GWはいつもと少し違う動画や映画を楽しんではいかがでしょうか?グロービス経営大学院 教員によるおすすめ動画・映画を紹介します。
『バイス』~志なき国のトップ層による危機
推薦者:嶋田毅
本作は、アメリカのジョージ・W・ブッシュ(ブッシュJr.)大統領の下で副大統領を務めたディック・チェイニー副大統領の半生を描いたものだ。Viceというタイトルは、バイスプレジデントのバイスと、「悪」を示すバイスを掛けたものだ。
さて、近年はビジネスでもパーパス経営が大流行である。志こそが企業にとっても個人にとっても大切と言う発想だ。一方で、そうした志のない野心家が術数を駆使して組織の頂点に立つこともあるのが現実の世界である。チェイニーは後者である。
そして、そうした志のない人間が一国のほぼ頂点に立った時にどのような危機が生じるかを示したのが本作ともいえる。チェイニーの指導によって本来必要のないイラク戦争が起こり、さらには後のISの台頭を促してしまった。ただ、チェイニーも最初から志がなかったわけではない。若いころ、当時の上司であるドナルド・ラムズフェルド(フォード政権、ブッシュJr.政権で国防長官)に「理念はどこに?」と聞いた時に、ラムズフェルドが「理念?笑わせる」と答えたシーンが印象的だ。
そうした上司に仕えたことが、チェイニーの生き方をも変えてしまった。若いころの上司の重要性を示す事例ともいえる。正直、映画を観た後の感覚は人によっては好ましくないものもあるだろう。ただ、そうした現実があるという点に目を背けてはいけない。アメリカの政策決定のプロセスを知る上でも参考になる一作である。
映画『バイス』(アメリカ/2018年)監督:アダム・マッケイ
『ドリーム』~偏見や思い込みを捨て「夢」に向かいたくなる映画
推薦者:林恭子
最近は当たり前のように「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という言葉を使うようになりました。でも、その本当の意味をどのくらい実感知としてお持ちでしょうか?この映画は真の意味での「D&I」の有り方を考えさせてくれます。ダイバーシティマネジメントの目的は、単にそこに多様性を増やすことにあるのではありません。多様性を増やした結果として、素晴らしい成果が生み出されることが目的であり、そのためには多様な人々が「受容」され「活か」されなくてはならないのです。
「ソ連に後れを取り続ける米国の宇宙開発を世界トップに押し上げる」という難題を叶えるために、何が本当に必要なのか――。NASAスペース・タスク・グループの責任者ハリソンは、ある日、その鍵が「人種、性別、前例といった全てのことを省いて、最高の能力を活かすことだ」と気づき、黒人女性で優秀な計算手のキャサリンを抜擢します。
またもう一人の黒人女性のドロシーは、密かにコンピューター言語を学び、当時操作が難しく、もてあまされていた巨大なIBMコンピューターを使い活躍します。彼女は、学び成長し続けることの重要さを感じ、後輩の黒人女性達にも積極的にコンピューター言語を学ばせていきます。
D&Iを阻むものの一つに、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)があります。「私には(人種)偏見はないわ」と言いつつも、黒人女性にマネジャーのポストを与えようとしない白人の女性管理職の中にも。そして、「どうせ女の私は、エンジニアになれないのよ」と思い込む黒人女性のメアリーの中にも。しかしそんなメアリーに、ユダヤ人男性上司はこう声をかけるのです。「自分だって戦時中なら収容所にいたかもしれない。時代は変わる。諦めてはいけない。我々は夢に生きているんだよ」。
全ての人が思い込みや偏見を捨てて、輝かしい未来のために、持ちうる力を存分に発揮していく――。見終わった後、きっと皆さんもそんな未来を「夢」見たくなる、そんな映画だと思います。
映画『ドリーム』(アメリカ/2017年)監督:セオドア・メルフィ
「アプレンティス:ONEチャンピオンシップ版」~アジア・グローバルビジネスの今を感じるリアリティショー
推薦者:名藤大樹
「日本の若手ビジネスパーソンは、バチェラー・ジャパンよりも、この番組を見たほうがよいと思う」。本作を見た同僚がもらした言葉です。
舞台はシンガポール。一代でスポーツエンターテイメント企業を立ち上げたチャトリCEOの補佐役(年俸約3000万)の椅子を巡り、世界各国から集まった16名が課題をこなして争う全13回のリアリティーショーです。グローバル企業CEOのプレゼンス(語りぶり)、その参謀の有能さ、多様性のあるメンバーでのプロジェクトの進め方、自己アピールの仕方、窮地に追い込まれた際のいいわけの仕方、など、どれも「日本の会社」のありかたとは違います。
毎回のビジネス課題もデジタルマーケティングやSDGsなど世界のトレンドを示すものです。交わされているビジネス英語もリアル感あり、語学題材としても秀逸です。今、外国のビジネスはどんなモノなのかな、と漠然と思っている方、ぜひご覧ください。ビジネスプランコンテストやインターンシップに関わる方は特に必見です。
