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スタートアップはユニコーンになっても失敗の崖っ淵にいる

投稿日:2022/04/09更新日:2022/04/21

今年3月発売の『起業の失敗大全』から「はじめに」の一部を紹介します。

前回は起業のアーリーステージにおける典型的な失敗例を3つ紹介しました。今回は、アーリーステージを乗り越えたスタートアップが失敗するパターンを3つ紹介します。特に昨今のスタートアップは先行投資型のIT企業が増えています。そうなると、たとえユニコーン(時価総額10億ドル企業)にまで成長したとしても、営業利益は赤字でいまだに投資フェーズということが多々あります。その結果、最終的に黒字化を実現できないままついには投資家も諦め、事業閉鎖に追い込まれるといった例も少なくありません。スタートアップは成長のスピードを巧みにコントロールしながら適切に経営資源を集めないと、ある程度大きくなってもやはり失敗してしまうものなのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

レイターステージの失敗

悪い相棒、フライング、擬陽性に耐えたスタートアップは、青春時代の成長の痛みに立ち向かうことになります。スタートアップは、創業期を過ぎると死亡率が下がると言われています。しかし驚いたことに、VCはレイターステージのスタートアップへの投資の約3分の1で損をしています。何が起こっているのでしょうか?

スピードトラップ

レイターステージの失敗例を調べてみると、軌道に乗る前にかなりの人気を得ていたものが多くありました。その代表例が、本書で紹介するファブ・コムや、グルーポン、ナスティーギャルなどです。これらのベンチャーは、私が「スピードトラップ」と呼ぶ、似たようなパターンで終焉を迎えました。

スピードトラップに陥ったベンチャー企業は、魅力的な機会を見出しています。アーリーアダプターがプロダクトを受け入れ、その噂を広めます。これにより、マーケティングに過度に投資することなく、より多くの顧客を引き寄せることができます。また、初期の急速な成長は、投資家を魅了します。投資家は、高額な株価での投資を正当化するために、積極的な拡大を求めます。起業家もまた成長を望みます。

そしてマーケティングを集中的に行った結果、当初のターゲット市場は飽和状態となり、さらなる成長のためには、顧客層を広げて新たなセグメントを獲得する必要があります。しかし、次の顧客層は、アーリーアダプターほど提供価値に魅力を感じていません。新しい顧客は消費金額も少なく、再購入してくれる可能性も低くなります。

同様に、クチコミで紹介してくれる可能性も低くなります。その結果、企業が成長を続けるためには、マーケティングに多額の費用をかけなければならず、顧客獲得コストが上昇してしまうのです。

その一方で、スタートアップの急成長はライバルを引き付けます。競合は優位性を構築すべく、価格を下げたり、プロモーションに資金を投入したりします。ある時点で、新規顧客の獲得には顧客がもたらす価値以上のコストがかかるようになります。ベンチャー企業が資金を使い果たしてしまうと、投資家はさらなる資金の提供を渋るようになります。これを受けてCEOはブレーキを踏み、成長を鈍らせ、現金の流出を抑えるために人員を削減します。会社は存続するかもしれませんが、株式の評価額(バリュエーション)は急落し、投資家は大きな損失を被ることになります。

助けが必要

私が「助けが必要」と名付けた、もう1つのレイターステージの失敗パターンでは、高成長が別の問題を引き起こします。アーリーステージの失敗パターンである「良いアイデアと悪い相棒」と同様に、レイターステージのスタートアップ企業は、2種類のリソースの不足が原因で失敗するのです。

1つめは資金調達に関するものです。 1990年代初頭のバイオテックや、2000年代後半のクリーンテック(クリーンエネルギーに関するテクノロジー)のように、ある産業セクターが突然、VCの人気を失うことがあります。下降気流に乗ってしまうと、健全なスタートアップでさえ新たな資金を集めることはできません。資金の枯渇は、数力月から数年にわたって続くこともあります。急成長中のスタートアップが新たな資金調達をしようとしているときにこうした旱魃が始まり、急激には支出を減らせないのであれば、その企業は生き残れないでしょう。

2つめのタイプは、シニアマネジメント・チームのギャップに関するものです。規模が拡大しているスタートアップでは、エンジニアリング、マーケティング、財務、オペレーションなどの分野で急速に拡大する従業員を管理できる、各分野に精通したシニアマネジャーが必要です。このような人材の採用を遅らせたり、不適切な人材を採用したりすると、戦略の迷走、コストの高騰、組織文化の機能不全などを招きます。

奇跡の連鎖

VCから何億ドルもの資金を調達し、何百人もの従業員を雇用したにもかかわらず、十分なトラクション(牽引力)を発揮できなかったレイターステージのスタートアップもあります。いずれの企業も、非常に野心的なビジョンを掲げ、以下のような課題を抱えていました。

  1. 行動を根本的に変えるように多くの顧客を説得すること
  2. 新しい技術を使いこなすこと
  3. 強力な企業と提携すること
  4. 規制緩和などの政府の支援を得ること
  5. 膨大な資金を調達すること

どの課題も「やらねば死ぬ」の命題です。どれか1つでも失敗すれば、ベンチャー企業は破滅します。どの課題も50%の確率で良い結果が得られると仮定しても、5つすべてが良い結果になる確率はたったの3%です。この賭けに勝つために、起業家は「奇跡の連鎖」に賭けるのです。

イリジウム(モトローラの衛星電話、衛星インターネット接続サービスのプロジェクト)やセグウェイ(電動立ち乗り二輪車)など、「奇跡の連鎖」のパターンをたどったレイターステージのスタートアップの中には、伝説的な大失敗に直面した企業もあります。最近の例では、スカイプ(クロスプラットフォーム対応のコミュニケーションツール)の創業者がユーチューブに対抗して立ち上げた、ジューストがそうです。このようなベンチャー企業は、カリスマ的な起業家が、従業員や投資家、戦略的パートナーを魅了し、まばゆいばかりの未来を切り拓く機会を提供することで、立ち上げられることが多いものです。

あとから考えれば、なぜ「奇跡の連鎖」に頼ったスタートアップが失敗したのかがわかります。しかし、その場では、起業家の「世界を変える」というビジョンが妄想であるかどうかを判断するのは、難しいものです。今この時も、懐疑論者たちはイーロン・マスク(電気自動車のテスラの経営者かつ宇宙輸送サービスを行うスペースXの創業者)の正気度や、テスラの長期的な存続可能性について疑問を呈しています。「奇跡の連鎖」の失敗パターンを回避するための確実な方法はありませんが、本書ではいくつかの早期警告のサインを紹介します。

起業の失敗大全 スタートアップの成否を決める6つのパターン
著者:トム・アイゼンマン 訳:グロービス 発行日:2022/3/30 価格:2,970円 発行元:ダイヤモンド社

グロービス出版
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