PRのイメージ
企業が総力を挙げて開発した商品をいざ世の中に展開していくにあたって利用されるマーケティング施策の1つが広告宣伝だと思うが、その中でPR・広報活動はあまり活用されていないのではないか。そんな問題意識から本書を手にとってみた。
マーケティングにおける一般的なPRのイメージとはどんなものだろうか。パブリシティを例に取ると、商品に関するプレスリリースをメディア各社に配信し、運が良ければ小さな記事として取り上げられる。その後いくつのメディアに取り上げられたかがまとめられ、広告露出に換算するとおいくら万円の効果がありました、などの報告が上がってくる、差し詰めこんなところだろう。
ここには不確かなことが2つある。1つはメディア露出の有無、もう1つは広告換算の妥当性だ。このあたりは出稿者がダイレクトにコントロールできる広告と比べ、企業がPRに期待しづらい理由になっていると思う。
ところが、筆者はむしろマーケティングにPRを積極活用せよ、と主張するのである。
戦略PRとは
そもそも筆者がいう戦略PRとはなんだろうか。それは、世の中の関心を捉え商品を買ってもらうための空気をつくることであり、究極的な目的はビヘイビアチェンジ、すなわち人々の習慣的な行動の変容にあるという。企業が広告を通じて発信する直接的なメッセージが受け入れられにくい現代だからこそ、敢えて世の中に働きかけ、受け入れられやすい「理由」を作るのである。文字通りPRを戦略的に活用する意味がここにあるだろう。具体的に空気をつくるにおいては下記の6つの法則が重要なのだという。
- 「おおやけ」の要素 ― 「社会性」の担保
- 「ばったり」の要素 ― 「偶然性」の演出
- 「おすみつき」の要素 ― 「信頼性」の担保
- 「そもそも」の要素 ― 「普遍性」の視座
- 「しみじみ」の要素 ― 「当事者性」の醸成
- 「かけてとく」の要素 ― 「機知性」の発揮
それぞれの詳細については本書をご覧いただきたいが、この法則を理解すると普段我々がメディア上で目にする様々な情報が、もしかすると誰かのPR活動から生まれたものではないか、と感じることになるかと思う。ただしそうなると気になるのがステルスマーケティングとの違いだろう。これについても筆者は、関係性や編集権の視点からPRとの違いを説明している。ここは非常に微妙なところでもあるので、本書内の筆者の説明でご確認いただくことをお勧めする。
なお、本書は2017年に刊行された同名書籍の改訂版にあたるが、源流を辿れば2009年の『戦略PR』に行き着く。マーケティングの世界にもデジタル化の波が押し寄せ、メディアの有り様も大きく変わる中、事例を大きく入れ替えたことで「最新版」と銘打たれたそうである。取り上げられている事例はどれも興味深く、戦略的なPRとはかくあるべし、ということが理解しやすいと思う。マーケティングにかぎらず世の中との接点づくりに携わる方に是非一読をお勧めしたい。
著者:本田哲也 発行日:2020年8月20日 価格:1,320円 発行元:ディスカヴァー・トゥエンティワン