最後にこの番組を見る態度についてのアドバイス。この番組は「プロレス」だと思って見てください。その心は、虚の中に実があり、実の中に虚がある。半信半疑で笑いながら、でも真剣に見る。これにより、何倍にも味わえる番組です。
『英雄の証明』~過度な期待と勝手な失望
推薦者:本田耕一
21年度のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した『英雄の証明』は、現代イランを代表する監督アスガー・ファルハディの最新作で、「コミュニケーションのすれ違い」を描いた作品です。
あらすじは、とある事情により服役している男性(主人公)が一時退所中に高価な金貨を拾ったが、着服せずに持ち主に返したことで世間から注目を浴び、英雄視されるようになる。けれども、ちょっとした言葉のアヤや誤解から意図せぬ方向に転がり続け――
英雄視されたがために聖人君子であるべきかのような世間の期待を背負わされる主人公、主人公に貸した金を返してもらえないにも関わらず、“英雄”から借金を取り立てる悪人として世間から悪意の目を向けられる債権者、“英雄”を出した名誉を守りたい刑務所の責任者等、登場人物たちの行動はそれぞれには合理性があります。しかし、曖昧さが誤解を生んだり、過度に期待をされ勝手に失望されたり、正しいと思ってとった行動が思わぬ展開を呼び、追い詰められていきます。
職場でもプライベートでも、はたまたSNSでも「あるある」なすれ違いのシーンに、ハッとさせられる作品です。コロナ禍以降、これまでの対面によるコミュニケーションから、オンライン会議やSlackのようなテキストコミュニケーションの頻度が増え、この手のコミュニケーションのすれ違いをこれまで以上に感じる方も多いのではないでしょうか。そうした方にぜひ見てほしい映画です。
本作の顛末の背景にはイランの文化や慣習も影響します。宗教的しきたり等にも触れられるので、グローバル・パースペクティブ(国際的視野)を養う題材としてもお薦めです。
映画『英雄の証明』(イラン/2022年)監督:アスガー・ファルハディ
登山系Youtuber ~“好き”を副業に
推薦者:難波美帆
人々の時間を、各種メディアが奪い合っている。「情報通信白書」(総務省令和2年版)によれば、10-30代までではネットの利用時間がテレビ視聴時間を上回っており、若い層ほどその差は顕著だ。一方、watcherとしてインターネットを活用するだけでなく、ビジネスに、自己実現に、情報発信者としてメディアを使う人も増えている。
今回ご紹介するYoutube動画は、登山好きの会社員から数万人のファンを持つYoutuber登山家になった女性たちのチャンネルだ。好きが高じて、情報発信者としての才能を開花させ、専業Youtuber以外にも、
私も登山をするため、
夢を叶えたい人、好きを副業にしたい人、登山したい人、絶景を見たい人、自然に癒されたい人に、彼女たちの動画をおすすめしたい。
「とよの山遊び」 とにかく映像が美しい。テントや機材を担ぎ、撮影に時間をかけてゆっくり登っているかと思いきや、ルートとコースタイムを考えるとかなりの健脚。
「かほの登山日記」2020年から専業Youtuber。動画は初心者に役立つ登山のノウハウがいっぱい。親しみやすさが人気。
「MARiA麻莉亜」(下記)単独で積雪期登山や国内屈指の難ルートにも挑戦するフィットネストレーナー。
『千と千尋の神隠し』~ハクに学ぶエンゲージメント(関わり)とは
推薦者:松林博文
日本における組織と社員の関係性(エンゲージメント)は毎年低下し現在は世界最下位レベルといわれています。2001年に公開された「千と千尋の神隠し」を「エンゲージメント」視点で読み解いてみましょう。
森の中のトンネルの先(社会)にある湯場(会社)で働くことになった不安な千尋。アイデンティティーを社会の中で無くしてしまいそうな千尋をハクが助けます。
「こわがるな、私はそなたの味方だ(支援・承認)」「つらかったろう、さ、お食べ(承認・支援・成長・自己実現)」「千尋はよくがんばった(承認)」「ありがとう私の名はニギハヤコハクヌシだ(感謝・自己開示)」「さ、行きな 振り返らないで(支援・未来・成長・自己実現)」。
ハクの千尋への言葉にはいずれもエンゲーメントの重要な要素である「承認、支援、感謝、開示、成長」が含まれています。
みなさんも初めて社会に出て働き出した時、きっと不安な出来事もあったことでしょう。新入社員や新しく部門に配属されて来た人はみな千尋のように不安を感じ、放置しておくとエンゲージメントは低下していくものです。
マネージャーは部下を指導するだけではなく成長を促すサポーターの役割も担っているのです。最後の言葉は「さ行きな振り返らないで」。千尋の成長と自己実現を後押ししています。エンゲージメント男子ハクは、私たちに先輩としての心構えを伝えてくれているのです。
映画『千と千尋の神隠し』(日本/2001年)原作・脚本・監督:宮崎 駿