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『ジョブ理論』書評――イノベーターは顧客のジョブをどう片づけるべきか?

投稿日:2017/09/23更新日:2020/02/27

「ドリルを買う人はドリルが欲しいのではない。穴が欲しいのだ」(セオドア・レビット)。そう、顧客ニーズを中心に据えるべし、がマーケティングの基本だ。ところがビジネスの現場では依然としてドリル、つまり製品を中心に据えがちである。なおかつその慣性は強い。実はこのことがイノベーションの阻害要因となっているのだ。

顧客を中心に据えた問いは、「“何を”買うのか」ではなく「“なぜ”買うのか」である。『イノベーションのジレンマ』の著者による最新刊は、その“なぜ”を20年もの長きに渡り探求した成果だ。顧客の「片づけるべきジョブ(Jobs To Be Done)」こそ消費の基点、というのが本書の主張である。人々がモノを買うということは、何らかのジョブを片付けるために何かを「ハイア(雇用)」することだと。役立たずで「ファイア(解雇)」されることのないよう顧客に継続的にハイアしてもらうことが、イノベーションへの道だという。

具体的にはまずジョブを把握し、プロダクトやサービスに落とし込む。それを組織全体で統合されたプロセスに沿って提供し続ける。これが本書の構成にもなっている。言ってしまえばそれだけのことで、レビットの時代から分かっていたことだ。それくらい「わかる」と「できる」「実践する」との懸隔は大きい。それを埋めるための「ジョブ“理論”」である。

その理論の詳細は本書に委ねるとして、特長を2点挙げておこう。

1つは顧客の「片づけるべきジョブ」に関する圧倒的な事例数である。有名どころから無名の組織・団体まで、「これでもか!」と迫ってくる。とりわけ惹かれたのは、中国市場に臨むP&Gの紙おむつのケースだ。「ジョブは機能面だけでなく、社会的および感情的側面も重要である」という大切な主張が、大人のウィットで語られる。肌触りとか厚さ、あるいは価格といった機能面ではなく、もっと複雑なジョブがあったのだ。ぜひ本書をハイアし、該当ページを読んでニヤリとしていただきたい。

もう1つの特長は、把握したジョブを組織展開する際のポイントをいくつかの落とし穴と共に提示し、実践性を高めている点だ。プロダクト上市後、ジョブではなく数字の管理に陥ってしまうことへの警鐘等は、とても説得力に富む。

他方で、前者のジョブに関する事例の圧倒感と比べると、後者の組織マネジメントへの示唆は相対的に弱く、淡泊な印象は否めない。イノベーションに悩む組織が持つ強い“慣性”という難所に対し、方向性を示すに止まっている点はやや残念だ。

ちなみに本書の原題は『COMPETING AGAINST LUCK』。運任せにせず如何にイノベーションを起こすのか、といった意味合いだろう。そう考えれば、未だに製品中心で顧客を顧みない企業・組織に対する、イノベーション啓発の書とも言える。先に指摘した課題は先送りしてでも、顧客の「片付けるべきジョブ」を中心に据えるコンセンサスを優先すべきであろう。

従い、もしあなたが「イノベーションを成功させる」、というジョブをお持ちであれば、ぜひともこの本をハイアして欲しい。そして周りの人々にも薦めよう。なるべく多い方がいい。クリステンセンが、あなたに代わり顧客ジョブについての理解と重要性を説いてくれる。やっかいな組織の慣性打破に一役買うこと請け合いである。

ジョブ理論
クレイトン・M・クリステンセン他(著)、依田光江(訳)
ハーパーコリンズ・ジャパン
2000円(税込2160円)

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