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交渉時に物理的環境が与える影響とは?

投稿日:2017/08/19更新日:2019/04/09

『グロービスMBAで教えている 交渉術の基本』から「舞台設計に関してコントロール可能な変数」を紹介します。

交渉は生身の人間が行うものですから、交渉を取り巻く物理的な環境にも少なからず影響を受けます。たとえば不動産業者との交渉で、先方に「いかにも」という感じの強面の同席者がいたら、仮にその同席者が何も言わなかったとしても、言いたいことが言えなくなるという方は多いでしょう。これは極端な例かもしれませんが、「いつ」(重要な会議の前か後か等)「どこで」(自社か先方オフィスか等)といったことも微妙に交渉の趨勢に影響を与えますし、当該の交渉以外の「場外戦」も含めて自社に有利な舞台設計をしようとする人間もいます。「気がついたら交渉を不利な立場で進めざるをえなかった」という状況を避けるためにも、こうした交渉の舞台設計の影響にも意識を向けたいものです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

舞台設計に関してコントロール可能な変数

舞台設計には具体的にどのようなコントロール可能な変数があるのかみてみましょう。ここでは実用上の有効性から以下の五つのカテゴリーを考えてみます。

(1) 交渉の時間軸/タイミング
これを考える第一の目的は、考える時間を確保する、あるいは他者の助言をあおぐ時間を確保することにあります。重要な契約について一方的に説明されたうえで即決を迫られたりしたら、相手のペースに乗らずにワンクッションおいて考慮する時間を確保する工夫をしたいものです。

逆に、何も材料を出さず進展させないまま単に時間を引き延ばして、相手の関心や情熱を奪ってしまうことも考えられます。もっとも、この方法は相手がどれだけ切迫しているかといった状況を知らずに行うと、余計な怒りを買ってしまうことにもなりかねないので、あまりお勧めはできません。

(2) 交渉の場所
場所を選ぶ目的にはいろいろありますが、気分的にリラックスできるか、交渉中に情報収集や助力を得ることが可能かといった点が主な考慮の対象です。

やや特別な例としては、ホテルの一室で行うなど、交渉当事者以外の情報が遮断される環境であることを予想させることで、内密で重要な論点であることを示す場合もあります。

また、いわゆる酒食による接待が交渉で多用される理由には、一義的には「酒食を共にすることで相手と腹を割った信頼関係を築く」という点がありますが、他方で「宴席の楽しさに気を紛らわせ、その隙に急所となる要求を通す/情報を引き出す」という意図がある可能性も無視できません。

(3) 同席者
同席者を置くことにはいくつかの目的があります。一つは、同席者をレフェリーとして機能させ、公平さを担保することです。傍聴者を参加させたり、レコーダーなどを置いたりといったことが該当します。特に、力関係の差がある場合、相対的に力の弱い方が公平を期すために客観的な第三者の立会いを求めることは有効な手段です。

このほか、相手の心理戦術に対する緩衝役という目的もありえます。たとえば、感情を露わにして強気に押してくる人が相手で、どうも冷静な対話ができないと思われるとき、相手を怒鳴ったりさせないために第三者を同席させるといった具合です。

(4) 使用言語(通訳の有無)
グローバル化の進む現代では、外国語を話す相手との交渉も想定されます。基本的には、重要なやり取りではなるべく通訳をつけることをお勧めします。相当その言語に堪能であっても、通訳無しではどこかしらで神経を使い、交渉そのものに集中できないからです。これは、交渉場所が相手の国という場合は、特に当てはまります。

もちろん、あらゆる場合に通訳をつけることは不可能でしょう。そうしたときは、相手の発言内容に対して、不用意に同意することは避けなくてはなりません。いちいち聞き返すのは気後れするなどの理由で不明瞭な点をやり過ごしてしまうのは、全く無為な行動と言えます。

(5) その交渉以外のやり取り
よく見られるのは、にこやかな挨拶や交渉前の雑談などを通じて、当該交渉以外の部分で「親密さ」を作り、その後の交渉を友好的に進めることです。人間は単純に接触回数が多い人に好感を抱くという性質もあるので、交渉の機会以外の時間・場所で顔を合わせる機会を多く作るのも一つの手と言えます。

もう少し人間関係を進めると、交渉以外の部分で何らかの形で「貸し」を作り、その貸しのあるうちに交渉を進めるというやり方もあります。人間の心理として、心の中に負い目があると、どうしてもその分を譲歩しようと考えてしまうものです(これを「返報性」といいます)。もちろん、さまざまな局面で一緒にビジネスをしている以上、全く貸し借りなしで通すことは不可能ですが、ビジネスパーソンとしては(特に交渉相手が外部の人間の場合)不用意につけ込む隙を与えないよう、注意すべきでしょう。

コラム:交渉そのものを回避する可能性

相手と何か論点になりそうなことが生じたら、常に交渉をしなければならないわけではありません。交渉もビジネスの中の一つの行為であり、「交渉すること」の費用対効果を考慮する必要があります。

交渉しなかったとして、何が起こるか。あるいは、交渉して得られるメリットはそれに投下する時間的・人的コストを上回るのか。こう考えたとき、交渉をしないという選択肢も十分ありえます。これは、新たに交渉を始めるかどうかの判断だけでなく、既に交渉中のもので妥結までの道筋が見えないケースなどにも当てはまります。

もっとも、「交渉を敢えてしないこと」にもデメリットは当然あります。将来論点が再燃する可能性があること、評判が悪化するなど別の分野で副作用が考えられることなどです。

しかし、現実的な解決策が見当たらない論点の場合や、互いの感情が高ぶって建設的な交渉ができない場合などは、物理的に敢えて交渉を進めず(あるいは、そこで打ち切ってしまい)、交渉しないことによる悪影響を小さくすることに注力した方が建設的な場合もあることは留意しておきましょう。

(本項担当執筆者:書籍・GLOBIS知見録編集部 研究員 大島一樹)

 

『グロービスMBAで教えている 交渉術の基本』
グロービス経営大学院  (著)
1600円(税込1728円)

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