日々の仕事に、誇りを持って向き合うための方法論――『「ジョブ・クラフティング」で始めよう 働きがい改革・自分発!』

自分を起点に仕事を再創造し、やりがいを見出す

現在、働く人々の誰もが、それぞれの立場での困難を抱えている。

多くのビジネスパーソンは、「変化の激しい時代には、ますます自律が必要だ」という言説を受けながら、現場では個人の意思よりも組織の論理に合わせて働くことを要請されるという狭間に置かれている。また、コロナ禍の中で働き方の変化を余儀なくされたり、ライフステージの変化によって仕事を思い通りに実践できなくなる(介護・育児・病気)など、働き方に制約を持つ人々の存在も浮き彫りになっている。

加えて、これらの困難は、大きな社会的変化の中で生じているものでもある。自分の力の及ばない環境変化の渦中で、私たちはどのような働き方を見出せばよいのだろうか?置かれた環境をただ受け容れ、課された仕事を粛々とこなすことしか、やりようは無いのだろうか?様々な立場で、人々がそれぞれに制約や窮屈さを抱える中、どのように仕事へ向き合えばよいのだろうか?

この問いについて、本書は「ジョブ・クラフティング」というキーワードから、人々の働き方に対して新しい視点を提供する。ジョブ・クラフティングとは、働く人たち一人ひとりが、自らの仕事体験を自分にとってよりよいものにするために、3つのクラフティング――①タスク(業務の進め方の工夫)、②認知(仕事の意味付け)、③関係性(職場の人間関係の変化)――を行うことであり、本書はこれを、「仕事に自分のひと匙を入れる」という喩えで表現する。

職人のような特別なスキルがなくとも、あるいはマニュアルがしっかり決められた業務の中でも、仕事に「ひと匙」を加えることで、自分の持ち味を活かすことができる。若手でもシニアでも、立場に関係なく、能力や志向性に合わせて仕事を捉え直すことを通じて、主体的に考え方やアクションを変えることができると本書は指摘する。様々な制約がある中でも自分起点で仕事を再創造し、やりがいを見出せることにジョブ・クラフティングの意義があるのだ。

置かれた環境で、自分の工夫の余地を見出すという可能性

筆者は普段、KIBOW社会投資のメンバーとして、社会課題に取り組む起業家の支援をしている。本書の「制約の中でも主体的に創造性を発揮できる」という指摘を見て、筆者の頭に浮かんだのは、KIBOWの出資先の一つである株式会社バオバブの事業だった。

バオバブ社は、精神障がい等の働き方に制約を持った人々の力を通じて、企業や大学向けにAI学習データの作成を行っている。一般的に、障がいを持つことは大きな制約があると見られやすい。しかしバオバブで働く彼らは、自分に出来ること・出来ないことを理解し、仕事とのフィット感を見直しながら、やり方を工夫することを忘れずに続けていた。加えて彼らは、上手く仕事をやるだけでなく、自分の仕事の成果が顧客にどんな価値を届けられているのか、常に意識しながら前向きに取り組んでいた。

これは、まさにジョブ・クラフティングの実践であった。あるメディアの取材で、障がいを持つ当事者の方が、言葉少なながらも語ったセリフはとても印象深い。

「この自分のやっている仕事も、悪くないなって思えます」。

この一言は、筆者に大きな可能性と勇気を感じさせてくれている。

日々の実務の中で、ささやかな成功を積み上げる

ジョブ・クラフティングが注目するのは、経営戦略の派手な施策とは対照的な、職場における日々の創造性だ。日常的な工夫やちょっとした変化を通じて、少しずつ、しかし着実に学び成長する。そのささやかな成功の積み重ねから、私たちは、自分の仕事への意義と誇りを感じることができるのではないだろうか。

読者の中にも、目まぐるしい日々において、仕事への窮屈さや困難を抱える瞬間がある人もいるかもしれない。そんな時の手がかりとして、偉大な成功者たちの方法論に目が向くことは多い。しかし、仕事を「自分のモノ」とし、熱意を持って取り組むプロセスは、傑出したリーダーや経営者たちの勇ましい物語だけではない。職場で自分の仕事に向かう誰もが、それぞれの持ち場で「自分のひと匙」を加えることができる。そんな、小さいながらも重要な工夫を積み上げていくことの大切さを本書は提案している。

本書を通じて感じるのは、働く人々へ向けた、著者からの優しいエールだ。私たちは、誰もが自分の仕事を意味あるものにできる、誰もが仕事の中で自分の物語を描くことができる。そんな著者からのメッセージが本書には込められている。

「ジョブ・クラフティング」で始めよう 働きがい改革・自分発!~自分で仕事にひと匙、仕事の再創造が働きがいに~

著者:高尾 義明 発行日:2021年11月19日 価格:2,200円 発行元:日本生産性本部 生産性労働情報センター

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