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アジアのベンチャーキャピタリストの会合(その2)

投稿日:2004/11/22更新日:2019/09/04

フォーラムは、豪華メンバーでのパネルディスカッションで始まった。映画 『華氏911』にも登場するカーライル社の創始者のデイビッド・ルーデンシュタイン氏、テキサス・パシフィック・グループ(TPG)の創始者のビル・プライス氏、そし てファンズ・オブ・ファンズで著名なハーバーベスト社創始者のエド・ケイン氏など が参加し、AVCJ社の創業者のダン・シュワルツ氏がモデレーターするパネル・ディスカッションから始まった。各パネラーとも運用資産が1兆円を超えているという『バイアウトキング』であり、実際にその名前がパネルディスカッションに付けられていた。その後もアジアのベンチャー・キャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PE)を彩る華やかなメンバーが参加していた。

僕の出番は、2日目の朝であった。1日目は、中国を中心とするディスカッションだったので、僕は2日目に回される格好となっていたのだ。2日目は、聴衆の数も減っていた。今回のファーラムは、アジア全体をメインとしているのに、日本人のスピーカーは僕だけだった。残念ながら、今はトレンディな中国投資に関心が集まっていたからだ。

僕は思い切って日本の存在感を示そうと思い、痛烈なコメントをいくつか用意してい た。そして僕の出番が来たので、早速いくつかのコメントを出し始めた。

「アジアのGDPの50%以上を日本が占めているのに、日本に関する討議が少ないようでは、アジアの全体像を見失う可能性が高い。」
「昨日までの議論を聞いていると、‘アジア‘というと、中国・台湾・香港を中心とした グレーター・チャイナを指摘しているようにすら錯覚してしまう。アジアは、もっと多極化している。日本、韓国、インド、そして東南アジア、そして地域的には豪州も近郊にある。」
「アジア全域で香港をヘッド・クオーターとして投資をしているファンドが日本で成功した事例はあまり知らない。」

そして、「極端な例として、良く言うジョークを披露しよう」、と前置きし、以下言い放った。

「アジア全域を香港から見る、と言うのは、例えて言えば米州(北中南米)を地理的にど真ん中に位置するパナマからみているようなものだ。パナマから米国の全体像が見えないように、香港からは日本の全容を見ることはできない」、と。そして続けた。 「日本で投資に成功するには、日本に相当な資源を配分し、意思決定を含めて日本で行う必要がある。さもなければ成功しないであろう」、と。

たまたま隣には、アジア全域を香港から見ているファンドのCEOが居たのだ。「そんなことは無い」、と言い始め議論が盛り上がってきた。いい感じである。パネルの終了時刻が近づいてきたので、僕は勝手に最後のまとめを始めた。

「アジアの良さというのは、各地域・国がそれぞれが違い、多様であるという点だ。その多様性があるからこそ、ざまざまなファンドの形態があり、競争したり共存したりするのである。アジア全域を対象としたファンドが成功するのか、それとも各国単位の投資ファンドが成功するかは、それぞれの産業やステージによっては異なるのであろう。そして適者生存の原理に従い、競争し続け、最終的にどこが成功するかは、歴史が証明することになるであろう」、と。

中国偏重の昨日までの議論に嫌気がさしていた参加者が多かったのであろうか。終わったあとに、「面白いコメントだったね」という意見を多くの参加者からもらえた。投資家の方からも、「良かったよ」、と言われた。そしてスピーチ後に、雑誌社の記者何名かとの取材に応じることになった。

ちょうどフォーラムが始まる前日に、投資先のGDH社が上場していたのだ。デジタルアニメーションを作っているベンチャー企業だ。タイミングが良い。GDH社の上場も例に出しながら、日本のベンチャー環境が活況なことを伝え続けた。

その後、久しぶりに再会した投資家と一緒にお茶をして、日本への帰路に着いた。アジアの出張は時差がないから楽である。香港からは5時間強のフライトタイムである。この出張が終われば年末まで、海外出張の予定が入っていなかった。三週間の欧米出張と一週間強のアジア出張を経て、多くの収穫があったと思う。

その収穫をもとに、グロービスの名前の由来通り、更に『グローバルにビジネス』をするようにしてきたいと思う。
長い一連の海外出張を終えて、やっとのんびりできる。喉に多少のイガイガを感じた。風邪の引き始めの兆候である。帰国後ゆっくりと休み、体調の回復を 狙うこととしよう。

2004年11月12日
香港から成田に向かう機内にて
堀義人

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