議を行う。

日本経済も復活してきたからか、世界からも日本への関心が戻り始めている。 これからも、「日の丸を背負った」志士達が、さまざまな分野で活躍してくれることであろう(参照コラム「日の丸を背負うということ」)。

飛行機がアジアの次の目的地に向かっていた。
これからもアジアや欧米において、日本やグロービスのプレゼンスを高めるために、さまざまな機会に発信していきたい。

中国やインドの台頭が著しい中、このような場所では、僕らは日の丸を背負った日本代表なのであろう。
サムライらしく、礼儀正しく、毅然とした姿勢で、常に挑みたい。この与えられた機会に感謝しながら。

2006年4月27日
北京発の飛行機の中で
堀義人

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