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日本をAI先端企業の「草刈り場」にしないために――『AIファーストカンパニー』

投稿日:2023/10/19

本書は、ハーバード・ビジネス・スクールでDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する講義の教科書ともなっている『Competing in the Age of AI』の翻訳版です。アマゾンやネットフリックス、エアビーアンドビー、アント・グループに代表されるAIを活用した先端企業、すなわち“AIファーストカンパニー”の実態を詳細に述べつつ、その重要な共通点を抉り出しています。豊富なケーススタディに加え、マルコ・イアンシティとカリム・R・ラカーニの2人の著者の洞察が冴えわたっています。

本書に取り上げられている企業の最大の特徴は、AIをまさに企業経営の核に据えている点です。「昔ながらのビジネスにちょっとAIを加味した」ではなく、「AIそのものが経営の柱」となっているのです。一言にDXといっても、その次元は全く異なります。 今でも従来型の企業の多くは、物理的な経営資源や人を介したプロセスに大きく依存しています。それに対し、上記のAIファーストカンパニーは、ビッグデータとアルゴリズムを重要な資産として活用し、「AIファクトリー」を構築しています。AIファクトリーは何かと言えば、データパイプライン、アルゴリズム開発、実験プラットフォーム、ソフトウェア・インフラなどから成ります。こうした環境を整え、企業がどれだけ効果的にAIを経営に組み込み、その力を活用する仕組みを構築できるかが、これからの企業の競争力に直結するのです。

オペレーティング・モデルの違いを理解する

さて、AIファーストカンパニーに共通する鍵として本書が提言している概念がデジタル・オペレーティング・モデルです。ユーザー数が多くなるほど提供価値が逓減するという従来型ビジネスのオペレーション・モデルとは異なり、デジタル・オペレーティング・モデルは、規模の拡大、範囲の拡大、そしてそれに伴う学習力の向上が、提供価値の逓増につながる仕組みです。

なぜこの違いがあるのか、その理由は単純で、AIファーストカンパニーにおいては、日々の顧客接点における意思決定(価格設定やレコメンデーション、表示順の決定など)は、AIやビッグデータを用いたコンピュータが行うからです。人間をあえて介在させないことが、AIの学習(そしてその先にあるサービスレベル向上)を促し、これがビジネス自体の規模化(スケール化)や範囲(スコープ)を容易にするのです。そして規模や範囲の拡大が、さらなる学習を促すという好循環構造が生まれます。いったんこの好循環が回ると、ライバルが追い付くのは容易ではありません。

もちろん、オペレーティング・モデルをデジタル化して磨くだけではだめで、ビジネスモデルあるいは戦略とのすり合わせが非常に大切になります。
これまではオペレーションは重要な経営イシューではあるものの、必ずしもビジネスモデルや戦略の核とはされてきませんでした。AIによってそうした経営とオペレーションの間にあった垣根を取り払い、強く融合させるべきというのが著者らの重要な主張です。すると、企業は従来の経営資源の制約を乗り越え、新しい市場や顧客層にアプローチできるのです。

状況によっては当然ビジネスモデルの再定義や戦略の再構築なども必要になってきます。本書でももちろんその点にも触れており、AI時代の戦略を評価するフレームワークなども紹介しています。

本書から日本企業が学ぶべき点とは

本書は、最先端を行くAIファーストカンパニーについて調査するだけではなく、その手前の会社がどうすればAIファーストカンパニーへと変革できるのかという点に関しても方法論を提示しています。具体的には、改善-実演-最適化-変革という4つのステップを示しています。変革にまでたどり着ければ強固なAIファクトリーが機能し、オペレーティング・モデルとビジネスモデルや戦略のすり合わせも出来ています。

ただ、そこに取り上げられている代表的な変革成功事例は、優秀な経営者として知られるサティア・ナデラCEOが率いるマイクロソフトなどです。

DXやAIの活用に関して1周どころか3周も4周も遅れている日本企業にとっては、「なるほど凄い」とは思えても、自社でそれを実現するにはかなりの知恵とトップのリーダーシップ、さらには金銭的・時間的な投資が必要となるでしょう。日本という国の問題でもある優秀なIT人材の不足等を鑑みると、日本企業がこれを行うのは不可能ではないかとも思えてきます。

とはいえ、そこで思考停止していては後退あるのみです。グローバル化競争はますます強まっており、また日本語や日本の商習慣といった参入障壁も相対的に低くなってきています。何も手を打たなければ、「あなたの利益は私のビジネスチャンス」と公言するアマゾン創業者ジェフ・ベゾスが言う通り、日本の市場もAIファーストカンパニーの草刈り場になってしまう恐れすらあります。 日本企業としては、3周も4周も遅れていることを自覚したうえで何をすべきかを改めて考える必要があるといえるでしょう。

これからの企業経営を考えるに必要な一冊

なお、本書は2020年に原書が出版されたということもあって、多少古く感じる点もあります。特に冒頭がコロナ禍の話題から始まっている点はそうかもしれません。また昨年から今年にかけてホットな話題になった生成AIについてもあまり記述はありません。ただ、内容そのものはほぼ2023年現在もそのまま通用する部分が大です。 やや厚い本でテクニカルタームも多いので、読み通すには歯ごたえはありますが、これからの企業経営を考えるうえで、ビジネスリーダーを目指す人にはぜひ読んでほしい1冊です。

AIファースト・カンパニー ――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略
著:
マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ 訳:渡部典子 監修:吉田素文 
発行日:2023/10/20 価格:2,640円 発行元:英治出版

グロービス出版
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  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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