韓国ドラマに描かれる家族の矛盾~「イカゲーム」世界的ヒットの考察第4回

Netflixの韓国ドラマ「イカゲーム」が話題です。9月17日の放映開始後28日間で1億1,100万世帯が視聴し、94か国で視聴ランキングの首位を獲得。Netflixでは過去最大のヒット作となりました。本稿では、その理由を探ります。1回目では日本発のデスゲーム系コンテンツとの比較を行い、2-3回目は現代の韓国社会が抱える問題とイカゲームの関係について分析しました。今回は同時期にNetflixで放映された人気ドラマ「海街チャチャチャ」との対比を通じて、その構造的な類似点を示します。

イカゲームで勝ち残った3人の共通点

ネタバレになりますが、イカゲームで最後に残った3人が自分の命よりも大事にしたのが家族(肉親)でした。自分が死んでしまうのであれば、せめて家族は幸せになってほしいと考えるのは珍しいことではありません。しかし、自ら志願してデスゲームに参加し、他人を押しのけて勝ち残ってきた人物たちの振る舞いとしては、少し違和感を覚えます。本当に家族を大事に思うのであれば、最初からデスゲームに参加しなければいいからです。

ここに、現代の韓国が抱える「家族をめぐる矛盾」があります。これは他の韓国ドラマでも頻繁に扱われるテーマです。また、この問題は現代の日本にも通ずる部分があります。

韓国では「脱家族化」が進んでいます。それは日本でも同じですが、韓国のほうが深刻です。

2019年のデータでは、人口1000人あたりの婚姻数と離婚数を示す「婚姻率」と「離婚率」を比較すると、韓国の婚姻率は5.0(日本は4.7)、 離婚率は2.1(日本は1.7)… 出生率は0.84(日本は1.36)と、特に出生率で差がついています。

婚姻率は日本より若干高いですが、減少傾向です。19年の5.0から20年は4.7に減少し、婚姻件数は2012年から8年連続で減少しました∗1。

韓国統計庁の調査の結果によると、2008年に結婚を「必ずすべき」「するのがよい」と回答した人は全体の68%だったのが、2018年には48.1%に減少、特に未婚女性は「必ずすべき」「するのがよい」の回答は22.4%だけだったとのことです。

韓国で、特に若い世代において脱家族化が進んでいるのはなぜでしょうか。その原因は、家族が嫌になったからとは限りません。むしろその逆で、薄れてしまった家族の絆を強く求めている可能性があります。それは、イカゲームで最後に残った3人の行動や、映画「パラサイト」が描く家族(家族ぐるみで、金持ち家族に寄生する)に表れています。

家族はセーフティーネットではなくリスクに

韓国では1960年代からの急速な経済成長によって、企業や工場で働く人々は伝統的な地縁・血縁から解放されて「個人化」しました。核家族化と世帯人数の減少は韓国だけでなく日本でも進んでいます。韓国では一般世帯全体の40.1%*2、日本では28.8%*3が1人世帯となっており、ほぼ3人に1人がソロ生活をしています。日本と韓国の大きな違いは、資本主義的な経済成長と民主化が「圧縮された形で」起きたことです。日本で7~80年かけて進んだ脱家族化をその半分の3~40年で進めたことで、家族に関する社会の歪みは大きくなりました。それが顕著に表れているのが、出生率の変化です。

現代の韓国と日本では共に出生率が低下して少子化が進んでいます。しかし、その歩みは大きく異なります。日本のベビーブームは第二次世界大戦後の45~49年で、その後は緩やかに出生率が低下していきました。日本だけでなく西欧諸国には移民を除いて同様の傾向が見られます。1960年の出生率は2.0でそこから少し回復し、恒常的に出生率2.0を切るようになったのは1975年以降です。50年近くかけて緩やかに減少し、現在は1.36です*4。

