昨年11月発売の『グロービスMBAミドルマネジメント』の第4章2節「コミュニケーションのマネジメント」の一部を紹介します。
ビジネスに限らず人間関係の土台となるのがコミュニケーションだ。研究によれば、コミュニケーションの質や量は、チームのアウトプットと緩い正の関係がある。コミュニケーションさえ活発ならばいいというわけではないが、やはりアウトプットを出しているチームでは良いコミュニケーションがなされていることが多いのだ。そしてチームのコミュニケーションの在り方に大きな影響を与えるのが、他ならぬミドルマネジャーだ。彼/彼女が寡黙でメールもほとんど発信しないようなら部署のコミュニケーションの頻度は下がるだろうし、ましてやマネジャー本人が乱暴な言葉遣いなどをしていては、それがチームにも蔓延してしまい、チームの生産性は下がってしまう。マネジャーは、自分こそがチームのコミュニケーションの手本となるべきことを銘記するとともに、良きコミュニケーションが活性化するよう、さまざまな施策を講じるべきなのである。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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コミュニケーション活性化のためのポイント
ではこうした好ましいコミュニケーションはどのように加速させればいいのだろうか。
さまざまな工夫が考えられるが、ここでは6つの手法を紹介しよう。
自ら率先するとともに、良いコミュニケーションを褒める
部署のコミュニケーションのレベル感(頻度やテーマの幅なども含む)は、通常、マネジャー自身のコミュニケーションスキルやコミュニケーションに対する意志のレベルを反映する。コミュニケーションを活性化したいと感じるのであれば、マネジャー自らが率先し、あるべきコミュニケーションを行うことが手っ取り早く効果も出やすい。
逆にいえば、マネジャーのコミュニケーションに関する意識やスキルが低いと、部署のレベルもそこにとどまってしまう。その意識を強く持ち、自分のコミュニケーションカや癖をメタレペルで把握し、スキルを伸ばしたり、コミュニケーションに前向きに取り組んだりする努力が必要だ。
好ましいコミュニケーションだと感じたら、その当事者を褒めることも効果的なやり方だ。たとえば、以下のようなメールでの発言などに「良いですね」といった返信をするなどである。
- 面白い視点を提供してくれた
- 受け取ったコメントに重ねて、多面的なものの見方を提供してくれた
- 皆が見過ごしがちな、顧客の生の声を伝えてくれた
- 皆が嬉しくなるような話(顧客に感謝されたなど)を共有してくれた
マネジャーがこうしたポジティブなコミュニケーションを目立つ形で称賛すれば、それが部署の規範となり、コミュニケーションはより好ましい方向に変わっていく。
なお、質や量とは別の次元の話ではあるが、ビジネスはスピードという側面もあるので、マネジャー自らが素早く反応し、部下の素早いレスポンスを称賛することも、部署のコミュニーションのペースを好ましいものにしていく。
前向きな発信を促す
コミュニケーションは量的に活性化されることも大切だが、やはりその内容が問題となる。たとえば業務のプラスにならないような私語ばかりが過度に増えては意味がない。もちろん、その中にもビジネスのヒントになるケースがあるので、私語がすべてノーというわけではないが、度を超すのは困りものだ。私語が多く「だれている」と感じるようなら、注意を促すことが求められる。
それ以上に問題となるのは、組織の雰囲気を悪くするような高圧的なコミュニケーションや、人の気分を害するようなコミュニケーションが増えることだ。マネジャーとしては、
- 相手に対するリスペクトを持つ
- ビジネスを好ましい方向に進める
- コミュニケーションの効果は受け手が決める(自分の伝えたいようには伝わらないことが多い)
といった基本を部下に折に触れ伝えることが重要だ。そしてそれを逸脱したコミュニケーションを発見したら、すぐに注意することが必要となる。
コミュニケーションしやすい雰囲気を醸成する
中には話しかけにくい雰囲気を醸し出す人間もいるが(例:イヤホンをつけて集中して仕事をしているなど)、そうした部下には、コミュニケーションを阻害するような雰囲気を出さないように指導することも必要だ。もちろん、「集中したい」という意識を持つスタッフもいるだろうが、そうした時でも話しかけられて嫌な顔をしない、といった規範は植えつけたいものである。
コミュニケーションを活性化する題材を提供する
コミュニケーションの活性化には、それについて議論したいと思わせるテーマを提供することも効果的だ。マネジャーとしてはそうしたテーマ(お題)を適宜提示し、メール上などで議論が生まれる状況をつくり出すことが望ましい。
たとえば「どうすれば顧客満足度が上げられるか」「何をすればビュワーが増えるか」といった議論を部下に提示するのである。部下同士がどんどん他者にアイデアを募るように促すのも効果的だ。
その際、多少ズレた発言があっても安易に咎めないことが重要だ。特に若い部下についてはそれが当てはまる。部下が萎縮しないように配慮しながら、「コミュニケーションに参加することに価値がある」と思ってもらえるよう促進することが望ましい。
業務の効率化でコミュニケーションのための時間を増やす
コミュニケーションが停滞する理由の1つに、「ルーティン業務が忙しく、他者とコミュニケーションする時間がない」というものがある。これは非常にもったいないことである。ただ、近年はさまざまなツールのおかげで、こうした壁も取り払われつつある。
たとえばかつては営業担当者であれば終日外出のうえ、会社に戻っても日報を書くのに忙殺されていたが、近年ではすぐに現場で営業の状況を入力できるスマホアプリなども登場している。それらを活用すれば、入力の手間は減るし、さらにそれを題材に同僚や上長にアドバイスを仰ぐといったこともしやすい。 先に触れた業務プロセスの効率化はこうしたところにも効いてくるのだ。
これらを積極的に活用し、無駄を減らしながらコミュニケーションを活性化することは、近年のマネジャーにとって必須の資質と言えるだろう。
非公式なコミュニケーションの場を設ける
昨今は「飲みニケーション」などは流行らない時代ではあるが、それでもある程度は柔らかい話ができる非公式的な場がある方が、お互いのことをよく知るきっかけともなり、公式のコミュニケーションをも促進する。煙たがられない程度にランチに誘って話をする、コーヒールームで雑談をするなどは、試す価値がある。その際、あまりメンバーが固定化しないように配慮することも必要だ。
『グロービスMBAミドルマネジメント』
著者:グロービス経営大学院 監修:嶋田毅 発行日:2021/11/30 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社
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