未顧客という聞き慣れないフレーズに興味を惹かれ本書を手にとってみた。著者によれば、未顧客とは「買ってくれないノンユーザー層」、「買ってくれても年1、2回程度のライトユーザー層」に加え、「平均的なターゲット像に当てはまらない少数派の顧客」を合わせた呼称だそうだ。そして著者は、ビジネスを伸ばすなら未顧客の獲得を取り込むことが大事である、と唱えている。
ロイヤル顧客の光と影
ここ数年のマーケティングは、ファンづくりやコミュニティ形成といったロイヤリティの高い顧客基盤形成が脚光を浴びていた。確かに、競合に流れることなく繰り返し自社製品を購買し続けてくれるロイヤル顧客の存在はありがたいものである。何より深い付き合いから得られる定性・定量データを踏まえた顧客理解が進んでいるので、どうすればファンが喜ぶかがわかっておりビジネスがしやすい。
だが一方で、たとえロイヤル顧客と言えども何でもかんでも購入してくれるわけではない(顧客側にも予算制限等の事情はあるだろう)し、何かのきっかけでロイヤル顧客から離脱するリスクも常に付きまとうものである。また、カテゴリーによってはそもそも強力なファンの存在が作られにくいものも存在する。ということで、見えている顧客だけを相手にするのみでは事業成長が順調ならざるものになる理由が見えてくる。
見えていない顧客をいかに獲得するか
本書のハイライトは未顧客の獲得に向けたアプローチ、とりわけ対象理解の部分をわかりやすく整理しているところにある。例えば行動観察では目に見えたことをとりあえず記録はするものの、うまく整理ができずに結局行動の裏側にあるニーズにたどり着けない、ということがある。そこを本書では、「行動」を軸にしたアプローチで解く。行動を起こさせた「きっかけ」や「欲求」、行動を牽制しうる「抑圧」、行動の結果もたらされるであろう「報酬」と整理することで、一連の行動の中にある合理的な判断を洞察し、対象とする未顧客を獲得する上でのポイントの考察を助けている。
見えている顧客もやはり大事
この顧客情報整理のフレームワークは既存顧客の理解にも適用可能だろう。私がお付き合いのある方たちに「御社のロイヤル顧客が御社製品を買い続ける理由は何ですか?」と問うてみると、意外なほどわかっていない状況に出くわすことがある。知らず知らずのうちにロイヤル顧客のニーズと自社製品の提供価値にズレが生じ、顧客基盤からの離脱を防ぐためにもロイヤル顧客の合理についても考えることをおすすめしたい。
改めて事業成長における顧客理解の重要性を感じさせてくれた一冊であった。
『“未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』
著者:芹澤 連 発行日:2022/6/17 価格:2,420円 発行元:日経BP