一方、韓国のベビーブームは朝鮮戦争後の55年から63年までですが、1970年時点でも4.5を超える「子だくさんの国」でした。その後、急速な都市化と核家族化が進み、一気に出生率は低下します。わずか14年後の1984年から出生率は2.0を切りはじめ、そこからさらに低下し現在は1を切りました。特に都市部では深刻で、ソウルの出生率は0.64と戦時状態の数値です*5。

韓国で脱家族化が起きている最大の理由は、第3回に書きましたが、昔は「セーフティーネット」だったはずの家族が「リスク」になってしまったからです。まず、老人の貧困によって老いた親と暮らすリスクが高まりました。加えて、子どもを持つリスクも高まりました。大学進学率の上昇によって子どもの教育費用は増えましたが、現代の若者は就職難(若年者の失業率が高い)のうえ、親の世話をしてくれる可能性は高くありません。子どもを持つのは贅沢な選択になりました。

イカゲームの主人公であるギフン(47歳)は娘が1人です。妻は彼と離婚して安定した収入がある男性と結婚しました。ギフンの幼馴染のサンウは中年男性ですが、母親以外の家族が出てきません。子どもや配偶者はいないようです。家族のリスクからほぼ解放されています。先輩であるギフンは少し前の韓国、後輩のサンウは現代の韓国を体現しているように見えます。

サンウはエリート会社員ですが、家計を支える働き盛りの中年にはギフンのような非正規や自営業が多く、生活が安定しません。韓国における自営業者の割合は日本の倍以上(25%前後)、非正規雇用も4割です(第3回参照)。そのため、家族はリスクでしかありません。これが脱家族化の最大の理由です。

韓流ドラマにあらわれる「個人化」と「脱家族化」

しかし、貧困だけでは脱家族化は起こりません。逆に、家族で助け合う方向に向かうこともあるはずです。例えば、映画『パラサイト』の家族です。とはいえ、現実は映画のようにはいきません。パラサイトは貧困家庭の痛みを描きつつ、家族の絆でそれを乗り越える物語を描きました。脱家族化とソロ化が進む中で、家族が最後のセーフティーネットになっている姿です。

IMF危機の前まで、韓国は儒教的な「親孝行」の社会規範の下、親の世話は子どもの義務だと考えられていました。親の扶養義務は子どもにあると考える人の割合は1998 年 の89.9%だったのが、約15年後の2014 年 には31.7%に急落しました。親孝行を放棄した子どもには後ろめたさがあるはずです*6。こうしたプレッシャーが、ますます脱家族化を加速させました。

家族がセーフティーネットにならずリスクでしかないとしたら、人々は何に頼ればいいのでしょうか。セーフティーネットが脆弱な状態で「個人化」が進んだ現代の韓国社会では、高学歴や高度な技能、権力者や資産家とのコネクションしか頼れません。そうした現実が韓流ドラマには如実に表れています。Netflixの最近のドラマでは、財閥御曹司とのシンデレラストーリー(「キム秘書はいったい、なぜ?」)と、その逆に悪徳な権力者や財閥を倒す話(「梨泰院クラス」「ヴィンチェンツォ」など)が典型的なパターンです。

これ以外だと、古き良き韓国のコミュニティーを描いたドラマもあります。新自由主義的な「個人化」と「脱家族化」が進む以前の、前近代的な地縁・血縁のネットワークがセーフティーネットになっている社会の話です。古き良き時代に救いを求めているのでしょう。そのドラマの典型が大ヒットした「愛の不時着」と、イカゲームと同時期に放映された「海街チャチャチャ」です。

第5回につづく

<参考>
*1  Demographic and Social Statistics|国連統計部 
*2  「単独世帯の増加「初めて40%超え」=韓国|WOW!KOREA
*3 2019年 国民生活基礎調査の概況|厚生労働省
*4 (世界発2021)韓国、止まらない超少子化 出生率、3年連続「1」割り込む=訂正・おわびあり|朝日新聞 
*5   韓国は本当に人口減少で消滅するのだろうか?|ニッセイ基礎研究所
*6 現代朝鮮研究 第17号特集4

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