「相手にとってわかりやすく伝える」を解き明かす
「相手の立場に立って考えなさい」
小さい頃から、先生や親によく言われてきたこの言葉。大人になった今も「相手の立場に立てなんて言われても……」と、モヤモヤしてしまう方は多いのではないだろうか。
「相手にとって分かりやすく伝える」というのは、コミュニケーションの基本のキ。
しかし、「具体的にどうすればいいの?」と聞かれると、抽象的な答えしか返せない……。
今回ご紹介する『入社1年目から差がつく ロジカル・アウトプット練習帳』では、そんな方に向けて、明日から仕事ですぐに活用できる内容が書かれている。今後、仕事を通して様々なアウトプットを求められる若手の方は、ぜひ早い段階で読んでいただきたい一冊だ。加えて、「実は自分の伝え方に自信がないけど、アウトプットの基礎なんて今さら聞けない」……そんな方も、たくさんのヒントを得ることができる内容になっている。
この本では、以下3つのパートに分けて「相手にとってわかりやすく伝えること」が解説されている。
- 相手から考える
- わかりやすく伝える
- 工夫して伝える
「相手から考える」と「わかりやすく伝える」は、ロジカル・シンキングを反映させたコミュニケーションの基礎固めパート。演習問題を重ねることで、ロジカル・アウトプットがどういうものなのか、を体感できる。詳細な解説付きのため、自分のアウトプットの不足部分を確認しながら読み進めることができるのが特長だ。
そして、最後の「工夫して伝える」では、今後のアウトプットが楽しみになるようなさまざまなポイントが凝縮されている。
大事なのは、相手に対してまっすぐ心を向けること
この本で最も印象的だったパートは、最後の「工夫して伝える」である。
発展編として書かれているこのパートまで読むと、本書のメインメッセージが頭に浮かんできた。それは「相手に対してまっすぐに心を向けることで、伝えたいことが伝わる」ということである。
自分が相手になることはできない。しかし、相手に対して純粋な関心を持ち、相手のことをできる限り想像しながら、アウトプットを徹底的に考え抜くことはできる。その結果、伝えたいことが100%伝わらなかったとしても、その「伝えよう」とする姿勢は、アウトプットの端々からにじみ出てくるはずである。
相手のことを自分の都合のよい形でしか想像しないでいると、相手に伝えたいことは伝わらない。しかし、「伝えたい」という強い想いのもと、相手に対してまっすぐ心を向けた結果のコミュニケーションであれば、誰でも思わず耳を傾けてしまうのではないだろうか。
実践して見えたこと
先日、あるメールに返信する際、本書の学びを実践してみた。メールを書き始める前に、紙とペンを出し、「相手の問い」を書き出すことから始めてみたのだ。
このとき気づいたのは、普段いかに「こちら側の都合」を優先してメールを書き始めてしまっていたか、ということだ。相手の今置かれている状況、相手がしているであろう認識、この連絡をくれた背景、そのときの相手の心境、こちらに何を求めていそうか、こちらから相手にどんな行動を求めるか……。これらを書き出してみると、「何をメインメッセージにすべきか」が自然と定まった。その上で、相手の顔を想像しながら、スムーズな順番を想像し、メールを書き進めることができた。
「かなり時間がかかるな……」というのが、このときの率直な感想である。しかし「いつもよりは伝えられたかも」という実感を持てたのが、自分にとって大きな収穫だった。
相手に寄り添うと、自分のアウトプットが変わる
最後に、この書評も、本書の学びを取り入れながらの執筆に挑戦したことを書き添えておきたい。
執筆し始めるまでの下準備は、正直なかなか骨が折れるものだった。しかし、相手に寄り添いながらアウトプットを設計することが、自分のアウトプットの改善に必ず寄与すると、それを経験した今、自信を持って言うことができる。そして、この手間をかけること自体を楽しめるようになれば、タイトルにある通り、周りとグッと差がつくのだと思った。
昔からずっと言われ続けてきた「相手の立場に立って考えなさい」という言葉。この意味を今一度理解したい、そんな方はぜひ手に取っていただけたらうれしい。
『入社1年目から差がつく ロジカル・アウトプット練習帳』
著:グロービス 執筆:岡 重文 発行日:2023/5/31 価格:1,760円 発行元:東洋経済新報社