『イノベーション創造戦略 組織の未来を創り出す「三つの箱の解決法」』―“両利き”経営の「指南書」

“両利き”の経営は実践には難し

ここ数年、“両利き”の経営の重要性をよく耳にする。そのままではあるが、チャールズ・A・オライリー/マイケル・L・タッシュマン著の『両利きの経営』という書籍の影響が大きいことは間違いない。

既存事業を「深化」して競争力や収益力を高める経営と、新たな成長機会を「探索」して新規事業を創出する経営。“二兎を追う”ことで、未来を拓くのだと。

一方、その実践はなかなかにハードルが高い。既存の事業を推し進める組織能力と、将来的な事業を生み出す組織能力は、“水と油”のような関係で、相容れないことが多い。のみならず、既存の事業で培われた経験や習慣は、時には既存事業の更なる成長の阻害要因にもなりがちだ。そう、未来を築くには、何かを手放さなければならないのである。

三つの箱の解決法

というわけで、本書の原題(THE THREE-BOX SOLUTION)にもなっている「三つの箱の解決法」の出番である。「三つの箱の解決法」とは、既存のビジネスを最大限に生かしながら、時に新たなビジネスを創出するため、互いに矛盾する問題を認識するシンプルな枠組みである。詳細は本書に譲るとして、そのエッセンスを言えば以下の通りだ。

下記「三つの箱」のバランスをとることで、経営者は好業績の事業運営と同時に新規事業を創出するという組織内の緊張関係を解決できる、ポートフォリオ・マネジメントの一類型。

  • BOX1:「現在」を運営する
     中核事業を最大効率、最大利益率で運営する
  • BOX2:「過去」を忘れる
     新規事業には役立たない習慣や考え方を放棄する(中核でなくなった事業売却も含む)
  • BOX3:「未来」を創る
     新たなビジネスモデルを考案する

BOX1と3は、“両利き”で言うところの「深化」と「探索」に該当する。ユニークなのは、BOX2だ。「未来」に向けた事業創出のため、時には「現在」の事業成長のため、阻害要因となり得る「過去」を意識的に切り出し、格納する。この“仕分け”でマネジメントの実効性は飛躍的に高まるというわけだ。感覚的な話になるが、このBOX2を置くことによって、“両利き”の手触り感が一気に増したように思える。更に本文中には複数の事例が紹介されており、理解を後押ししてくれる。

実践の書として

実際のところ、本書を構成する紙数の大半は具体的な事例に割かれている。個別事象の一般化には慎重になるべきだが、個々の章末にある「重要ポイント」と「ツール」によって、実践性は担保されている。とりわけIBMの事業構造変革を取り上げた、第3章「過去を捨て去れ」は大変示唆に富む。その名の通りBOX2を中心とした題材で、組織に内在する問題点が日本の大企業との共通点も多いのだ。

ちなみに本書の監訳を担ったのは、エレコム代表取締役会長である葉田順治氏である。数多のビジネス書を読む中で、本書の著者、ビジャイ・ゴビンダラジャンの別の著書に感銘を受け、メールを送ったことで生まれた「偶然」のご縁だとのこと。本書が実践性に富むことと決して無縁でない筈だ。

実務家であり希代のビジネス書の読み手でもある、葉田氏お墨付きの「三つの箱の解決法」という切り口を持つことで、組織の未来を創り出せる可能性は向上する筈だ。偶然の出会いで生まれたこの一冊から、我々は未来を必然に近づけなくてはならないのである。

そういう意味で本書は、従来型の組織で「両利き」を推し進めようともがいている経営者や企画担当者にドハマリの一冊だと言える。或いは、今後この難題に身を投じたいと考える変革の志士予備軍の諸兄姉にも強くオススメしておこう。

イノベーション創造戦略 組織の未来を創り出す「三つの箱の解決法」

著者:ビジャイ・ゴビンダラジャン、葉田順治(監訳)、竹林正子(訳) 発行日:2021/9/15 価格:2,200円 発行元:ダイヤモンド社

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