グロービス経営大学院の教員がオススメする、冬休みに読みたい書籍を3冊ご紹介します。この年末年始は、改めて知りたいビジネスワードについて調べたり、今後のキャリアを考える時間を取ったりしてみては?前回の夏休み版はこちら。
コーポレートガバナンスをドキュメンタリーで学ぶ
推薦者:嶋田 毅
本書は、LIXILグループの社長兼CEOの瀬戸欣哉氏が創業家出身(といっても持ち株は3%程度)の潮田洋一郎取締役会議長に予期しない形でその座を追われてから、およそ8カ月後の株主総会で復帰を果たすまでの経緯、人間物語を描いたドキュメントである。
瀬戸氏はあらゆるつてをたどり、「ガバナンスの健全性」を大義に周囲への説得を重ね、味方を増やしていく。そして最終的にはガバナンス意識の高い外資系のみならず、一部日系の機関投資家までも巻き込み、最終提案で株主提案(瀬戸氏側)が会社提案(潮田氏側)に薄氷の差で勝利を収める。
瀬戸氏側の視点で書かれているため、完全に客観的とは言えない部分もあるかもしれないが、幅広い取材に裏付けられており、日本のコーポレートガバナンスの課題と、それを健全化させるためのヒントを提示してくれている。
法律的、手続的な側面を理解する必要があるのと、多少厚い本のため最後まで読み通すのはやや大変ではあるが、非常に勉強になる1冊である。
『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』
著:秋場 大輔 発行日:2022/6/9 価格:1,870円 発行:文藝春秋
ワークデザインがライフデザインにつながる
推薦者:許勢 仁美
「いまあなたがもっとも優先したいことはなにか。」
「あなたの会社の独自性と呼べるような働き方を形づくるうえで、あなたができるもっとも有効な行動はなにか。」
ロンドン・ビジネス・スクールの経営学教授である著者のリンダ・グラットンは、世界的ベストセラーとなった前著『ライフ・シフト:100年時代の人生戦略』『ライフ・シフト2:100年時代の行動戦略』において、個人に向け、自分らしい人生の道筋を描くための羅針盤を示した。
本書はそんな前作に続き、組織に向けて、これからの時代の働き方をリデザイン(再設計)するプロセスと、考えを深めるためのフレームワーク(思考の枠組み)を、世界の様々な企業の事例とともに紹介している。なぜ働き方をリデザインする必要があるのだろうか?その答えは、コロナ禍を経た時代に選ばれる職場になるために、である。
本文中に紹介されるリデザインを実践するための4段階のプロセスはデザイン思考に近く、「働く場所」と「働く時間」の柔軟性について、いくつかのフレームワークが提示される。
一部を紹介すると例えば、職場の生産性を支える4つの要素「活力」「集中」「連携」「協力」を組み合わせて考えることで、より自社にフィットする働き方のデザインを検討することができるのだという。また、リデザインした働き方の検証という観点では、「未来」「テクノロジー」「公平と正義」といったキーワードが登場する。
本書を通して組織目線で働き方の検討を始めたわたしたちは、一人の社員として、個人として冒頭の問いに戻ることになる。
働き方は、自分たちでデザインできるものなのだ。新しい年のアクションにつながる一冊である。
『リデザイン・ワーク 新しい働き方』
著:リンダ・グラットン 翻訳:池村 千秋 発行日:2022/10/14 価格:2,090円 発行:東洋経済新報社
いま、大企業でこそ新規事業開発に取り組むために
推薦者:池田 章人
これまで15年間大企業を中心に組織開発を支援してきている立場から、2023年を迎える今、改めて意義がある一書としてお勧めしたい。
本書が出版された2019年当時には私も多くの大企業の新規事業開発支援をしていたが、その後Covid19の影響もあり、その勢いは減速していた。しかし今、その流れも戻りつつある。例えば新規事業開発の取り組みを、社内ビジネスコンテストを中心とする様々な手法で検討・再開している企業も多い。
再びの支援をする中で感じることは、著者の意見と同じく、「リソースにあふれる大企業だからこそ新規事業を積極的に取り組むべき」ということである。
一方で、大企業の新規事業開発を阻むポイントは2019年当時からあまりアップデートされていないように感じる。すなわち「既存事業の戦略立案と同じ思考法で新規事業を考えてしまっていること」また「大企業の確立された組織・システムに縛られて新規事業開発をしようとしまっていること」などだ。
新規事業開発の書籍には、スタートアップの思考法であるリーンスタートアップやそこに関連する思考法などのHowがクローズアップされたものが多い。しかし大企業の場合は前述のような、Howよりも前の、大企業内のリーダーシップや組織、システム、またテーマの方向づくりなど事業開発を開始する前の手立てが重要だ。この点、Howと共にその更に前の段階についても言及している本書の意義は大きい。
大企業で「新規事業開発をやりたい」という当事者はもとより、「新規事業開発の体制をつくりたい」という経営陣、新規事業開発の担当者まで幅広くこの書籍に触れていただき、自社のアップデートを一考するきっかけとしていただきたい。
『新規事業の実践論』
著者:麻生 要一 発行日:2019/12/6 価格:1,980円 発行元:NewsPicksパブリッシング